人類最大の発明。それはデザイン。ダイバーシティ発想でデザインの進化の先を探求しましょう。
人類が人類たる源流をたどれば、火(発火と管理)、言語(文字を含む)、車輪(ねじを含む)を発明したことでしょう。文明を開化させ、その先に生まれた三大発明といえば火薬、羅針盤、活版印刷といわれます。別の視点からは自動車、船、飛行機の方が納得するかもしれません。現在も様々な発明を産み出す人類。わたくしはその中で最大の発明は「デザイン」ではないかと考えます。
デザインとはなにか?
狭義では美術の一つの分野。日本語訳では図案です。広告、書籍などの絵柄や文字のデザインなどが頭に浮かぶでしょう。グッドデザイン賞を事業の柱にする日本デザイン振興会では、「常にヒトを中心に考え、目的を見出し、その目的を達成する計画を行い実現化する。」この一連のプロセスであると表明されています。
これをもっとシンプルに絞れば、De Sign~サイン・象徴化して共有するということでしょう。良いデザインだねという時、その図案は象徴的なスタイルを持っているはずです。そしてデザインは図案にとどまりません。立体物、住居、衣服、街並み、工業機械から社会構造、コミュニケーションという物体ではない共有概念まで広くデザインしています。さらに目的設定、構想、計画そして実現&活用というプロセスまでも象徴化する展開を共有する。このデザインの共有こそが人類がともに文明を築き、拡張させグローバル化を実現させた偉大な発明だと考えます。
デザインの価値尺度とはなにか?
良いデザインだねと言いますが、良いデザインっていったいどんなデザインでしょう?これ好きとかこれはイマイチ好きになれない。そういう好き嫌い、フィーリングというのはデザインというよりアートとしての評価であり、評価者の持つ美意識によるものです。デザインの評価基準は機能性があるかないかです。求める機能性があること。そしてその機能性を機能美に昇華して持っているかです。デザイン美は機能美そのものです。機能の満足度が高く、いとおしくなる存在となった時に誕生します。
デザイン美の新しい時代。基準はDEI。
近代のマスコミュニケーションの時代に入ると、機能の満足度を測る基準は不特定多数の人に使いやすいというものになりました。デザインが対応したのは、はじかれる少数者も使いやすいユニバーサルデザインという概念です。シンプルに言うと、だれもがつかいやすいデザイン。世界基準として「ユニバーサルデザイン7原則」が提唱され、世界中の行政、福祉そして企業が共有し、取り組みを掲げています。
「ユニバーサルデザイン7原則」国立研究開発法人 建築研究所ホームページより転載
この7原則の上に、だれもが使いやすくてかつ機能美があるものが産み出されて活用されています。そして近年、だれもが使いやすいデザインを専門家が考案し、利用者に提供するという方向性から変わろうとしています。その理念がDEIです。D=ダイバーシティ:多様性、E=エクイティ:偏りない公正さ、I=インクルージョン:誰もが参画するという意味を持つ理念の略称です。
小学生に紹介する時は「みんなで、えこひいきなく、一緒にやる」と説明しています。
新時代を担うインクルーシブデザイン。
DEI理念のI=インクルージョンをデザインのテーマにしたものがこの記事で紹介したいと考えたインクルーシブデザインです。ユニバーサルデザインが専門家によるものであったのを利用者が参画してともに開発しようという転換です。出来上がったものを評価するのではなく、起点から参加するのです。これまでデザインに限らず、福祉から生活そしてビジネスなどにおいても、援助が必要な人にはサポートの充実を目指してきました。援助を提供するだけでなく、援助は人々の能力を引き出し、活用するために発揮し、プロジェクトやライフステージを一緒に産み出す仲間として迎えようという志向です。インクルーシブデザインは誰もが参画するデザイン、全員活躍デザインです。
AIが席巻する創造分野もインクルーシブデザインが、その危惧を解消し、輝く未来に導く。
AIが文章を書き、絵を描く、合成するそして製品をデザインする。優れた情報収集と統合能力はスピードと調整機能において人間はかないません。デザインは機能美。最も効率的で、コストやエコ対応なども配慮できるデザイン開発は、早々にAIの独擅場となるかもしれません。しかしインクルーシブ視点は情報の収集ではできない個々の人のため~「だれ一人取りこぼさない」であり、視点を集めてより良き解を探すものです。
もう少しやさしく言うなら「人の多様な不便を起点とし、解を求めるデザイン」です。人間が求める機能性・機能美をAIに統合させる。またはAIが提示する解が先にあったとしても、個々の提案を取り込んでさらなる解を見出す。そんな理想のコラボレーションがインクルーシブデザインなら実現できるのです。
インクルーシブデザイン・ネイティブを育てる時代へ。
AI時代に向けて考えるのは、頭脳で理解する理念ではなく、当然の基本思考としてインクルーシブデザインを生まれ持っているネイティブを育てられたらということです。インクルーシブデザイン研究と実践を、その黎明期から推進している平井康之教授。九州大学大学院芸術工学研究院 ストラテジックデザイン部門において先進研究を進めてきました。その薫陶を受けた兒島理華氏が発案し、小学生向けワークショップトライアルを4月初頭に行いました。九州大学研究者情報ページ 平井康之
その名はくるくるデザインワークショップ。
参加者は小学校4年生~6年生12名。春休み最後の一日をくるくるデザイン体験に来てもらいました。まずはお絵かきとデザインの違いから。自由な楽しさで好き嫌いや上手、下手で鑑賞するお絵かきとは違う、だれかを想定して役に立つものを作るデザインの理解です。このだれかを「みんな」と決め、紙コップと粘土や絵の具ほか工作材料を駆使してみんなに役に立つコップを作ってもらいました。その時間は作品シートづくりを含めて15分。
「短かすぎ~!」
という声が上がりますが、
「時間が限られるのもデザインという仕事の大事な一部なんだ」
そう説明すると納得して制作に集中し、時間オーバーすることなく完成。
この段階でもみんなのためという課題に対してしっかりと自分なりの役立ちを考えたデザインになっています。12人の制作をお互いに見て、いろんな課題とデザインがあることにも気づいたところで、インクルーシブって、インクルーシブデザインってどんなこと?という学習タイム。解説を聴いてワークショップならではの体験へ。
販売されているユニバーサルデザイングッズに触れる。試してみる。
そして不便さを実感する時間です。
4人一組になり、指が使えない、片腕が使えない、耳が聴こえない、目が見えない状況で水をシェアして飲む体験。声を掛け合ったり、できるサポートを考えて、この不便さを乗り越える体験です。
「不便だけど不自由じゃない。」感じた気持ちと生まれた発想。
この言葉はまさに不便さを感じる社会の人々の言葉です。ご不自由ですねと言われるのは違う。不便なだけだと。子供たちから出た言葉には実感があります。これこそネイティブの兆しだと嬉しく思いました。さあ、体験タイムを活かしてくるくるデザインするみんなのコップづくり再び!の15分です。
二つの体験後デザインを見てみましょう。
左は遊んでくれるロボットがやさしさあふれる機能に。指が使えなくても持ちやすい取っ手と飲みやすい切れ込みのある口。ふつうの人でも滑らずに使えます。そしてひっくり返すと…ほらロボットです。
右はおれの好みに応えるコップから全員のために。目の見えない人、持つのが困難な人が注ぐときに困らないガイド装置がついており、コップの底には吸着機能で安定。取っ手は伸縮して手のひらに装着することもできます。作者曰く、これもおれのコップ。おれってみんななんですね。
デジタル、インクルーシブ、SDGsすべてをネイティブにできる世界に。
ワークショップの最後に発表会。12人の参加者は初めて会い、互いをニックネームで呼びあい、少しだけ自己紹介しただけです。しかしデザイン、体験そして連携することで一期一会の喜びの日を過ごせたと思います。みんなのために…日ごろから耳にするみんなという単語。しかしそれはあいまいなだけになりがちです。だれひとり取り残さない…これもだれってだれ?知らない人は知らない。ワークショップの体験で、だれのためにをタイトルシートに書く時、発表する時に子供たちはみんなではなく、明快に想定していました。困りごとを具体的に考えることは楽しかったという言葉もありました。たった2時間半のワークショップ。気づきを得て、個々からスタートしてインクルーシブネイティブに育ってほしいと思います。デジタルネイティブはすでに当たり前ですし、AIとの連携についてはきっとインクルーシブが身につけば実現し、SDGsネイティブも育つはずです。なによりもそうなることによって平和でつながりが温かい世界を支えるデザインへと進化することを願います。
取材協力:株式会社電通コーポレートワン 総務センター 社会貢献部
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