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メモリ4GBで月額3980円から 富士通「サブスクPC」はなぜ炎上したのか

山口健太ITジャーナリスト
ノートパソコン「サブスク」販売が炎上(FCCLのWebサイトより)

富士通クライアントコンピューティング(FCCL)が3月に始めたパソコンの「サブスク」販売に対して、SNS上では「高すぎる」などの声が相次いでいます。なぜ炎上したのか、FCCLに事実関係を確認しつつ、理由を考察してみます。

パソコン本体とサービスのセットを月額制で提供

FCCLが始めた「FMV Prime」は、パソコン本体と複数のサービスのセットを月額3980円から提供するサービスで、「国内PCメーカー初の本格的なサブスクリプションサービス」とうたっています。

FMV Primeの概要。パソコン本体とサポートサービスがセットになっている(FCCLのWebサイトより)
FMV Primeの概要。パソコン本体とサポートサービスがセットになっている(FCCLのWebサイトより)

プランは「3年」または「5年」、Officeの有無により合計4種類。「5年プラン」で「Officeなし」の場合、毎月の支払いが月額3980円になります(いずれも税込)。

FMV Primeの基本となる「エントリーコース」のプラン(FCCLのWebサイトより)
FMV Primeの基本となる「エントリーコース」のプラン(FCCLのWebサイトより)

パソコンの機種はFMV LIFEBOOK AHシリーズで、同社の15.6型A4ノートとしては上位の製品ラインです。しかしCPUはCeleron 6305、メモリーは4GB、画面解像度はHD(1366×768ドット)など、基本スペックは最低限です。

FCCLによれば、この機種は直販サイトで売っているものと同じとのこと。直販価格は11万3080円(4月27日まではキャンペーン価格で8万9333円)です。これを支払総額から単純に差し引くと、毎月2000円程度がサービスの料金とみられます。

FMV Primeには、以下の3つのサービスが含まれています。

(1)My Cloudプレミアム「あんしんスタンダード」コース。有料の電話サポートが1年間無料、100種類のソフト使い放題など複数の特典を含む。単体では月額1016円

(2)水こぼしや落下による故障を無償で何度でも修理できる「ワイド保証サービス」。単体では月額400円程度

(3)遠隔操作によるサポートでパソコンの活用方法などを相談できる「FMVまなびナビ ワンポイントレッスン」の無制限コース。単体では990円

特徴はパソコンの使い方に関する手厚いサポートです。FCCLのパソコンを普通に買った場合、本体に関する電話サポートは1年無料ですが、Office製品や他社製ソフトウェアに対応したサービスは有料(1件3140円)となっています。

しかしFMV Primeでは、(1)によって有料の電話サポートが1年間無料。2年目からは有料(割引あり)になりますが、その代わり(3)を無制限に使えるというわけです。

3つのサービスを単体で契約した場合は月額2400円程度となり、3年または5年使い続けるという前提であれば、FMV Primeはやや割安な設定といえます。パソコンをこれから使い始める人で、回数を気にすることなく相談したい人にとっては価値がある印象です。

割賦販売はサブスクと呼べるのか

パソコン本体や個々のサービス自体の価格が高いか、安いかというのは意見が分かれるところかと思いますが、それ以前に筆者が疑問に感じるのは、「これはサブスクなのか」という点です。

最近ではサブスクといってもさまざまな契約形態があるものの、「所有からシェアへ」の流れがある中で、モノを持つことなく必要なときだけ使える権利を得られるのがサブスクの特徴であると筆者は理解しています。

これに対してFMV Primeは、利用規約の中で「割賦販売」であることが明記されています。実際には割賦販売であるものをサブスクと呼んでいるために、さまざまな誤解が生じているように思います。

サブスクであれば、不要になったら解約できると考える人もいるでしょう。しかしFCCLによれば、解約する際には5500円の手数料がかかる上に、分割払いの残額を一括で支払う必要があるといいます。

たとえばOfficeありの5年プラン(支払総額26万8800円)を契約し、3ヶ月で解約するとします。月額4480円を3ヶ月分支払ったので、残額は25万5360円。これに手数料の5500円を足した26万860円の支払いを求められます。

サブスクの解約時に大きな負担が発生するのは違和感を覚えますが、割賦販売なら理解できます。携帯電話などと同じように、分割払いを途中でやめる場合は残債を一括返済する必要があるわけです。

また、途中で解約した場合でもサポートサービスは最後まで利用できるとのことです。サブスクなら解約後も使えるというのはおかしな話ですが、「3年または5年分のサービスを分割払いで購入し、全額を支払った」わけですから、使えるのは当然といえます。

パソコンを「サブスク」で提供すること自体にはさまざまな可能性を感じるものの、これは割賦販売です。サブスクという言葉を使うのであれば、一定期間ごとに機種を変更できるなどの仕組みがほしいところです。

もう少しスペックが高ければ良かった?

パソコン本体を3年または5年の分割払いで買えるのは良いとしても、その期間中ずっと有料のサービスを契約し続けることは本当に必要なのか、という疑問もあります。

途中で解約した場合、パソコン本体に相当する金額だけを一括で支払い、サービスは解約扱いとして費用を負担しなくて済む選択肢がほしいところです。パソコンを使っていく中で「もうサポートはいらない」と気付く人も多いのではないでしょうか。

それに加えて、基本的なスペックの低さに不満を感じた人も多いようです。FCCL広報は、「お客様の月々のご負担額を考慮し、ある程度のスペックにてご提供させていただいた」と説明していますが、5年使い続けるパソコンとしては不安が残ります。

メモリーが4GBで足りない場合、「空いているSO-DIMMスロットに市販のメモリーを増設できる」(FCCL広報)としています。たしかに取扱説明書ではメモリーの増設方法が説明されていますが、これからパソコンを使い始める人にはハードルが高そうです。

メモリーの増設は可能というものの……(LIFEBOOK AHシリーズの取扱説明書より)
メモリーの増設は可能というものの……(LIFEBOOK AHシリーズの取扱説明書より)

スペックに起因する問題が生じた場合、「プレミアム電話サポート等にてご相談いただければ、お客様のPCご利用状況を伺い、適切なご案内を行わせていただきます」(同)としていますが、追加の負担が発生しないか心配になります。

SNS上で低スペックパソコンは目の敵にされやすい印象があり、もう少しスペックが良ければここまで不評の声が殺到することもなかったように思います。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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