防災の日に考えたい。「タワマンは陸の孤島」とされても、とどまらざるを得ない日が来る
9月1日は、防災の日。そこで、思い出されるのが、今年5月、東京を襲う首都直下地震の被害想定が10年ぶりに見直されたこと。タワマンと呼ばれることが増えた超高層マンションではエレベーターが停止し、機能不全に陥る、というシナリオが想定された。
停電が生じるので、超高層マンションのエレベーターが停止。すると、上層階に住む人は1階に下りるのに階段を使わざるを得ず、支援物資を運び上げることもできない。完全な陸の孤島になってしまう、とされている。
一方で、大災害が起きたとき、マンション住人は避難所に入ることができず、自宅にとどまることが求められる。避難所は、倒壊や延焼で家を失った人で満杯になりがちであるからだ。
そうなると、大災害が起きたとき、「陸の孤島」となる超高層マンションに、多くの住人がとどまることになる。不安にさいなまれるとき、肩を寄せ合いたいのに、孤立せざるを得ない。なんとも困った事態だが、果たして、「陸の孤島」とされるほど悲惨な生活になるのだろうか。
超高層マンションは、災害時、別の顔もみせる
超高層マンションは「停電でエレベーターが止まり、陸の孤島になる」とは、いかにもありそうな話である。
ところが、超高層マンションは災害に強い建物として認定され、1階ロビーが避難所となり、帰宅困難者や避難者を一時的に迎え入れるよう、食料や水、毛布などを備蓄しているケースもある。
「陸の孤島」ならば頼りにならないが、避難所として備蓄品があるなら、大地震が起きた後、超高層マンションを目指してもよさそうだ。
「陸の孤島」なのか、「頼りにできる場所」なのか……大地震の際は大きな違いだ。そこで、想像ではなく、事実に基づいた超高層マンションの災害対策事情をまとめてみた。
本当に「停電で機能不全に陥る」?
まず、「停電でエレベーターが停止し、機能不全に陥る」という点について。
停電でエレベーターが停止するのは、超高層に限らず多くのマンションで起こる事態だ。そのなか、超高層マンションはエレベーターが停止することの弊害が大きい。
そのことがわかっているので、分譲の超高層マンションでは非常用電源を備え、停電時もエレベーターを動かす仕組みが備えられる。もともとは「エレベーター1基を4時間程度動かす非常用電源」が備えられていたが、それでは足りないことが東日本大震災でわかった。
上層階で急病人が出たときなどのケースを想定し、4時間分の非常用電源があっても温存された。つまり、非常用電源を持っていてもエレベーターを止めざるを得なかったのだ。結果として、「陸の孤島」状態は確かに起きた。
それでは困ると、東日本大震災の後、大量の燃料を備蓄することなどで、エレベーターの稼働時間を延ばすことが行われた。エレベーター1基を48時間動かせる非常用電源を備えたり、72時間稼働、1週間稼働というケースも出てきた。
最新の超高層マンションでは、地震に強いガス管を引き入れることで非常用電源が働き続ける。つまり、エレベーター1基を制限なく動かし続けることができる、という工夫も生まれている。
といっても、それは一部の最新マンションの話。多くは、停電でもエレベーターを1日から3日程度動かすことができるようになっているのだが、いまだに「4時間程度しか動かせない」という事例もある。
そのため、「停電でエレベーターが停止し、機能不全に陥る」ケースはないとはいえない。が、すべての超高層マンションが停電で機能不全に陥るわけではないのだ。
安全な超高層マンションは、避難場所として指定される
超高層マンションは、地震に対して脆弱というイメージがある。しかし、実際には地震に対して強いといえる側面もある。
まず、建設するための工法基準が一般のマンションよりも厳しい。基準が厳しくなるのは、高さ60メートル(だいたい20階建て)以上の建物において。それが、20階建て以上のマンションを「超高層」と呼ぶ理由となっている。
ちなみにタワマンと呼ばれるタワーマンションには基準がなく、塔状であれば、18階建てでも15階建てでもタワマンと呼ばれている。
話を戻そう。
地上20階建て以上の超高層マンションは信頼度の高い工法で建設され、理論上、大地震でも重大な損壊が生じることはない。加えて、隣接する建物との間隔が広くとられるので、まわりで火災が発生しても延焼の危険性が少ない。建物内にスプリンクラーを設置し、非常用電源のほかに災害備蓄品が充実するのも、超高層マンションの特徴だ。
液状化が起きたとしても、杭打ちがしっかりしているので、建物は傾かない。それは阪神淡路大震災の際、神戸の埋め立て地で証明された。
そのような強さを持つため、避難所に指定されることがあるわけだ。
災害時、マンション住人は自宅にとどまる
阪神淡路大震災のとき、分譲の超高層マンションは大きな損壊が生じることがなかった。
それに対して、建物倒壊や火災の影響を大きく受けたのが、木造一戸建てや木造のアパート。その住人で避難所が満杯になったため、建物が無事なマンション住人は自宅にとどまることが求められた。
これは、多くの災害で生じる現象だ。人口の多い首都圏では、「避難所に入れない」という問題が深刻になるはずで、マンション住民は、自宅にとどまることが当然になるだろう。
そもそも1棟で500世帯を超える人が住むこともある超高層マンションで、住人が一斉に避難所に押し寄せたら、それだけでパニックが起きてしまう。マンション内にとどまってもらったほうがよいわけだ。
マンション住人は、避難所に入るのではなく、自宅内にとどまる。その事態が想定されるため、超高層マンションでは停電になっても暮らし続けることができるよう非常用電源を充実させている。
加えて、水・食料を含めた備蓄品を備え、災害時でも使用できるマンホールトイレや泥水からでも飲料水をつくる生成装置なども自前で用意している。
さらに、阪神淡路大震災と東日本大震災の際、不動産会社系列の管理会社は、自発的に輸送部隊を結成し、水や食料、医薬品などを被災地のマンションに届けた。
災害時の支援物資が避難所優先で配られ、マンションにはなかなか届かないことがわかっていたからだ。
さらに、避難所を備える超高層も
戸数規模が大きい超高層マンションでは災害に対応する準備が十分に行われている。これは、超高層に限らず、中層・高層の大規模マンションでも同様だ。さらに、超高層マンションでは免震構造や制震構造を採用することで、地震の被害を軽減させる工夫も多い。
そのように地震に対する備えが多いマンションでは、1階ホールなどが緊急時の避難所として指定されることがある。
万一のときは、他の住人や帰宅困難者を迎え入れることができるように指定され、行政が準備した食料品などを備蓄しているわけだ。
超高層マンションは、そのような「強さ」も備えている。
マンション内の避難所は、災害時に頼りになる。が、どのマンションに避難所があるかは、残念ながらわかりにくい。
帰宅難民などが立ち寄りやすいよう、災害時の適切な誘導策などが求められるところである。