投高の現代に中日が狙うは統一球時代の再現か
ノーヒッター5人の快挙は82年ぶり
昨季のペナントレースでは歴史的な好投が相次いだ。まずは4月10日のオリックス戦で令和の怪物がプロ野球ファンの度肝を抜いた。高卒3年目の佐々木朗希(ロッテ)が28年ぶりとなる完全試合を達成。しかも19奪三振は日本タイ記録、13者連続奪三振は日本新記録という圧巻の内容だった。1週間後の日本ハム戦でも8回をパーフェクト、連続完全投球回を史上最長の17回まで伸ばした。佐々木以外にも東浜巨(ソフトバンク)、今永昇太(DeNA)、山本由伸(オリックス)、ポンセ(日本ハム)がノーヒットノーランを達成しており1シーズン5人のノーヒッター誕生は1940年以来82年ぶり2度目のことだった。惜しい投球としては大野雄大(中日)が5月6日の阪神戦で10回2死まで完全投球、ルーキーの椋木蓮(オリックス)はプロ2試合目の 7月20日の日本ハム戦で9回2死までノーヒットノーランという快投を演じた。これらの個人記録だけでなく近年は全体的に投高の傾向が強まっている。
得点も本塁打数も右肩下がり
昨季の1試合平均得点はセリーグが3.64点でパリーグは3.50点。2019年から2021年まではセリーグが4.20→4.11→3.78点、パリーグも4.31→4.12→3.74点と年々減少している。統一球時代の2011年はセリーグが3.15点、パリーグが3.41点。2012年はセリーグが3.14点、パリーグが3.37点と3点台前半だった。その水準には及ばないがわずか3年で大きな変化だ。各球団の年間得点が約100点減っていることになる。
1試合平均の本塁打数も2019年から順にセリーグは0.97本→ 0.94本→ 0.89本、パリーグは0.99本→ 0.86本→ 0.80本。昨季はセリーグが0.81本でパリーグが0.71本だったからこちらも減少だ。2011年はセリーグが0.56本、パリーグが0.53本。2012年はセリーグが0.53本、パリーグが0.49本だった。
平均球速は年々上がっており、特に勝利の方程式と呼ばれる勝ちパターンのリリーフ陣は150km/hオーバーが当たり前だ。また計測器の発達により速球派投手以外にも有効な球種の組み合わせをデザインしたり、人間の反応速度の限界に迫るピッチトンネルを駆使した投球術を生み出すなど投手の技術は進化している。それに伴い打者に要求されるスキルも高くなるはずで慣れる、打ち崩すとなるまでは少し時間がかかるかもしれない。
打てない時代に打てると強い。でも中日は・・・
ロースコアが多くなる環境の中で高い得点力を発揮すれば、それが大きなアドバンテージになることは間違いない。2012年のセリーグで優勝したのは巨人。リーグ平均が453得点、456失点に対し534得点、354失点と攻守両面で圧倒した。得失点差は実に+180点で2位に10.5ゲーム差の大差をつけた。パリーグも得失点差+60点の日本ハムが制している。2011年もパリーグは優勝したソフトバンクが得失点差+199点。リーグ平均より60得点多く、116失点少ないという断トツの成績で42の貯金額を作り、2位とは17.5ゲーム差という独走だった。
その一方、中日が実に"らしい"戦いぶりを見せている。2011年の419得点は12球団最下位ながら410失点は12球団最少。得失点差+9点で+54点の巨人や+39点の阪神、リーグトップの484得点を挙げたヤクルトを振り切り、落合博満監督の最終年を優勝で飾った。翌2012年もリーグ平均より30得点少ないがリーグ平均より51失点抑えることで2位につけた。この2年間トータルで得失点差は+27点と飛び抜けた数字ではないものの貯金は38。巨大戦力とは対照的な1つの解を示した。
現在の中日も昨季の414得点はリーグワーストで攻撃力に課題を残す。上位進出のためには得点力アップが必須のはずだが楽天とのトレードで中軸を担った阿部寿樹を放出し、実績十分の右腕・涌井秀章を獲得した。しぶとい野球で優勝争いの常連だった約10年前の再現を目指しているのか。ただし優勝したヤクルトとは200得点以上の開きがあり、失点も阪神の方が約70点少ない。道のりは簡単ではない。あるいはドラフトで多数指名した新人内野手や新外国人に自信を持つのか。答えはシーズンが始まればわかるはずだ。