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どう見ても植物のトゲ。スイカズラに付いた奇妙なツインピークの物体の正体は?

天野和利時事通信社・昆虫記者

 忍冬、金銀花などの別名を持つ植物「スイカズラ」の茎に、時々茶色のトゲが2つずつ並んで生えていることがある。しかしスイカズラにトゲはないはず。ではこのトゲ状の物体の正体は一体何なのか。

 それは、「スイカズラクチブサガ」という舌を噛みそうな名前の小さな蛾の繭(まゆ)だ。この繭は、2つの峰を持つツインピークの山のような奇妙な形をしている。繭が2つ並んでいたら、茎から4つのトゲが生えているように見える。

 虫に興味のない普通の人々の間で、このトゲを見て蛾の繭だと見破れる者は、恐らくほとんどいない。それゆえ、この繭は一種の擬態になっているのかもしれない。

2つ並んだスイカズラクチブサガの繭。茎から4本のトゲが生えているように見える。
2つ並んだスイカズラクチブサガの繭。茎から4本のトゲが生えているように見える。

スイカズラクチブサガの幼虫は、新芽付近を丸めた中にいることが多い。
スイカズラクチブサガの幼虫は、新芽付近を丸めた中にいることが多い。

繭を作成中の幼虫。すでにツインピークの元が作られていることが分かる。最後は尖ったお尻を突き上げてピークを完成させるようで、たまにピーク付近に蛹の尻が突き出ていることがある。
繭を作成中の幼虫。すでにツインピークの元が作られていることが分かる。最後は尖ったお尻を突き上げてピークを完成させるようで、たまにピーク付近に蛹の尻が突き出ていることがある。

 しかし、この蛾の見どころはこの繭だけだ。幼虫は、スイカズラの新芽付近をくしゃくしゃに丸めた中に潜んでいる目立たない虫であり、成虫は、さらに地味な様相で、蛾マニア以外にとっては、ほとんど取り柄のない小さな蛾だ。

 なので、真の虫好き以外の人には、「幼虫を持ち帰って飼育してみてはいかが」などとはとても言えない。

 知識をひけらかすことが好きな、昆虫記者のような虫好きでも、繭を見つけた際に「これ、どう見ても植物のトゲでしょ。でも本当は蛾の繭」などと、控えめに説明するだけにとどめておくのがいい。

スイカズラクチブサガの成虫はこんなに地味。
スイカズラクチブサガの成虫はこんなに地味。

今頃が見頃のスイカズラの花。
今頃が見頃のスイカズラの花。

 スイカズラクチブサガの食草であるスイカズラも、実は色々面白い植物だ。スイカズラ(吸い葛)という名は、子どもたちが花の甘い蜜を吸って遊んだことに由来する。金銀花の呼び名の由来は、花の色が白(銀)から黄(金)に変化していくこと。忍冬の名の由来は、冬も葉がなくならないこと。金銀花と忍冬は、ともにスイカズラを原料とした生薬の名でもある。

 しかし、こうしたトリビア的な知識も、説明が度を越すと昆虫記者のような、嫌な蘊蓄(うんちく)親父になってしまうので注意が必要だ。

(写真は特記しない限りすべて筆者=昆虫記者=撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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