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初の黒人、性的少数者、移民…新報道官の「成功の秘訣」とは? アメリカンドリームの裏である懸念も

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
ジャン-ピエール副報道官(左)と抱擁を交わすサキ報道官(右)。(写真:ロイター/アフロ)

ホワイトハウスの名物報道官、ジェン・サキ(​​Jen Psaki)氏が13日、退任する。

バイデン政権の優秀な右腕として名を馳せた同氏は、定例記者会見で報道陣からどんな変化球が飛んできても瞬時にさばいていくキレキレの姿が印象的だった。今後はMSNBC局のテレビ司会者に転職することが報じられている。

そして、早くもサキ氏の後任にあたる女性が指名され、注目を浴びている。

カリーン・ジャン-ピエール(Karine Jean-Pierre)副報道官(44)だ。彼女は黒人として、また性自認や性的指向がどれにも当てはまらない「クィア」を公言しているLGBTQ+の女性として、初のアメリカ大統領報道官になる。また、外国生まれの移民というバックグラウンドも持つ。

ジャン-ピエール氏はカリブ海のマルティニーク島でハイチ人の両親の下に生まれた。幼少期に家族と共にアメリカに移住し、NYFPCの情報によるとタクシー運転手とヘアサロン経営者*の両親の下、ニューヨークのクイーンズ区で育った(現在の国籍はアメリカ)(*母親は訪問介護士だったという情報もあり)。

ニューヨーク工科大学やコロンビア大学を卒業し、2008年と12年の大統領選ではオバマ陣営のスタッフとして、20年の大統領選ではハリス陣営のスタッフとして支えてきた。

ホワイトハウスの定例記者会見でジャンピエール氏を紹介するサキ氏。
ホワイトハウスの定例記者会見でジャンピエール氏を紹介するサキ氏。写真:ロイター/アフロ

5日、サキ氏は「友人でもあるこの素晴らしい同僚が、黒人の女性として、またLGBTQ+(を公言する)の人物として初めてこの任務にあたることを嬉しく思う」と紹介した。

ジャン-ピエール氏は「これは歴史的な瞬間で、非常に光栄です」と、記者団にあいさつした。

「有色人種の女性として、この任務に自分がいつか就くことは懐疑的だったか(自信はなかったか)?」という記者の質問に対して「いいえ、まったく」と答えた。「ただ(ここに到達するのは)茨の道だったことは確かだ」と語った。

NYFPCの情報によると、両親は娘に医者になって欲しかったようだが、ジャン-ピエール氏は医学部の入学試験に合格せず、挫折を味わった過去もあるようだ。

同氏によると、大学で教鞭を執ったことがある経験から、学生に「どのようにここまでのキャリアにたどり着いたのか?」とよく聞かれるという。そのたびにこのように答えるという。

「情熱に従いなさい。あなたが信じるものに従いなさい。そして目標にフォーカスしなさい。そうしたら実現します。もちろんたまには落ち込むことも、大変な時期もあるでしょう。いつも簡単には進みません。しかし(一生懸命に目標に向かっていれば)その見返りは素晴らしいものがあります。あなたが自分に正直であるならば、特に」

このニュースを報じたCBSニュースのベテランアンカー、アン・マリー・グリーン氏は「これぞアメリカンドリームです」と、自身の番組でコメントした。グリーン氏も黒人のルーツを持ち、外国(カナダ)出身だ。

これまで、ジャン-ピエール氏はクィアとして相当な苦労を重ねてきたようだ。昨年のプライド月間に、これまでの困難を回顧する内容をツイートしている。

ツイートは、このような概要だ。

今では自分や自分の家族を認めてくれ誇りに思ってくれる母親。だが自分が16歳の時に告白した際のリアクションに傷ついた。不快な表情をされ、私はクローゼットに逃げ込んだ。その後何年にもわたって、私のセクシャリティ(セクシュアル オリエンテーション、性的指向)は家族だけの秘密となり、自分も家族に秘めた交際をしていた。アメリカ社会がこの数十年間でLGBTQコミュニティを受け入れようと進化してきたように(我々にはまだ課題があるが)、私の家族も進化してきた。自分が自分を受け入れ、また愛する人にも自分が受け入れられていると感じるまでの道は容易ではなかった。でもここに到達したのには価値があることがわかった。同じような問題に直面しているLGBTQ+の人々を応援する。

ジャン-ピエール氏の現在の私生活についても、いくつか伝えられている。同氏は長い付き合いとなるパートナーのスザンヌ・マルヴォー(Suzanne Malveaux)氏と7歳の娘と共に、ワシントンD.C.で暮らしている。

スザンヌ・マルヴォー氏。
スザンヌ・マルヴォー氏。写真:REX/アフロ

報道官という大役に就く祝福ムードの中で、今後を懸念する声も一部で上がっている。それはこのマルヴォー氏がCNN局のベテランレポーターだからだ。つまりジャン-ピエール氏の人事は厄介な問題を引き起こしかねないとして、懸念されているというのだ。

CNNは昨年、同局の看板アナだったクリス・クオモ氏がセクハラ問題を起こした兄アンドリューを援護するなどし、メディアと政治の癒着や報道の公平性が問題視されてきた。

サキ氏にしろ、左寄りのネットワークであるMSNBC局へのキャリアチェンジが明らかになって以降、6週間もの間、政権の要の仕事をし続けている。

この件についてCNNは公式にコメントを出していないが、「パートナーが新任務にあたる間はマルヴォー氏はホワイトハウスやそのほか政治系のニュースをカバーしない」とする関係筋のコメントが報じられた。報道機関で働くパートナーとの間で、国の最高機密が筒抜け、ということは何としても避けなければならない。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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