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「母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ」:子育てへの文句より愛と支援を

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ:ポテトサラダ大好きです。すみません、自分で作ったことないけど。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

■「母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ」

ツイッター上で話題になっています。

この高齢男性の発言は、とても失礼で、論外です。

直接言われたお母さんも、このツイートを読んだ母親たちも、

「母親なら」という言葉に、母親としての自分の存在を否定されたような思いを感じるでしょうし、「ポテトサラダぐらい」に、料理を中心とした自分の努力を無視された思いを感じることでしょう。

ツイッター上では、多くの人がポテトサラダを作る大変さを語り、この男性の無知無理解を指摘し、母親を慰め、みつばちさんに「グッジョブ!」を送っています。

しかしそれだけにとどまらず、このツイートは、母親や子育てへの無理解、料理への無理解、男女差別、時代の差、ジェネレーションギャップ、そして子育て支援など、多くのテーマが込められているツイートです。

■高齢男性の発言

街中での高齢男性の暴言や、一方的なで頭ごなしの説教が、あちらこちらで問題になっています。

この高齢男性も、料理の知識のなさと、想像力の不足から、こんなことを思ったのでしょう。

普通は、思ったことをすぐに口に出しませんが、高齢になると前頭葉の働きが衰え、言動の抑制が効きにくくなると、脳科学者の茂木健一郎先生がおっしゃっていました。

男性の場合はさらに、会社で部下に対してとっていた態度が、そのまま退職後にも出てしまう面もあるでしょう。

高齢男性の心の中には、昔は違った、昔が正しいという思いもあったでしょう。

■昔は手作りだったとはいえ

昔は何でも手作りでした。コンビニなんてありません。おなかが空いたと言えば、母親がみそおにぎりや焼きおにぎりを作ってくれました。

ジュースは、カルピスか「渡辺のジュースの素」(粉ジュース)、プリンも手作り「ハウスママプリン」。お父さんの手作りおもちゃもありました。

とはいえ、今の60代だって、高度成長時代に育っています。「三丁目の夕日」の世界ですね。次々と家電が入り、インスタント食品が登場し、プラモデルが流行し、子供には多くのものが与えられてきました。時代は、どんどん便利になっていきました。

ポテトサラダは、スーパーのお惣菜の定番。ずいぶん前から売られていましたね。

粉ジュースは、本当の手作りかという意見もあるでしょう。でも、その時代時代の中で、親たちは心をこめて子育てしてきました。

それでも昭和の昔は、お母さんの手間ひまかけて苦労した手作りがいっぱいです。でも昭和の男たちも、戦争に行ったり、過酷な労働をしたりして苦労してきましたし、家の中のものを自分で修理していました。令和の男はどうでしょうか?

■手作りっていいよね。でも、

手作りって、いいですよね。ツイッター上でも、手作りの味を子供に味あわせたいという投稿もあります。たしかにそういう面もあります。

でも、大切なのは手作りかどうかではありません。親たちは、毎日一生懸命働いて、そのお金でお惣菜を買ったり、洋服や手袋を買ったりしています。

今はもう「♪母さんが夜なべして手袋編んでくれた」はないけれど、お惣菜でも100円ショップでも既製品でも、父と母の愛が子に届きますように。

ただ、愛が届きにくい現代だからこそ、愛が届く工夫は必要かもしれません。

■母親の罪悪感

「母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ」。こんなことを言われたら、誰だって深いです。怒っても当然です。ポテトサラダを買うのが何が悪いのか、60歳の男性である私にも、まったく理解できません。

でも、

「女性は惣菜パックを手にして俯(うつむ)いたまま」。

自分で手作りしないことに罪悪感を持つ親は少なからずいます。

けれども、心を痛めているお母さんたちは、それでもう十分です。

何をどう手作りするかは、時代により、各家庭の事情により、違います。それぞれで良いと思います。それぞれが、一生懸命子育てしているのですから。

■良い親とは

ひな祭りには手作りのちらし寿司。いつも季節感のある食卓。良いお母さんだなって、思います。

遅くまで働いて、大急ぎでお惣菜を買って、夕飯の準備。良いお母さんだなって、思います。

御飯が作れるお父さん。良いお父さんだなって、思います

子供ために一生懸命な親は、みんな良い親です。

でも、忘れないでください。多少の手抜きができることも、とても大切です。

心理学の研究によれば、「ほど良い親」が良い親です(どんな親が良い親か:「ほど良い親」にこそ子育ての悩みの答えがある:ヤフーニュース有料)。

■文句を言うなら支援しろ

子育てが難しい時代です。便利な家電がいっぱいできたのに、家事労働の時間が減っていないという調査もありあます。昔はのり弁で良かったのが、キャラ弁を作ったりしているからかもしれません。

それに何でも自動化されるとはいえ、自動子育て機は、科学が進んでも出てこないでしょう。

つい叱りすぎてしまう親、つい甘やかしてしまう親。両親互いに、意見が異なることもあります。祖父母とすれちがうこともあります。文句を言いたくなることもあるでしょう。

ただ、人は文句を言われて良い方向にはなかなかいけません。

文句が言えるくらいそばにいるなら、文句よりも支援しろと、私は思います。

一番中心になって子育てしている人の考えや行動を尊重しながら、両親も祖父母も親せきもご近所も先生も、どうすれば支援できるかを考えましょう。

■報われない親たちに愛を

家事や子育ては、簡単にはほめられない仕事かもしれません。家族の中のあなたの「ありがとう」の一言が、子育てに苦しんでる人の救いになるかもしれません。

料理を作る人にとって、「おいしい」の一言は、とてもうれしいですよね(料理しない人にはピンときませんが)。特に新米主婦が作ってくれた料理は、こげていようと味がどうだろうと、夫はおいしく食べましょう。

そして、どのような食卓でも、どのような家庭でも、

父母の愛が、子供に届きますように。

子の愛と感謝が、父母に届きますように。

今は反発しているように見える子供も、心の底では愛と感謝を感じているにちがいありません。

親も子も、互いに愛を実感できますように。

ちょっと失敗した手作り料理にも、お惣菜のおかずも、みんなが笑顔で「おいしいな」って、言えますように。

*ただし、買ってきたお惣菜を「おいしい」とほめられると、ちょっとご機嫌ななめになるお母さんもいますから、その辺は、ご注意を(*^.^*)。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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