「感恩報謝」の思いを胸に―。虎2年目の尾仲祐哉(阪神タイガース)
■プロ入り1年で移籍
昨年の虎1年目を「慣れるのに必死だった」と振り返った阪神タイガース・尾仲祐哉投手。
そりゃそうだ。広島経済大学から2016年のドラフト6位で意気揚々と横浜DeNAベイスターズに入団し、チームにも馴染み、初勝利も挙げ、さぁこれからだという年の暮れに突然、移籍の通達だ。大和選手のFA移籍に伴うものだった。
しかしプロ野球界では、ない話ではない。山崎康晃投手や今永昇太投手ら古巣の先輩たちは「逆にチャンスだぞ」「声がかかったっていうのは、いい評価をしてもらえたってことだぞ」と激励の言葉とともに送り出してくれた。
■ピッチャーズプレートの一塁側
“人的補償”―。嫌な響きの言葉だ。悔しくないわけがない。めちゃくちゃ淋しくもあった。それらを払拭するためには野球で結果を出すしかない。前向きに気持ちを切り替えた尾仲投手は、よりレベルアップすることを考えた。
まず昨年の春季キャンプ中、福原忍ファーム投手コーチのアドバイスに従って、ピッチャーズプレートの踏む位置を一塁側に変えた。
「真っすぐがシュートするんで、それなら外にしたほうが…って。外れてもいいところにいくし、内はより食い込んでいくから」。そう意図を説明する。「最初は違和感もあったし、戸惑った。景色も違った」。数センチとはいえ、全然違うという。
「でも徐々に慣れていった。ボールが抜けることも減ったから。ちょっと抜けても、真ん中らへんにいかなくなった。変えてよかった」と、今年も引き続き一塁側を踏んでいる。
■2段モーション
しかしシーズン序盤、なかなか本調子まで上がってこなかった。球速は上がり、バッターの反応からも傍目にはいいボールが投げられているように見えたが、それを問うても、試合後の尾仲投手はいつも首を縦に振らなかった。
「こんなもんじゃない…」。自身の納得いくレベルには達していないのだ。「真っすぐがうまく指にかからない。バランスじゃないですかね」。そう自己分析した。
色々と試した。「こうしたら?」というアドバイスを取り入れてやってみても、「しっくりいかなかった。もう、よくわからなくなった」と深みにはまっていったという。
6月27日に1軍の登録を抹消されたあと、ファームの試合で投げていても全然調子が上がらなかった。「バランスが悪くて、全然ボールに力が伝わらなかった。コントロールも悪かった。体が動かなくて、なんでかなって色々悩んでいた」。
1球1球バランスが違ったり、投げ急ぎもあったりした。「おかしいな」「おかしいな」と思いながら、フォームを試行錯誤していた。
ふと、かつての記憶がよみがえってきた。「一番、力感なく投げられるのはと考えたとき、自分の中では2段モーションだと思った。大学のとき若干、2段っぽかったので」。
ちょうどそんなときだった。テレビのスポーツニュースの特集が目に留まった。「誰かが2段モーションで投げてたんですよ。誰だったかな。思い出せないなぁ(笑)。一流のピッチャーだった」。“誰か”はどうでもよかった。“2段モーション”だけが尾仲投手の脳裏にくっきりと刻まれた。
これまで禁止だった2段モーションは昨年解禁になり、その“一流選手の誰か”が2段モーションに変えたと、その番組では伝えていた。「他の人も変えてるのを見て、アリかなと」。そこで、本格的にチャレンジすることにした。
「すぐにはしっくりいかなかったけど、徐々によくなって。後半は球速も戻ってきた。真っすぐでカウントが稼げるようにもなった。いい方向には向いていったかな」。今年に繋がるものを構築することができて、昨シーズンを終えた。
■「田原組」の自主トレで体幹の重要性を再認識
ルーキーイヤーを2度やったようなプロ2年だった。今年はより重要になる。昨季終盤のいい状態を維持するため、年末年始も大学に帰って休まずブルペンに入った。
尾仲投手にとって、いいときのバロメーターは「姿勢が真っすぐであること」と、「変なところに力が入らない力感であること」だという。それらを確かめながら、投げ続けた。
そして年明け早々の1月6日から、読売ジャイアンツ・田原誠次投手が中心となっている「田原組」で自主トレを行った。初参加である。
覚悟はしてはいたものの、想像以上のキツさだった。「最初、もう帰りたいって思うくらいしんどかった(笑)」。それくらい追い込んだ練習をする自主トレだ。もちろん途中で帰ることなく、悲鳴を上げながらも同20日までみっちりと体をいじめ抜いた。
そこでは体重移動や肩周りの可動域を広げるストレッチなど習得した。「体幹の必要性をより感じた」という。
投球時、まずマウンドに立ったとき、「姿勢が真っすぐであること。前かがみになって重心が前にならないように。自分では真っすぐのつもりでも、まだつま先重心になっていたりするので、よりかかとに」と、“かかと重心”を意識することが重要だという。
「自分的にはすごく反ってる感じ。最初は違和感あったけど、これに慣れて違和感なく投げられるようにしないと」。とはいえ、反りすぎると腰に負担がくる。その加減は難しいところだ。
キャンプ中のブルペンでも、“反りすぎず、かかと重心”を意識した。「立った位置でかかとに力を入れて重心を置いて、そのまま自然に。今のところ、いい感じではきている。これからどんどんバッターと対戦していって、反応を見ていきたい」。今後は実戦を重ねて仕上げていく。
セットからの真っすぐ、クィックでの真っすぐなど、「自分の納得いくボールを」と、さらに精度を上げていきたいと意気込む。
自主トレで指導にあたったテクニカルコンサルタントの小出大輔氏も「尾仲投手はもともと能力が高い。ただ、いいボールと悪いボールの境目がハッキリしていた。それが、いいボールの確率が上がっている。どこに体重を入れて立つか。こういうふうに立てば、次の動作にいきやすいというのがわかってきた。抜け球がなくなった」と、自主トレによる“進化”を明かす。
■感恩報謝
契約するメーカー、UPSET社のグラブの内側には「感恩報謝」の文字を刺繍してもらっている。「恩を感じた人に最高の礼をもって報いる」という意味で、「感謝」の語源になった四字熟語だ。
この言葉は、尾仲投手の中にいつもあるという。「グラブをはめるときに見えるし、常にそういう気持ちで野球をしているから」とうなずく。
お世話になった人、助けてくれた人、かわいがってくれた人…関わるすべての人に報いるには、1軍で活躍することだとわかっている。キャンプは安芸になったが、ここから開幕に向けどんどんアピールするつもりだ。
「1年はあっという間なので、1日1日が勝負。1試合1試合、1球1球、大切に投げたい」。こう言って、表情を引き締めた。
「感恩報謝」の気持ちをこめて―。
(撮影はすべて筆者)
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