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「昭和の特撮怪獣」が好きな人、集まれ! 秘密結社的な深夜ドラマ『怪獣倶楽部~空想特撮青春記』

碓井広義メディア文化評論家

現在、深夜ドラマ「怪獣倶楽部~空想特撮青春記」(毎日放送制作)が放送されています。

舞台は1970年代。ずいぶんざっくりした時代設定ですが、要するに60年代後半に「ウルトラマン」や「ウルトラセブン」を見ていた少年たちが、高校生以上のいわゆる青年になった頃のお話、ということですね。

主人公の大学生・リョウタ(本郷奏多)は、“特撮怪獣”好きの仲間たちと同人誌を作っています。そこに掲載する評論の内容をめぐって、喫茶店で展開される熱い議論こそがこのドラマのキモです。

ウルトラシリーズや怪獣にまったく興味のない人にとっては、何を言い合っているのか不明かもしれません。それくらいマニアックな内容ですが、そもそも特撮や怪獣やウルトラマンやセブンや円谷プロなどに興味のない人は見ないだろうし、このドラマはそれで構わないと思います(笑)。

実相寺昭雄監督の名作「狙われた街」

第1回で登場したのは、実相寺昭雄監督が演出した「ウルトラセブン」4本のうちの1本である「狙われた街」でした。地球侵略を目論むメトロン星人が、吸引すると凶暴になる薬を自販機の煙草に仕込み、人間社会を混乱させるという物語です。

狙いは人間同士の“信頼感”を破壊することにありました。まずは“心の絆”を断ち切って、この星を支配しやすいものにしようというわけです。古い木造のアパートの四畳半で、セブンとメトロン星人が丸い“ちゃぶ台”をはさんで向かい合うという、実相寺監督らしいシュールな「名場面」で知られる1本です。

リョウタが参加している怪獣倶楽部の主なメンバーとしては、キャップ(「ウルトラマン」における科学特捜隊、ムラマツ隊長の通称)と呼ばれているリーダーが、ドランクドラゴンの塚地武雅。ナンバー2は長髪のジョー(「ウルトラ」シリーズに登場するロボット怪獣・キングジョーが由来ですね)で、柄本時生です。

彼らは、この作品のテーマや実相寺監督と脚本の金城哲夫の組み合わせや、作曲家・冬木透による音楽などについて、文字通りマニアックなやり取りを交わしていきます。70年代は、特撮好き、怪獣好きを公言するのが、やや恥ずかしかったり、照れくさかった時代と言っていいでしょう。リョウタもまた、つき合い出した彼女・ユリコ(馬場ふみか)には、この趣味のことをナイショにしています。

えーと、このユリコという名前は当然のことながら、「ウルトラQ」で桜井浩子さんが演じていたカメラマン、ユリちゃんこと江戸川由利子から来ています。そして馬場ふみかさんが走るシーンは、なぜかスローモーションがかかるサービスカットになっております(笑)。

好きなものについて語り合う、秘密結社的な楽しさ

特撮好き、怪獣好きの同好の士と、思い切り好きなものについて語り合う、いわば秘密結社的な楽しさがここにあります。特に、録画機が普及する以前ということもあり、彼らが頭の中に特撮番組のシーンを思い浮かべる「脳内再生」の様子が笑えます。確かに当時は、放送で一度だけ見たものを、必死で思い返すしかなかったんですよね。

2回目で扱われていたのも、やはり「ウルトラセブン」。第39回、40回の前後編「セブン暗殺計画」(後に「金妻」シリーズも手掛ける飯島敏宏監督)でした。登場するのは、セブンの能力を分析した上で倒そうとする、ガッツ星人。丘の上に設置された巨大な十字架に、はりつけにされてしまうセブンの姿が印象的な作品でした。

そして今週が3回目で、テーマは「ウルトラマン」の最終話だった「さらばウルトラマン」(円谷英二監督の息子・円谷一監督 )。ってことは、ゼットンですね。

そうそう、このドラマ、全4話という非常に短期のレギュラーです。興味のある皆さんは、見逃さないよう、ご注意ください。

MBS:毎週日曜深夜0時50分~

TBS:毎週火曜深夜1時28分~

思えば、「狙われた街」が放送されたのは1967年の秋。今年は放送50周年、そして10年前に没した実相寺監督の生誕80年にあたります。「ウルトラマン」、「ウルトラセブン」、そして「怪奇大作戦」でも、実相寺監督の作品は“異色作”ばかりでした。

他の監督たちが本線ともいうべき“まっとうな” 「ウルトラマン」や「ウルトラセブン」を作ってくれていたおかげで、実相寺監督は“やんちゃ”が出来たのです。

そんな作品が、半世紀を経て、ドラマの中でよみがえる。はるか星のかなた、きっと“怪獣墓場”あたりで、実相寺監督が苦笑いしているかもしれません。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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