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「間髪(かんぱつ)を入れず」は間違い!文化庁の調査で見えた「日本語の変化」を日本語教師が解説!

高橋亜理香日本語教師/日本語・日本酒ライター

お読みくださってありがとうございます!日本語教師の高橋亜理香です。

日々変化していく日本語。流行語や若者言葉を含め、日本語は絶えず生まれたり、消滅したり、変形したり…大人になると少なからず「昔と違うなあ」と感じることがあるかもしれません。

そんな生き物「日本語」について、文化庁では毎年「国語に関する世論調査」という調査・統計を行い、その結果を公開しています。2024年も令和5年度版が9月に公開されたところです。

【参考】文化庁「国語に関する世論調査」(令和5年度版より)

今回は令和5年度版の調査で触れられた、いつの間にか語の区切りが変化して読み方が変わってしまった言葉を紹介します。

「実は間違った読み方しか知らなかった…」「ていうか、意味も間違ってた!」という人が少なくないはず!ぜひ参考にしてみてください。

1.「間髪(かんぱつ)を入れず」は間違い

「時間を置かず、瞬間的に」といった意味でよく使われる「間髪を入れず」という言葉。
「間(あいだ)、隙間に髪の毛一本も入る余地がない」というのが由来です。意味はおそらく正しく理解している人が多いのではないでしょうか。

ただし、読み方はどうでしょう。実は正解はこれ!

誤「間髪(かんぱつ)を入れず」

正「間(かん)、髪(はつ)を入れず」

その「間」に「髪の毛1本入らない」という意味なので、「間」と「髪」の間に語の区切りがあるのが正しい読み方です。

ですが、件の文化庁「国語に関する世論調査」では、91%の人が「かんぱつを入れず」と読み、「かん、はつを入れず」と正しい読み方をしている割合は、わずか6.5%との結果。事実、知らない人が多かったのではないでしょうか。実際この語をIMEで入力しようとしたところ、「かんぱつ」「かんぱつを入れず」は「間髪」と変換されましたが、「かんはつ」および「かんはつを入れず」はどちらも変換できませんでした。ここまで誤用が浸透しているということですね。

私感としては、日本語の発音として、「かんはつ」という音は発音しにくく、通常この順で音が並んだ場合「は」を半濁音化させて「ぱ」と変化させるのが現代日本語の漢字の読み方ルールなので、語の区切りを知らなかった人が「間髪」をひとつの語として考えた際に読みルールを当てはめて、誤用が広がったのでは、と推測します。

2.「綺羅星(きらぼし)のごとく」は間違い

令和5年度調査で2つ目に触れられていたのが、この言葉。これを「綺羅星(きらぼし)のごとく」と読んで、「超大型新人アイドルが、綺羅星のごとく現れて芸能界を席巻した!」なんて使い方をしている人、いるのではないかと思います。

実は、これも間違い。

誤「綺羅星(きらぼし)のごとく」

正「綺羅(きら)、星(ほし)のごとく」

が正しい区切りと読み方です。

さらには、この語は本来「すごいのがやってきた!」的な意味で使うものではありません。「綺羅」とは元々、「絹の美しい衣装」や「地位の高い者」という意味の言葉で、それが「無数の星のように数多く並ぶ」というのが「綺羅 星のごとく」の正しい由来。

さきほどの「超大型新人アイドルが…」のような例文の場合は、本当は「彗星のごとく」を使用するのが適切です。

文化庁の調査では「綺羅星(きらぼし)のごとく」と読む割合が88.6%で、こちらも間違いが圧倒的優勢でした。読み方も意味も、どちらも変化が進んでしまっている言葉と言えます。

(※ただし現在『デジタル大辞泉(小学館)』では、既に「綺羅星(きらぼし)」という語彙がそのもの「地位の高い人や明るいものが数多く並ぶようすの例え」と記載されています)

3.「好事魔(こうじま)多し」は間違い

文化庁の調査で3つ目に触れられたのがこちら。「ものごとが上手くいっているときは、とかく邪魔が入りやすいものだ」という意味で使用される、中国の戯曲『琵琶記』の中の「好事多磨」という熟語に由来します。(「磨」は中国で「困難」や「挫折」の意味で使用されていたようです)

この意味を考えると語の区切りも推測できるかもしれませんが、実のところはこうです。

誤「好事魔(こうじま)、多し」

正「好事(こうじ)、魔(ま)、多し」

「いいとき=好事」に「じゃま=魔」が「多い」という考え方で区切るのが正しい読み方。「好事魔」というお化けがいるわけではありません。

こちらは、誤った読み方をする割合が65.3%に対し、正しい読み方が30.6%と、はじめの2つの語に比べたらまだ変化のスピードが緩やかかもしれません。

何が正しいのかわからなくなる前に、今のうちにぜひ覚えておいてください!

「国語に関する世論調査」は興味深い!

日本語の変化の様子を1年ごとに知ることができて純粋に面白いのが、文化庁の「国語に関する世論調査」。

実際、同じ語について複数回調査されているものなどもあり、誤用の割合の変化なども知ることができます。(調査方法の変更タイミングなどにより、正しい比較とはならない場合もあるそうです)

今後も調査結果から見える興味深い事象について、取り上げてみたいと思います。

外国語の勉強も楽しいものですが、ぜひ日本語にも目を向けてみてください!

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日本語教師/日本語・日本酒ライター

都内日本語学校の専任講師を経て、現在はフリーランスの日本語教師として留学生の日本語・進学指導やオンラインレッスンをしています。外国人の日本語学習を通して日本人の気づかない日本語を探究中。兼業で日本酒ライター・テイスターとして、父の故郷の秋田県をはじめとした日本酒の良さを伝えるお仕事もしています。保有資格:日本語教育能力検定試験、J.S.A.SAKE DIPLOMA、SSI日本酒学講師、SSI利酒師

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