オランダのリノベ建築【VILLA AUGUSTUS ヴィラオーガスタス】ドルトレヒトの給水塔ホテル
給水塔のルネッサンスはこの写真から始まった。
画面の右上に見えるのが今回ご紹介するドルトレヒトの給水塔。1930年頃に撮られたものだ。
給水塔はコレラ大流行後の1865年に建てられて1965年まで、つまりちょうど100年間稼働したあとお役御免となった。
この写真が2000年代の初めに市庁舎に展示されたのだが、水に囲まれて佇む姿が、まるでフランスのロワール地方の古城のように美しいと魅せられた実業家たち。ぜひともこの建物を再生させたいと大いにインスピレーションを掻き立てられた。
歴史的な建築遺産としての外観を残しつつ、中に入るとまるでパラダイスのような場所を創造したい。
8月の豊かな実りを思わせるネーミング「VILLA AUGUSTUS(ヴィラ・オーガスタス)」のプロジェクトはこうして始まった。
すでに本来の役目を終えて久しかった給水塔はその後倉庫として利用されていたが、これをホテル本館として再生した。
レセプションとイベントスペースのある1階は元々は水質検査のラボラトリーとエンジンルーム。大きな窓のある2、3、4階は給水塔で働くファミリーが住んでいたフロア。そして円筒形の5、6階部分がかつて水槽のあったところで、50万リットルの水を蓄えることができたという。水圧が上がりすぎると、5階の窓から放水をするシステムになっていて、その様子をドルトレヒトの人々は「給水塔が泣いている」と言っていたのだというから、建物がいかに市民に親しまれていたのかが想像できる。
リノベーションされた客室は画一的ではなく、それぞれにパーソナリティを感じるような内装だが、秀逸はペントハウス。塔のてっぺんの形をそのまま生かした天井になっていて、建物の記憶というのだろうか、そんなようなものがまだしっかりと宿っているように感じられ、ここが水でいっぱいだった風景に思いをはせてみたくなる。
かつて満々と水を蓄えていた敷地は埋め立てられて工業地帯になっていたのだが、それを10年がかりで肥沃な畑に変え、菜園として再生させた。綺麗に区画された庭を抜けてかつてのポンプ室へ進むと、そこがレストランになっていて、宿泊客だけでなく地元の人たちで大賑わい。開放感たっぷりの心地よいこのレストランでは、敷地内の菜園で実る野菜やハーブをはじめ、地産地消、サステナブルなコンセプトでセレクトされた食材を使った料理が楽しめる。
ちなみに私が泊まったのは水の上に浮かぶ離れ。船の上にいるような愉快な設定で、窓の前にはロッテルダムの方へと続いてゆく水路が広がっていた。
リノベ建築というコンセプトだけでもすでに、訪ねて実際に見てみたい思わせる魅力があるが、このホテルレストランにはまたぜひリピートしたいと思わせる吸引力がある。それはきっと目に優しいデザインの力。ちょっとしたコーナーのカラーコーディネートやイラストなど、細かいところにも思い入れが感じられるのが心地よく、旅の土産に持ち帰りたいヒントがいっぱいだった。