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お尻の角からミミズ風の物体を出す奇怪なイモムシ=オオモクメシャチホコ

天野和利時事通信社・昆虫記者
オオモクメシャチホコ幼虫の正面顔。お尻の角も魅力的なイモムシだ。

 お尻の角の先から、ミミズのような物体をニョロニョロと出して、天敵を威嚇する奇怪なイモムシを知っているだろうか。そのイモムシは、モクメシャチホコの仲間の幼虫だ。

 ヤナギやポプラで見つかるオオモクメシャチホコやモクメシャチホコの幼虫のお尻には、大きな角がある。この幼虫は、いじめられると角の先の穴から、赤く、クネクネした紐状の物体を突き出して、相手を威嚇する。

お尻の角からミミズ風の物体を突き出したオオモクメシャチホコ幼虫。
お尻の角からミミズ風の物体を突き出したオオモクメシャチホコ幼虫。

真後ろから見たオオモクメシャチホコ幼虫。尾脚が角に変化した感じが分かる。
真後ろから見たオオモクメシャチホコ幼虫。尾脚が角に変化した感じが分かる。

 こうした行動は、虫好きにとっては「キャッキャ」と騒ぎたくなる楽しい余興のようなものだが、虫嫌いの人や天敵の生物の目には、非常に気味悪い仕草に見えるだろう。

 威嚇のために、肉質の柔らかい角を出すイモムシとしては、アゲハの仲間の幼虫が知られる。アゲハの幼虫の頭部と胴体の間から出てくるこの角(肉角、あるいは臭角などと呼ばれる)は、表皮組織が変化したもの。

 これに対し、オオモクメシャチホコの幼虫の角は、尾脚という一番後ろの腹脚(歩くための吸盤のような組織)が変化したものだという。つまりこのイモムシは、足の先からミミズ風の物体を伸ばしていると言えるかもしれない。実に魅力的(虫好きの感想)で、実に不気味(虫嫌いの感想)だ。

 オオモクメシャチホコは、楕円形のカチカチの繭を作る。この繭の残骸が樹皮上に残っていれば、その木でこの蛾が発生している証拠。こうした証拠がある木を定期的に見回っていれば、そのうち憧れの幼虫に出会える。

 モクメシャチホコの「モクメ」は、成虫の翅の木目模様に由来する。そして。この木目模様も非常に芸術的だ。

オオモクメシャチホコの成虫。翅の木目模様が美しい。
オオモクメシャチホコの成虫。翅の木目模様が美しい。

成虫が出た後のオオモクメシャチホコの繭。カチカチで素手では容易に壊せない。
成虫が出た後のオオモクメシャチホコの繭。カチカチで素手では容易に壊せない。

上から見たオオモクメシャチホコ幼虫。ジンベイザメ風の体形で目立ちそうだが、葉の上だと意外に目立たない。
上から見たオオモクメシャチホコ幼虫。ジンベイザメ風の体形で目立ちそうだが、葉の上だと意外に目立たない。

 幼虫を飼育すると、可愛く不気味なイモムシ、カチカチの繭、鮮やかな模様の成虫と、それぞれの段階の姿を満喫できて楽しい。。

 ヤナギやポプラの木の周囲を長時間うろついている人がいたら、それは昆虫記者のようなモクメシャチホコのファンである可能性が高いので、不審者扱いせず、温かく見守ってあげてほしい。

(写真は特記しない限り筆者=昆虫記者=撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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