岸田首相の「脱炭素」が日本を救えない理由とは?大量失業、競争力低下の深刻度
「資本主義の負の側面が凝縮しているのが気候変動問題(=地球温暖化)であり、新しい資本主義の実現によって克服すべき最大の課題でもあります」―今月17日、岸田文雄首相は、施政方針演説の中で、温暖化対策を重視していくことを強調した。その言葉通りならば、大いに結構なことだ。だが、その後の国会質疑では早くも、その本気度が問われる答弁をしている。
○脱石炭火力、先進国では最後尾
施政方針演説で、新型コロナ対応や「新しい資本主義」等と共に、温暖化対策を重要政策の一つにあげた岸田首相。だが、2030年での温室効果ガス排出削減目標や、大量のCO2を排出する石炭火力発電をどうするかといった具体的な課題については、詭弁を弄するばかりであった。今月20日の参院本会議では、立憲民主党の水岡俊一参院議員が、岸田政権の温暖化対策について質問。
と問いただした。これに対し、岸田首相は
と答弁した。一見、いいことを言っているようにも聞こえなくもないが、実際には問題だらけだ。まず、「非効率な石炭火力のフェードアウト」をするにしても、そもそも石炭火力発電自体が石油や天然ガスによる火力発電に比べ、大量のCO2を排出するもので、高効率型の石炭火力であったとしても、天然ガス火力に比べ、約2倍ものCO2を排出する。だからこそ、先のCOP26では、石炭火力の廃止が最大のテーマの一つとされたのだ。岸田首相は「2050年には石炭火力は基本的にない」などと悠長なことを言っているが、他の先進国の国々は2030年までに全廃する方向で既に石炭火力の停止を進めている。例えば、イギリスは2024年まで、石炭の産出国であるドイツも2030年までに脱石炭火力を実現させるとしている。米国も2035年には発電部門を脱炭素化するとしており、つまり石炭のみならず石油や天然ガスも含めた火力発電を、太陽光や風力等の再生可能エネルギー中心の発電へと置き換えるとしているのだ。
また、水岡議員が指摘している通り、「水素、アンモニアやCCUS等の活用」により、今後も石炭火力発電を続けるという岸田政権の方針こそ、COP26で日本が化石賞という不名誉を被った最大の理由であり、岸田首相は全く懲りていないようだ。石炭に水素やアンモニアを混ぜて燃やすことで、CO2排出を削減するといったやり方は、排出削減が不十分であり、水素やアンモニアの生産に石炭や天然ガスを使うのならば、その過程で大量のCO2を排出し本末転倒だ。CCUSも大型の火力発電から排出される大量のCO2をさばけるようなものではなく、技術的にもまだ確立したとは言い難い。そうした不確実なものに頼り、石炭火力を「延命」させようとする日本の姿勢にこそ、批判が高まっているのである。日本は再生可能エネルギー大国としてのポテンシャルが極めて高く、石炭火力「延命」に使うリソースを、再エネに費やす方が、より現実的なのだ。
○資金規模でも欧米と差
今月20日の参院本会議では、共産党の志位和夫委員長も、温暖化対策について質問。
と問うた。これに対し岸田首相は、
と答弁した。岸田政権は、脱炭素社会実現のための研究開発に「グリーンイノベーション基金事業」として2兆円を拠出することを決定、公募も始めている。ただ、欧米に比べるとその投資の規模は大きいとは言えない。米国の上院・下院両議会は昨年、インフラ投資計画法を可決。同法では、バイデン政権が推し進める温暖化対策の関連で全米の電力グリッド網整備に650億ドル(約7.5兆円)を充てる他、全米50万カ所の電気自動車の充電施設整備などに150億(約1.7兆円)ドルを拠出するとしている。
EUも「欧州グリーンディール」として、脱炭素社会の実現のため、10年間で少なくとも1兆ユーロ(約128兆円)もの財政出動を行うことを、2019年末の時点で决定している。いかに早く脱炭素社会を実現するかは、地球温暖化の防止というだけではなく、今後、歴史的な変革が起きるだろう世界経済の中での、主導権を得られるかどうかの競争でもあるのだ。投資という一点においても、脱炭素社会実現への岸田政権の本気度はまだまだといったところだ。
本稿の冒頭にも述べたように、岸田政権が「新しい資本主義の実現によって克服すべき最大の課題」として温暖化対策をとらえていること、それ自体は好ましいことだ。だが、求められているのはリップサービスではなく、本気の変革なのである。有効な政策を世界の脱炭素化に向けた動きについていけるスピード感で行うことが、温暖化防止という面でも、日本経済の建て直しという面でも必要だ。
(了)