真夏の夜を彩る月の女神=オオミズアオ
オオミズアオの仲間は英語ではルナ・モス(LUNA・MOTH)と呼ばれる。ルナとはローマ神話の月の女神。日本産オオミズアオの旧学名には、アルテミスの名が当てられていた。アルテミスとはギリシャ神話の月の女神のことだという。
つまりオオミズアオは、世界で女神様扱いされるほど優美なのだ。ヤママユガ科の大きな蛾(開張=翅を開いた際の左右前翅端の間の長さ=は大きいものでは12センチほどになる)で、神の遣いの風格が漂う。
前翅の前方が赤く縁取られた青白い姿は、決して派手ではない。しかし、その清楚な美と、優雅な形状は、まさに女神にふさわしい(虫好きの個人的感想。虫嫌いには亡霊のように見えるかも)。
月の女神と言えば、日本の古典文学で思い起こされるのは「竹取物語」のかぐや姫だろう。もしかすると、作者が月夜に見たオオミズアオが、この物語の発想の原点になったのかもしれない(虫好きの勝手な想像です)。
そんな女神の魅力に一瞬で打ちのめされる者も多く、この蛾との出会いがきっかけで蛾マニアになる虫好きも少なくないという。
年1化(年に1回羽化)のものが多いヤママユガ科の蛾としては珍しく、オオミズアオの仲間は通常年2化(4~5月と7~8月に成虫が発生)なので、出会う機会はヤママユガ系の中では比較的多い。しかし佳人薄命という言葉の通り、成虫の寿命は1週間ほどしかないので、この女神との出会いを、幸運の兆しと信じてもいいかもしれない。
オオミズアオには、オナガミズアオという「そっくりさん」がいて、この2種の成虫の見分けは極めて難しいのだが、異常にこだわりの強い虫好き(昆虫記者を含む)でなければ、2つ合わせて「オオミズアオの仲間」としておけばいい。
オオミズアオとオナガミズアオは、幼虫の段階なら見分けが容易だ。終齢幼虫の頭部は、オナガミズアオでは緑色だが、オオミズアオでは茶色だ。そしてオナガミズアオの幼虫はハンノキの仲間の葉にこだわる偏食者で、オオミズアオの幼虫はサクラやブナ科のクリ、コナラに多い。
つまり、幼虫から育てれば、オオミズアオとオナガミズアオの区別に迷うことはない。しかし巨大な幼虫は大食漢なので、飼育するには相当な覚悟が必要だ。
(写真は特記しない限りすべて筆者=昆虫記者=撮影)