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11年目の3.11に災害ボランティアのこれからをインクルージョン視点で考える。#知り続ける

佐多直厚コミュニケーションデザイナー
被災地支援のTシャツ(筆者撮影)

 あの日から自分の中にずっと吹いている向かい風。それはだれかのために頑張り、活動への感謝が何物にも代えられないという想いの風です。3.11を契機に名前の不要な有志活動にわたくしも本格稼働。有志の間で愛称せんせーと呼ばれて通い災害ボランティア活動。得難い体験、知恵そして技術もたくさん増えました。ボランティアでなければ絶対出入りできなかった復興支援活動そして漁業、農業など地場産業の現場。人力でできることに限りはあり、日々異なる現場で、違った顔ぶれで、少しづつ前進し、被災した方々に少しづつ明るい顔を取り戻していただく。できる限りの自分の知恵を絞って、チームで共有・引継ぎして、災いを拭い去っていく日々が貴重な貢献の財産になりました。

2011年4月石巻市にて(筆者撮影)
2011年4月石巻市にて(筆者撮影)

 貢献体験の財産とともに得たのは他者優先の心。差し伸べられた援助を自分はいいからと笑顔で譲ろうとする方々。厳寒と舞い立つ粉塵の中、長い行列にも我慢して励ましあっていく姿。

日本のダイバーシティ&インクルージョンはこの混沌の中から。

「どんなに苦しくても人は他者の役に立つことを至上の喜びと感じる」

それはきれいごとに過ぎないといわれるかもしれません。たしかにずるい人、頑固な人にも出会いましたが、それにも理由がありました。動けない隣人に何か届けてやりたい。排泄に問題のある妻が我慢して引きこもっている。被災したことで社会的弱者であることが顕在化し、生きづらくなってしまった大切な人のための行動。悪意の裏にはけん責を引き受ける少なからぬ覚悟が多様なかたちでありました。この覚悟した凍った心を溶かして、解決策を見つけるのも大切な活動です。他者優先の心がダイバーシティ&インクルージョン=多様な生き方を理解し共生する社会の基本理念に一致していきました。その現場では一日、一日を乗り切って小さな笑顔の灯を見て、作業を終了する時に住民の方に向けて自然に出る言葉は

「ありがとうございました~」

ボランティアさせてもらえたよろこびが感謝の言葉になりました。

わたしたちも感謝を伝えたいんだという声が。

 絶望の淵にある被災した方々。がれきを片づけて少し床面が見えただけで、その顔に光が差します。よし明日もまたやっぺな、と。数か月が過ぎたあたりから何とか感謝の気持ちをカタチにしたいというご相談も多々あり、災害ボランティアセンター、ボランティア団体を中心に機会をとらえてイベントが持たれました。

わたくしが振り返ってみてひとつご紹介したいのは被災地発信ソングプロジェクトです。被災地を応援する歌や有名人訪問が多くの方々を元気づけましたが、これは被災者が支援への感謝と共に生きる喜びを歌って、世界に向けて発信しようというプロジェクトです。

福島県いわき市道の駅よつくら仮設店舗での録音風景(ティートックレコーズPR動画より)
福島県いわき市道の駅よつくら仮設店舗での録音風景(ティートックレコーズPR動画より)

 2012年初頭。岩手県一関市出身の金野貴明さんは音楽事業会社「ティートックレコーズ」の代表取締役。被災地発信ソング「未来への扉」を作曲し、自社のアーティスト、音響機器、録音会場等の手配そしてレコード制作まで提供しました。そこに日本を代表する音楽エンジニア、映像・音楽制作会社などもライバル関係を超えてプロボノ参画。被災した5県12か所でレコーディングを開始。大変な中で練習していただいた参加者のコーラスが響きあい、最後にはそのすべてをミックスしたレコードになりました。それぞれの土地で練習し、場所を探し、録音した4か月。

こちらから記録映像をご覧ください。 ティートックレコーズ許可済*インクルーシブな愛があふれる歌詞は動画YouTube画面下のコメント欄で読めます。

映像には老若男女、病やけがをおして参加する方、海外の方など多様な参加者。

<ひとりひとり笑顔は違うけど… 願いはひとつ 穏やかなその瞳>

10年経って聴いてみると、歌にこめられた願いは復興だけでないインクルーシブさ、大きな包み込む愛だとわかります。レコード販売の利益はすべて世界の母子のためにと寄付され、感謝はここでも他者のためにでした。ここまで紹介したのは東日本大震災ボランティア活動のごく一部です。あんな活動も、こんな励ましあいもあったなと思い出したこともあると思います、忘れずにいてください。語り継いでください。それがこれからの日本の多様で温かい社会を当たり前にしていく規範になるはずです。

それからの年月はまさかの連続。被災で開いたダイバーシティ&インクルージョンへの道。

 11年の間に被災地支援は多様な地域支援へと育っていきました。わたくしの場合は牡鹿半島での漁業のお手伝い、山元町での農地作業のお手伝い、そして祭礼参加などに。ボランティア仲間には移住して農業の会社を立ち上げたり、社協の職員になったりと根を下ろした人も。ボランティアが仲介して地域同士、都会と地域がつながることも多々。遠隔地域というマイノリティ、人口減少が進む中で暮らす人もマイノリティ、しかも被災という立場を個性として活かす支援プロジェクトが立ち上がっています。

 しかし辛いのはご存じのように毎年起こる自然災害。急激に激甚化、広域化し、かつ繰り返しの発生。

「まさかうちがそんなことになろうとは…」

伺う土地すべてでそういう声を聴きます。日本では6月から9月はもう水害シーズンとなり、今年はなんとか穏やかにと念じずにはいられません。

2018年西日本豪雨の真備町活動宿泊拠点にて 母から小遣いもらって来たという関東の高校生(筆者撮影)
2018年西日本豪雨の真備町活動宿泊拠点にて 母から小遣いもらって来たという関東の高校生(筆者撮影)

そして水害以外にも地震、噴火、突風もいつ起きるかと。活動先は全国へと広がり、ボランティアメンバーも疲弊を感じました。

 そして最大のまさかはコロナ禍。ボランティアは接していく、ともに汗を流す活動なのに三密を避けるだけでなく、被災地での流行厳戒対策で入ることは出来なくなりました。支援するには寄付、情報交流などでの対応。活動の停止で心ふさぐ想い、体力の低下も著しく感じています。2022サマーはどうなんだろう?コロナ禍は?災害は?

今こそ整えたい「助助」の体制。

 激甚化、コロナ禍を超えていかねばなりません。コロナ禍によってリモートでできることも随分拡張できました。ボランティアのバックヤード運営、連携・連絡にはデジタルとリモートが活躍しています。

災害時の自助・共助・公助という基本にも進化が必要だと考えます。発災時は100%自助で切り抜けるしかありません。それから共に助かるために動き、そのベースとして公助を活用する。ボランティアはこの共助に加勢する仲間、有志です。でも多発する災害には加勢する限界もあります。精神的、肉体的そして費用的にも。

 そこで自助・共助・公助に「助助」を加えることを提言します。インクルージョン視点によってさらに強くするためにボランティアを助けて継続的支援にする体制を今こそ構築すべきです。

ボランティア人材の課題

活動情報の収集、確実な入退出確認、安全管理、実績・技能記録について現状は現地でのアナログ運営が頼りです。寝る間もない管理運営スタッフ。活動現場の手も足りません。これをデジタルで高度化し、負荷を軽減したいものです。高度化が進めば、経費・優待・各種あっせんの提供にも踏み込めます。ボランティア活動を経済的に応援することはこれから絶対必要です。ハードルも下げなければ人材は足りないのです。様々な環境、身体そして想いの多様なボランティアが活動に参加してほしいのです。

支援物資の課題

備蓄物資の管理、緊急支援物資の受け入れに高度なロジスティック運用が必要です。どこで、なにが、いつまでに。現地拠点のストックから備蓄・運送物流までいつでも関係者がチェックして要請できる、そんな物流網です。現在物流を支えているのも実は有志の人材の運営です。いかに作業負担を減らすか、そして確実に届けて、届いた達成度を共有する。インクルーシブ視点で考えるボランティア活動の基本インフラと言えるものです。

 この課題をID管理によるDX手法で解決しようというプロジェクトが昨年、10年目の3.11に発足しました。W4Uプロジェクトです。

ウィー・フォー・ユープロジェクトロゴマーク(W4Uプロジェクト使用許可済)
ウィー・フォー・ユープロジェクトロゴマーク(W4Uプロジェクト使用許可済)

W4Uと書いてウィー・フォー・ユー。わたしたちはあなた(あなたたち)のために、という名称です。このプロジェクトを運営するのは一般社団法人VIDネットワーク。ソフトバンク株式会社顧問の笠原諄一さんを代表に、元デジタルハリウッド大学大学院特任教授の小山昌孝さんが主導し、デジタル開発・ソリューション提供組織が参画。筆者もアドバイザーとして加わっています。政府、自治体、災害支援組織をネットワークして協議を進め、個人ボランティア活動、支援物資提供の志を高度に継続的に支援できるように構築を進めています。コロナ禍のせいで進みが遅いのですが、現在関東の自治体で実証実験を待機中です。

全容はお見せできませんが展開の核であるDXシステムのPR映像をご覧ください。

PR映像:IDで実現するボランティア支援*CC日本語字幕付

忍耐の日々を乗り越えるのは人のチカラ。

あの厳寒の2011.3.11から今、そしてこれからも必要なのは諦めないこと。感謝を忘れない次の行動。様々な生活をダイバーシティ&インクルージョン視点で復活支援する。それが現在、そしてこれからのボランティアだと思います。そのボランティアを助けましょう。加われる安心を用意しましょう。映画のスーパーヒーローは平気な顔して助けるために飛び回っています。でも実在のヒーロー、ボランティアには生活があります。家族が健康で、憂いがなくて幸せだからこそボランティアに出かけられます。行ってらっしゃいと送り出してもらえます。ボランティアには幸せでいてもらわねばなりません。「助助」はそういう体制なのです。最大の難関はこの運営の資金調達です。システムをこちらで用意し、運営スタッフとともに提供。物資のRFタグの貼りこみも含めて被災地支援の負担を軽くする運営を担うための資金をいかに調達するかです。そういった詳細を早くご紹介し、災害という常にある危機対応に貢献したいと思います。

参考まで:過去の関連執筆記事

2018年のキーワードは戦う、勇気そしてインクルーシブ。(2018/1/2公開)

コミュニケーションデザイナー

金沢美術工芸大学卒。インクルーシブデザインで豊かな社会化推進に格闘中。2008年、現在の字幕付きCM開始時より普及活動と制作体制の基盤構築を推進。進行ルールを構築、マニュアルとしての進行要領を執筆し、実運用指導。2013年、豊かなダイバーシティ社会づくりに貢献する会議体PARADISを運営開始。UDコンサルティング展開。2023年7月(株)電通を退職後2024年1月株式会社PARACOM設立。 災害支援・救援活動を中心に可能な限りボランティア活動に従事。ともなってDX事業開発、ノウハウやボランティアネットワーク情報を提供。会議体PARADISの事業企画開発を担います。

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