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新生女子バスケ、パリ五輪への第一歩。アジア5連覇を目指す現状とライバル国は?

小永吉陽子Basketball Writer
平均年齢23歳の若さでアジアカップに挑む新生日本代表。@fibaasiacup

ワールドカップ予選を兼ねた大会

 東京オリンピックで銀メダルに輝き、一躍注目を集めた女子バスケットボール。10月16日のWリーグ開幕に先立ち、9月27日からはアジア女王を決める『FIBAアジアカップ』が開幕し、ネクストステージに向けての活動を再開している。

 アジアカップは2年に一度、大陸ナンバーワンを決める大会であり、4連覇中の日本は、アジアのどこの国も達成していない5連覇を目指している。本来ならば、4年に一度のオリンピックとワールドカップの間に開催される大会なのだが、オリンピックが1年延期になったことで同年開催のハードスケジュールとなった。

 2017年からはアジア地区にオセアニア勢も加わり、より競争が激しくなったこのアジアカップは、来年オーストラリアで開催される『FIBAワールドカップ2022』の出場権をかけた予選も兼ねている。ワールドカップ開催国のオーストラリアを除く上位3チームには、来年2月に開催される『FIBAワールドカップ2022世界予選』の切符が与えられる。

 ワールドカップの世界予選はこれまでになかった新設大会だ。来年のワールドカップからは出場国が16から12に減少することが決定しているが、各大陸を勝ち抜いた16チームによって世界予選が行われ、4チームが脱落して12チームが出場権を得る。このレギュレーションとなったのは東京五輪予選からで、世界予選によって16→12に絞られている。今後は2年に一度、オリンピックとワールドカップをかけた世界予選がシーズン中に実施されることになる。

先発を務めるのは左から宮崎早織、馬瓜ステファニー、林咲希、オコエ桃仁花、赤穂ひまわり(写真はWリーグ・オータムカップより。提供/Wリーグ)
先発を務めるのは左から宮崎早織、馬瓜ステファニー、林咲希、オコエ桃仁花、赤穂ひまわり(写真はWリーグ・オータムカップより。提供/Wリーグ)

究極の理想を目指す恩塚体制スタート

 東京五輪が終了し、トム・ホーバスから恩塚亨体制としてスタートを切る新生女子日本代表。東京五輪の5人制代表から5名、3人制代表から3名の代表選手を主体に、キャプテンの林咲希赤穂ひまわりら26歳以下、平均23.3歳の若いチームでアジアカップに挑む。東京五輪で銀メダルに導いた指揮官トム・ホーバスは男子代表の指揮を執ることが発表されている。

 新任の恩塚ヘッドコーチ(以下HC)は2006年からアンダーカテゴリーのアナリストとして分析やスカウティングに携わり、ユニバーシアードのコーチングスタッフを経て、2017年からは日本代表のアシスタントコーチとして、ホーバスHCの右腕として働いた。何もないところから東京医療保健大を築き上げ、インカレ4連覇に導いた実績がある。コーチングスタッフやアナリストとして日本代表に15年携わり、A代表のヘッドコーチを務めるまでに上り詰めた。

 アジアカップに向けては「これまで素晴らしい選手やコーチ、スタッフの方々が築き上げてきた日本代表のバトンを受け継いで優勝を目指す」ことを目標に掲げ、目指すスタイルの理想は高い。「日本が持つ世界一のアジリティを追求し、チームの原則を遂行することで瞬時に5人が自信を持って判断し、躍動感を持ってシンクロするバスケ」とのビジョンを掲げている。恩塚HCが言うアジリティとは、素早さや敏捷性に加え、「ネクストプレーへの速さや適応力」のことを指す。

 新しい恩塚流のスタイルに対して選手たちからは「自分たちで考えてクリエイトすることは難しいがチャレンジ中」という声が上がっている。たとえば、現代バスケにおいて3ポイントシュートを決める重要性は変わらないが、シューターでも3ポイント以外のプレーで得点を取ることにも取り組んでいる。これはどの選手でも同様だ。

 ただ――恩塚HCが目指すバスケは『究極の理想形』だといえる。各自が考えてフリーランスな形を作るには対応力と判断力が求められるため、多くの実戦と経験を積むことが必要となる。また、経験とは選手だけでなく、国際大会の経験が少ないヘッドコーチにも言えることであり、チーム作りには時間を要するだろう。

 ましてや、今大会は主要国の中で平均年齢がいちばん若いチームであるだけに、この大会は貴重な経験の場となる。最終的な目標である「パリ五輪での金メダルを獲得して喜びを分かち合う」(恩塚HC)ためにも、今大会は経験値をつけながら成長し、ワールドカップ世界予選への切符を獲得することが最重要ミッションだ。そのうえで、準決勝に進んでからは優勝を目指してのチャレンジとなる。

アンダー世代から活躍し中国を担う3人。左からリー・ユエル、ハン・シュ、リー・ユェン。@fibaasiacup
アンダー世代から活躍し中国を担う3人。左からリー・ユエル、ハン・シュ、リー・ユェン。@fibaasiacup

強力な高さを擁する優勝候補の中国

 アジアのライバルたちを紹介していこう。今大会はオリンピック直後の大会とあって各国ともに若手育成に力を入れてきた国が多い。その中で優勝候補にあげられるのは平均186センチの高さを持つ中国だ。

 東京五輪では準々決勝でセルビアに70-77で敗れたが、予選ラウンドではオーストラリア、ベルギー、プエルトリコに全勝して3勝をあげている。リオ五輪後以降、ヘッドコーチを務める許利民(シュ・リーミン)体制になってからの中国は若いメンバーを育て、高さだけでなく速さも追求し、オールコートマンツーマンで粘る脚力と速攻のスピードを備えるチームへと成長してきた。ここ2大会のアジアカップでは日本が僅差で勝利しているが、2018年ワールドカップではベスト8決定戦で敗れた相手でもある。若くして主力を務める2メートル級センター、14李月汝(リー・ユエル/200センチ/22歳)15韓旭(ハン・シュ/205センチ/21歳)は今後10年、アジアに立ちはだかる壁だといえよう。

 ただ、今大会は東京五輪メンバーを9名を擁してはいるものの、それまでも若かったメンバーからさらに若返っている。五輪メンバーからキャリアのある邵婷(シャオ・ティン)孫梦然(スン・モンラン)を外し、若手に経験を積ませる方針で2名を入れ替えてきたのだ。その若さがどう出るかが懸念点だ。さらに急遽ヨルダン出発前に、これまた主力の李梦(リー・モン)が欠場することになったため、11名でこの大会に臨んでいる。

 こうした主力3名の欠場から、弱点を上げるとすればアウトサイドの得点力不足があげられる。シャオ・ティンリー・モンは東京五輪でリー・ユエルの平均14.8得点に次ぐ、平均10.8得点(リー・モン)と平均10.3点(シャオ・ティン)を記録しているアウトサイドの得点源だ。それでも、タイプが異なるガード陣とセンターをつなぐ軸があるだけに、中国は若手育成とアジア女王の両方を手に入れようとしている。

オーストラリアのリーダーとなるサマンサ・ウィットコム。@fibaasiacup
オーストラリアのリーダーとなるサマンサ・ウィットコム。@fibaasiacup

東京五輪から総入替えで鍛える豪州

 オーストラリアは来年のワールドカップでホスト国として出場権を持っているため、このアジアカップでは若手や代表歴の浅い選手を育てることに割り切ったメンバー構成となっている。したがって東京五輪メンバーからは総入れ替え。2017年に台湾で開催されたユニバーシアードにおいて日本と決勝で戦って優勝を遂げているが、その当時のメンバーを6人擁する。日本ではキャプテンの林咲希や中田珠未がユニバ決勝で戦った相手が主戦力となっているのだ。

 今大会、最も注目したいのはWNBAニューヨーク・リバティでのプレーオフを終えて即チームに合流した33歳のコンボガード4サマンサ・ウィットコム(サミ・ウィットコム/178センチ)だ。日本屈指のシューター林咲希を彷彿させるクイックリリースのシューターも兼ね、唯一のベテラン選手である。東京五輪からはもう1人、同じくニューヨーク・リバティでプレーするレベッカ・アレンが合流するはずだったが、次チームへの準備の関係で出場を断念することになった。

 ウィットコムは帰化選手としての選出だ。これまでの帰化枠はポイントガードのレイラニ・ミッチェルだったが、ワールドカップに向けて36歳のミッチェルに変わって、次世代の司令塔を育てなければならない。そのために帰化枠としてウィットコムにチャンスが巡り、2018年ワールドカップ以来の選出となった。

 そして新しいポイントガード候補となるのは、2017年のユニバーシアードで金メダルを獲得している7クリスティ・ウォレス(180センチ)と、シラキュース大出身の6ティアナ・マンガカヒア(165センチ)だろう。とくにマンガカヒアは東京五輪の候補だったが病気によって落選していただけに、待望の代表入りとなる。病気を克服した今、体調が整えば浮上してくる選手として期待されている。

左からシュータのカン・イスル、ベテランのキム・ダンビ、若手の星パク・ジヒョン。@fibaasiacup
左からシュータのカン・イスル、ベテランのキム・ダンビ、若手の星パク・ジヒョン。@fibaasiacup

復活を目指す要注意チーム韓国

 今大会の韓国を率いるのは国際大会で数々の実績をあげてきたチョン・ソンミンHC。東京五輪を率いたチョン・ジュウォンHC同様、韓国を代表する伝説のレジェンドで、代表ヘッドコーチとしての初陣となる。日本は過去にチョン・ソンミンに幾度も泣かされてきた。

 レジェンドたちの手によって復活を遂げようとしている韓国は、東京五輪でスペインとセルビアと接戦を繰り広げたことにより、復活の足掛かりをつかんだところだ。東京五輪からは9名のメンバーを擁してアジアカップに乗り込んでいる。ただし、今大会は若き大黒柱であるパク・ジス(198センチ/22歳)がWNBA参戦中で不在となるために、東京五輪では不発だった3ポイントに重点を置いた戦い方を展開している。

 その中で主軸となるのはポイントガードの7パク・ヘジン(178センチ)とウイングの23キム・ダンビ(180センチ)のベテランコンビ、WNBAワシントン・ミスティクスのトレーニングキャンプに招待されたシューターの11カン・イスル(180センチ)だ(コロナ禍であることと、東京五輪に専念するため2年連続でトレーニングキャンプの参加は断念)。また、パク・ジスに変わるインサイドは20ベ・ヘユン(182センチ)が務める。注目は185センチのサイズでポイントガードからウイングまでをこなす21歳の9パク・ジヒョン(185センチ)。韓国の将来を担う選手として急成長中である。

 そして、東京五輪に出場していないメンバーながら、ここに来て台頭しているのがニュージーランド戦で29得点をマークした6チェ・イセム(183センチ)。2020-21シーズンまでは『チェ・ウンシル』という名前だったが、シーズン終了後に『イセム』に改名。WKBLでは3ポイントを打つパワーフォワードとして活躍している選手だ。

 ここ数年の日韓戦ではスタミナと選手層の厚さで日本が凌駕してきたが、今大会の韓国は東京五輪から9名が参戦するだけに経験値では日本より上。何より国際大会での勝利への飢えがモチベーションになっているだけに、日本戦では執念を見せてくるだろう。「シューターに打たせない」(恩塚HC)策を講じて決戦に挑む。

 9月29日、予選ラウンド最終戦で韓国に勝利すればストレートで準決勝進出が決まる。韓国に敗れた場合は9月30日にB組3位と4強入りをかけて戦うことになる。その場合の相手はおそらくチャイニーズ・タイペイになるだろう。韓国に敗れると4連戦のタイトスケジュールになるだけに、何としても勝ち切りたい。アジアカップの第一関門・韓国との死闘にすべての力をぶつけて挑む日本だ。

2022年ワールドカップへの道

(FIBA公式サイト/予選システムの紹介)

Basketball Writer

「月刊バスケットボール」「HOOP」のバスケ専門誌編集部を経てフリーのスポーツライターに。ここではバスケの現場で起きていることやバスケに携わる人々を丁寧に綴る場とし、興味を持っているアジアバスケのレポートも発表したい。国内では旧姓で活動、FIBA国際大会ではパスポート名「YOKO TAKEDA」で活動。

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