【教員採用の倍率を上げるには?(2)】今いる人たちを大事にすることが一番の広報
教員採用試験の倍率低下が注目されています。とりわけ公立小学校の教員については、競争倍率が過去最低を記録(2019年度)、しかも来年度から徐々に35人学級になっていきますから、教員確保は急務となっています。一度不人気になってしまうと、戻すのは簡単なことではありませんし、特効薬などありませんが、どうしていけばよいでしょうか。この記事で考えます。
文科省は今月2日に「『令和の日本型学校教育』を担う教師の人材確保・質向上プラン」を発表しました。重要な内容も含まれていますが、もの足りない点や副作用のほうが大きいかもしれないと心配な点もあります。前の記事でわたしは3点指摘しました。
●教員採用試験の倍率低下の背景、要因にミートした対策となっているだろうか、という疑問。
●これまでの政策の検証や反省点がほとんど見えてこない問題。
●現職教員に対する政策が弱い(手薄である)問題。
※前回の記事:【教員採用の倍率を上げるには?(1)】 広報の充実では効果は疑問
以下では、これら3点と関連することを、提案したいと思います。
■小中で約1万人が毎年教職から去っている。
まず、かなり重要なデータを紹介しましょう。(スマホでは見づらいかもしれませんが)次の数字は、公立小中学校における離職者の推移です。ただし、定年退職(勧奨を含む)は除いています。3年ごとの統計しかありませんが、ここ最近の4時点を見るとそれほど大きくは変わっていません。むしろ15年度から18年度にかけては増加していますね。高校の教員は表からは省きましたが、直近の18年度の退職者数は 5,602人で、その前までは約5千人です。
小学校で言えば、1年間の離職者が6~7千人なわけですが、これは直近の新規採用者が約1万7千人ですから、割り算すると約4割になります。中学校でいうと、離職者は約4,500人で、新規採用者約9千人と比べると、約5割です。
つまり、新規採用の4~5割もの数の人が毎年教職を去っているという現実があります。この規模をまた採用するとなると、かなり大変ですよね。
教育委員会は「採用倍率が低下して困った困った」などと言う前に、あるいは「受験者数を少しでも増やしたいからPRビデオを作ろう、それから、採用試験をもう少し簡単にしよう(実技試験や模擬面接をカットしたりする例があります)」などと安直な方向に行く前に、この離職者をもっと減らす努力をされてはいかがですか?
もちろん、上記の離職者のなかにはポジティブに転職等を図る人もいますし、大学で学びなおしたいという方も含まれています。ややこしいことに、教育委員会勤務に異動になった人も転職に含まれている可能性があります。ですから、この離職者合計の数字すべてが不本意な離職というわけではありません。
が、うつなどの精神疾患などの病気で辞めざるを得なかった人も毎年、小学校では6~7百人前後、中学校でも4百人近くいますし、死亡されている方もいます。ご病気や事故で亡くなられた方もいますが、このなかには過労死や自殺の方も含まれていると思われます。
「家庭の事情」や「その他」と分類されている方のなかにも、本当は教師を続けたかったけれど、ハードワーク過ぎて、あるいはハラスメントを受けて辞めたいと思ったという人たちも含まれているのではないでしょうか。
わたしは文科省にも確認しましたが、こうした項目より細かいものは把握していないとのことで、ブラックボックスです。まず、国は、そしておそらく教育委員会も、離職されている方の正確な理由や事情を把握しきれていない。これは大きな問題だと思います。だから、過去から学ぶことができていないのです。
■今いる人たちを大事にすることが一番の広報
わたしが申し上げたいことは、シンプルです。
今いる人をもっと大事にしよう。各地の学校現場がいい職場だな、働きたいな、働き続けたいなと思えるものになれば、不本意な離職も減るでしょうし、おのずと教師を目指したいという人も増えてくるでしょう。
次の一節は、前田康裕さんの『まんがで知る教師の学び3 学校と社会の幸福論』のワンシーンです(著者の許可を得て掲載)。眼鏡をかけている教頭先生は、自分はなんのために教頭をしているのか、なぜ教師を続けているのか、忙しい毎日のなかで見失いかけていました。それが熊本地震のときに地域の方々に助けられた経験などを経て、ひとつの自分なりの答えに行きつくシーンです。
「教師の仕事は、良き学び手となることだ」。この教頭先生の場合は、このことが教師を続けていく上で大切にしたいことだと再確認したのです。
先日ある文科省の方と意見交換をしたのですが、そのときわたしは、この漫画を紹介しつつ、「現職の先生方が楽しく仕事をし、学び続けていることが、最大の広報!」と申し上げました。
さて、企業経営では、人材の採用とリテンション(離職防止)は関連の深いこととして意識され、さまざまな施策が講じられています(そううまくいっている事例ばかりでもありませんが)。しかし、教員の世界や教育行政では、教員採用の問題を論じるときに、教員養成のこと(大学のカリキュラム等)などの話題には及びますが、リテンションの話をする人をほとんどわたしは見かけません。養成、採用、人材育成、リテンションなどをもっと一体的に議論していくべきでしょう。
では、離職防止はどうしていけばよいでしょうか。
こちらも特効薬があるとは思えませんが、少なくとも、現職の先生たちを大事にしない政策を進めることには、わたしは賛成できません。
たとえば、今年度は新型コロナの影響で、夏休みを大幅に短縮し、補習や土曜授業を増加させた自治体もありました。部活動も再開されたあとは、またハードに戻っているところも多いです。国等は部活動指導員などの予算取りなどでたいへん努力はしていますが、まだまだ多くの部活が教師の献身性で支えられているのが実情です。世間では週休3日を選んでいいよ、という会社も出てきているのに、学校では週休1日も取れるかどうかというところもまだまだ多いのです。
小中学校や特別支援学校では、日中の休憩時間もほとんど取れていません。「トイレに行く暇もないくらい忙しい、膀胱炎が職業病」と言われます。
これでは、疲れが取れず、リフレッシュが十分に進まないので、疲れて離職する人も出てきますし、学生さんらにとっても魅力的な職場には映らないでしょう。こうした現実にメスを入れることなくして、いくら広報動画を流しても、ダメでしょう。
また、これはわたしを含めて、保護者や社会も反省しないといけないと思いますが、多くの小中学校、高校では、児童生徒の在校時間が、教職員の勤務時間からはみ出しています。つまり、子どもたちは勤務時間が始まる前から来ていますし、朝の補習や部活動をしている学校もあります。そして放課後も部活動などで、生徒も教師も勤務時間外まで在校しています。
通常の組織(企業や行政)では客が開店時間より前に来て、閉店時間の後も居座り続けているなんて、ありえないことです。これも、海外の学校と異なる「日本型学校教育」らしさなのでしょうか?この伝統も見直していく、またはちゃんと別のスタッフを置くということをやっていかないと、教師の授業準備時間や学び続けていく余裕は戻ってきません。
つまり、先生たちが生き生きと、多少なりとも精神的なゆとりをもって、子どもたちや同僚等からも学んでいく、またプライベートな活動なども含めてさまざまなところから視野を広げて成長し続ける。そういう職場にしていくことが、リテンション上も採用上も、重要なのです。
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