迷走するレアル・マドリー。ジダンの電撃復帰と、埋まらないペレスとの溝。
ジネディーヌ・ジダン監督が、レアル・マドリーに復帰した。
「ジズー」の愛称で親しまれるジダン監督は昨季終了時に退任を決断。だが、今季の3大タイトルにおける無冠が決定的となっている状況で、彼は再びマドリーの指揮官ポストに就いている。
ジダン監督が戻ってくる。その一報は驚愕の事実として伝えられた。選手たちの大半は、そのニュースをテレビやソーシャルメディアの情報によって知ったという。それは突然の出来事だった。予想する者はいなかった。ジズーが電撃辞任した、あの時と同じように、だ。
ジズーの指導を受けた経験がないのはティボ・クルトゥワ、アルバロ・オドリオソラ、ブラヒム・ディアス、ヴィニシウス・ジュニオールのみだ。現所属メンバーの、25選手中21選手がジズーの指導を受けた経験がある。彼らは旧知の仲なのだ。
しかし、なぜジダン監督は復帰を決めたのだろうか。フロレンティーノ・ペレス会長は、彼に2度電話を掛けたといわれている。「愛する会長とクラブのオファーを断れなかった」と語ったジズーだが、一度目の電話で承諾したわけではなかった。躊躇(ためら)う理由はいくらでも挙げられる。
■ジズーとペレスの齟齬
そもそも、ペレス会長の方針とジダン監督の考えは合致していなかった。
若手選手の起用を推奨していたペレス会長に対して、ジダン監督はテオ・エルナンデス、マルコス・ジョレンテ、ヘスス・バジェホ、ボルハ・マジョラル、ダニ・セバジョスらを重宝せず、経験豊富な選手たちを中心に据えた。2017-18シーズン、チャンピオンズリーグ決勝のリヴァプール戦のスタメンの平均年齢は28.7歳だった。
2018年1月の移籍市場で、マドリーはケパ・アリサバラガ獲得に乗り出していた。この補強においても、将来有望なスペイン人GKを引き入れたいというペレス会長の狙いが見て取れた。だがジダン監督はケイロール・ナバスを正GKとして考えていた。ケパの獲得は見送られ、K・ナバスをゴールマウスに据えたジダン・マドリーはチャンピオンズリーグ3連覇を達成した。
サンティアゴ・ソラーリ前監督は、ペレス会長の意向に沿って、レギロンやヴィニシウスをスタメンに抜擢した。その一方で、イスコとマルセロは冷遇された。その結果が、今季の3大タイトル逸につながるとしたら、ペレス会長とジダン監督のどちらが正しかったのかは明白である。
レアル・マドリーというクラブでは、如何なる時であれエゴが衝突する可能性が潜んでいる。選手間はもちろん、選手と会長、選手と監督、監督と会長...。年俸、移籍、処遇、戦績、衝突する要素は多岐にわたる。
昨季終盤、ジダン監督、クリスティアーノ・ロナウド、ガレス・ベイルと、3者が退任あるいは退団を検討していた。結果として、残ったのはベイルだった。だがベイルのエース従位計画は頓挫した。ペレス会長の迷走は終着点を見つけられずにいる。
■起用法
ジズーが去り、苦しんだのがイスコだ。「フィジカルコンディションが悪い」というのを理由に、ソラーリ前監督はイスコに出場機会を与えなかった。ソラーリ政権でのイスコの出場時間は528分で、プレータイムにおいては21番目の選手だった。
そして、チャンピオンズリーグ決勝トーナメント一回戦セカンドレグのアヤックス戦で招集外になったイスコは、本拠地サンティアゴ・ベルナベウに行かず、帰宅した。試合後、主将のセルヒオ・ラモスを中心に、選手だけのミーティングが行われたが、イスコはそこにも顔を出さなかった。彼の行動はソラーリ前監督の怒りを買い、クラブ側がイスコの処分を検討する事態にまで発展した。
また、マルセロはレギロンにレギュラーを奪われた。カンテラーノの勢いに押され、世代交代の象徴のように、定位置を失った。今季、マルセロがリーガで初アシストを記録したのは第28節セルタ戦だ。昨季は、ジダン監督の下で、11アシストを記録していた。ソラーリ政権でのマルセロの出場時間は1156分で、全選手の中で16番目だった。
ジダン監督の就任前、クルトゥワのリーガにおけるセーブ率は67%で、全体でワースト2位の数字を記録していた。しかしながら、ソラーリ前監督の下では序列が一向に変わらず、K・ナバスに先発のチャンスは与えられなかった。
■訪れる変化
「全員が戦力だ。しかし、夏には何らかの変化が訪れる」
イスコ、マルセロ、K・ナバスを自身の初陣でスタメンに戻したジダン監督だが、その一方で補強を示唆している。ポール・ポグバ、エデン・アザール、キリアン・ムバッペ、サディオ・マネ...。補強候補に挙げられているのは、ワールドクラスの選手たちだ。
各チームのエース級の選手獲得が、求められている。その際、ジズーの影響力は小さくない。彼らは「ジダンの指導を受けてみたい」と言って憚らない。彼らにっては、幼い頃に見た憧れの選手なのだ。それだけ、フットボールの世界において、ジネディーヌ・ジダンというのは特別な存在なのである。
ただ、ペレス会長と意見を戦わせて立場を悪くするほど、ジズーは愚かではない。それでも、彼は愛するクラブをすくうために、虎視眈々と改革に着手しようとしている。