「この問題は、やすいです」?外国人の誤用から知る日本語の面白さと奥深さ
お読みくださってありがとうございます!日本語と日本酒の日本(二本)柱で生計を立てる、日本で唯一(かもしれない)の日本語教師・高橋亜理香です。
仕事柄、高橋は日本人よりも外国人と接することのほうが多い毎日です。留学生をはじめ日本語を学ぶ外国人学習者の会話や文章、テストの答え…などなどの中で、日本語の間違いや誤用にも当然数多く出くわします。(もちろんこれは我々の外国語学習に置き換えれば当たり前のことです)
彼らにとってはミスだとしても、ネイティブであるこちらは「そういうことか!」と気づきを得たり、「フフッ」と笑わせられたり…。意識していなかった日本語の奥深い”向こう側”を発見できることがしばしば。
今回は、そんな外国人学習者の「日本語」で頻繁に出合う一場面をご紹介。
みなさんも、ぜひ「なるほど!」を体感してください。
「この問題は、やすいです」?
実はこれ、教壇に何年も立ち続けていると年に数回は必ず聞くことができる”あるある”フレーズ。
いろいろな場面で顔を出します。
「先生、この問題はやすいですね」
「先生、この大学はやすいと思います」
ん?「安い」…?みなさんはこの意味がわかりますか?
「やすいです」の正体
さて「やすいです」の正体は、というと…
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「やすいです」=「やさしいです、簡単です」
という意味の間違いなのです。
では、どうしてこの間違いが生まれるのか、ロジックを考えてみましょう。
「やさしい/簡単」が「やすい」になる理由
「やさしい/簡単」が「やすい」と表現されてしまうのは、
例)野菜は、食べやすい大きさに切ってください。
のような「動詞(連用形)+やすい/にくい」という、補助的な形容詞の使い方を誤ってしまうのが理由です。
日本語学習の際に、外国人学習者は
「~やすい」→「~するのが簡単、やさしい、容易だ」
「~にくい」→「~するのが難しい、大変だ」
と学習します。
形としては「動詞(連用形)+やすい/にくい」と必ず動詞を接続させる必要があるのですが、「やすい=簡単」「にくい=難しい」と覚えた学習者は
「食べやすいです→食べるの が やすい(=簡単)です」
のように、間違った使い方をしてしまうケースが出てきます。
そこから「名詞+は+やすいです」といった単独の形容詞と同様の使い方をしてしまうんですね(おそらく…)。
また、(通常はひらがなで使いますが)漢字にするとどちらも「易い」「易しい」になってしまうことも、送りがなまでは見落としてしまいがちな外国人が、つい間違ってしまう原因にもなるかと思います。
そのため
といった会話が日常繰り返されるのです。
ちなみにその際、教師は誤用とわかっていても「違います」といった指摘はあまりしません。自身で気づいてもらえるように導くのが教師のテクニック。
一刀両断するのも、誤用をスルーしてしまうのも学習者の学びにはならないので、楽しく気づきを得られ、その後忘れず定着するように工夫しています。
これは、みなさんが外国人の友人や同僚と接するときにも使える技なので、ぜひ。
さらなる「やすい」の上位互換も!
「やすい(易い)」=「簡単、やさしい(易しい)」ということで、時折さらにハイブリッドな誤用が生まれてしまうことも。
「やすい」+「やさしい」÷2=「やさい」まで進化を遂げました!
ここまでくると、クスっと笑ってしまう和やかさですね。
毎日の体験が、新たな日本語の学び
普通なら無意識に使っている母語・日本語ですが、毎日「きたぞきたぞ」「そうきたかー!」と納得や驚き、そして新鮮な発見に向き合い続けることができるのが日本語教師の醍醐味。異文化と対峙する分苦労も多いですが、なかなかに楽しくて深くもあるのです。
今回は、そんな日本語教師の「あるある」をひとつご紹介しました。
「日本語教師、面白いかも…」と感じてくださった方がもしいらしたら、朗報。ほどなく、2024年度から日本語教師は「登録日本語教員」という名称で国家資格化しますので、興味があれば今がチャンスかもしれませんよ!