『銀河鉄道999』のクレアは、体が透明なガラス。いったいどんな仕組みだったのだろう?
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。
『銀河鉄道999』といえば、メーテルが印象深いけど、彼女にはこっそり星を破壊しているような、底知れない妖しさがありました。まあ、そこが魅力でもあったんだけど……。
その点、裏表なく清楚で、スバラシク素敵だったのが、999号の食堂車でウェイトレスとして働いていたクレアさんだ!
その体は、美しく透明なクリスタルガラスでできていた。とても健気な人で、主人公・星野鉄郎に心を寄せ、最後は命をかけて、そのピンチを救ってくれた。忘れられませんなあ……。
彼女は、原作のマンガでは第1巻の「透明の女 ガラスのクレア」に、テレビアニメでは第3話「タイタンの眠れる戦士」の前半に登場するだけだ。
ところが、劇場アニメでは出番がグッと増えて、終着駅まで鉄郎といっしょに旅をしていた。最初はほんの脇役だったのに、儚(はかな)げな存在感が人々の心をつかみ、メインキャラクターの一人に昇格したのだろう。
しかし、体がガラスとはどういうことなのか。本稿では、いまも心に刻まれるクレアさんについて考えてみたい。
◆健気なクレアさん
『銀河鉄道999』の舞台は、西暦2999年。
貧しい鉄郎は、謎の美女メーテルから銀河鉄道999号の高価な乗車券をもらい、「機械の体を手にタダでくれる星」を目指して、彼女と旅をしている。
そんなにいろいろタダでもらっていいの……? という気もするけど、鉄郎は機械の体になって、母親を殺した機械伯爵に復讐しようと固く誓っているのだ。
そんな鉄郎と対照的なのが、クレアさんだった。
彼女もかつては人間だったが、見栄っ張りな母親によって、体をガラスに変えられてしまった。
「だから私はここでアルバイトをしながらお金を貯めて……血の通った体をどこかの星で買います」と、クレアさんは健気に言う。
しかし機械の体になりたい鉄郎には、彼女の気持ちがわからない。「なぜ? そんなにきれいなのに!!」と疑問を口にする。
クレアさんは「でも……私の体はガラス……光も影も私の体を通り抜けてしまいます。それが私は……とてもさびしいのです」と言って、鉄郎の手に自分の透明な手を重ね、「あなたの手はあたたかいわ、鉄郎さん!」と生身の体の尊さを訴える。
だけど、鉄郎にその思いは届かず……。く~っ、このあたりのやり取り、もどかしかったですなあ。
◆ガラスは動いている
鉄郎にはヤキモキしてしまうが、ここで考えるべきは、クレアさんの体の問題であった。
ガラスで体を作ったりして、大丈夫なのだろうか?
ガラスはとても面白い物質だ。
どこから見ても固体だけど、実はゆっくりと流動している。歴史のある建物のガラス窓は、断面が台形になっていることがあるが、これは上のほうが下に垂れ落ちてきたから。「ガラスは固体ではなく液体」と考える学者もいるほどだ。
これにはもちろん理由がある。
液体を冷やすと固体になるが、それは液体のときは自由に動き回っていた原子や分子が、規則正しく並んで結びついた「結晶」になるから。氷も岩石も金属も結晶になっていて、こうなると流動性はなくなる。
ガラスもゆっくり冷やすと結晶になるが、急激に冷やすと原子や分子の動きが止まるだけで、結晶にはならない。このため、わずかに流動性が残る。結晶化したガラスは不透明になり、透明なまま結晶化していないガラスが、日常生活では「ガラス」と呼ばれる。
ここから考えると、透明なクレアさんの体にも流動性があるのかもしれない。
彼女はなぜか全裸で、スレンダーな体つきがよくわかるのだが、そのガラスにわずかでも流動性があるのなら、長い月日が経つうちに、毎日少しずつ身長が低くなり、小太りになっていく可能性がある。
ご本人が望んでいるように、早く生身の体を手に入れたほうがいいかも……。
◆クリスタルガラスの特徴
ところでクレアさんの体は、ガラスはガラスでも、クリスタルガラスでできているという。
ガラスは、二酸化ケイ素(石灰石を除く岩石の主成分)が網の目のように並んだあいだに、さまざまな金属が入り込んだもので、大きく分けると次の種類と用途がある。
・金属を含まない → 石英ガラス(光ファイバー、断熱タイル、電子回路の基盤)
・ナトリウムやカルシウム → ソーダガラス(窓ガラス、瓶などの容器)
・ホウ素 → ホウケイ酸ガラス(理科実験器具、医療器具、強化ガラス)
・鉛 → 鉛ガラス(レンズ、プリズム、工芸品、装飾品)
クリスタルガラスは鉛ガラスの一種で、透明度が高く、工芸品や装飾品に使われる。
屈折率も大きいので、キラキラと美しく光る。クレアさんの体にふさわしい。
また、鉛は放射線をよく吸収するので、鉛の含有量の多いクリスタルガラスは、放射線防護ガラスにも使われる。宇宙には宇宙線(放射線の一種)が飛び交っているから、クレアさんの体はそれを吸収し、乗客を守ってくれるだろう。宇宙列車のウェイトレスにまたとない体質である。吸収した宇宙線のエネルギーを、クレア自身が生きるのに役立てている可能性もある。
しかし、ここでも心配なことが一つある。
鉛は重い金属だから、それを含んでいるクリスタルガラスは密度が大きい。鉛の含有量が多いものだと、1Lあたり3kg以上だ。
マンガやアニメで描かれているクレアさんは、人間の女性だったら体重45kg(体積45L)くらいか……という体つきに見えたけど、全身がクリスタルガラスでできているとしたら、その体重は135kg以上なのだ。そんなに重いの!?
――などと騒いでおりますが、体重なんて何百kgあろうと、ぜんぜん問題ではありません。
クレアさんが最期に見せた鉄郎への想いに比べたら、そんなのどうでもよろしい。マンガでもテレビアニメでも劇場アニメでも、鉄郎を守るために彼女はバラバラに砕け散ってしまうのだ。
そして、銀河鉄道株式会社の規則に従って、彼女の破片は車掌さんによって宇宙に葬られ、無数の星となって散っていった。あまりに悲しく美しい宇宙葬である。
鉄郎はやがて「機械の体になることが幸せなのか。限りある命だから、人は懸命に生きるのではないか」と思うようになっていく。
せめて彼の成長に、クレアさんが大きく貢献したのだと思いたい。