健康保険証の廃止を巡り本当のことを言わなかった岸田総理
フーテン老人世直し録(709)
葉月某日
猛暑の8月、最初の週末である4日に注目すべきニュースが連続した。米国では連邦議会襲撃事件で起訴されたトランプ前大統領が無罪を主張した。日本では東京地検特捜部が自民党脱原発派議員の強制捜査に着手した。そして国民が不安に思う健康保険証の廃止について、岸田総理は会見で本当のことを言わなかった。
これらをどう見るかだが、まずは米国から。トランプの起訴はこれで3度目である。もう1つ起訴される案件があるので、大統領選挙を前にトランプは4件の裁判を抱えることになる。
一般の人はこれを見て、これほど犯罪事実を摘発されたトランプは大統領選挙に出馬すべきではないと考えるだろう。しかしロッキード事件で東京地検特捜部を取材して以来、検察と政治の関りを見てきたフーテンの見方は違う。
大統領選挙を前にしたこの時期に立て続けに起訴があるのは、選挙をにらんだバイデン政権の思惑が背景にあるからだ。そうでなければなぜこの時期に集中するのか。起訴するのは去年でも良かったはずだと言いたくなる。フーテンには権力の指示通りに動く捜査当局の姿が目に浮かぶ。東京地検特捜部を取材した経験から知ったのはそういうことだ。
特捜部は新聞とテレビを自分たちの先兵として国民大衆を洗脳操作する。そのため国民は検察とメディアに騙されていることを知らない。日本でも2009年に自民党から民主党に政権交代する直前、特捜部が小沢一郎民主党代表の秘書を逮捕して小沢の政治力を削いだが、背後には自民党政権の指示があった。
ところがそれを言うと国民は信じない。学校で「民主主義は三権分立」と教えられ、司法は独立していると思い込まされているからだ。この国に「三権分立」などない。行政が圧倒的に強く、司法も立法もそれに従属させられているのが現実だ。
「国会が国権の最高機関」というのはお笑い草だ。法律はほとんど若手の官僚が作成し、国会が若干の修正を行うことはあっても、ほぼその通りに成立する。行政権力に対抗して立法能力を持つ政治家は存在しないに等しい。
そこが米国では国民から選ばれた議員が立法するので、日本より「三権分立」が機能している。だが司法が立法や行政から独立しているかと言えば、そうとは言えない。最高裁判事の任命権は大統領にあるし、司法省は行政府に属する。独立検察官と言ったところで大統領の権力から独立しているわけではない。
だからトランプ支持者が3度起訴されてもトランプを支持するのは、捜査機関を「正義の味方」と考える日本人よりまだ民主主義の程度が高い。ただ米国のメディアはフーテンが見る限りひどい。日本と変わらず国民の洗脳操作に邁進している。
フーテンは連邦議会襲撃を支持している訳ではない。あの暴力行為は断じて許せない。ただ選挙結果に不正があったと言いたくなる気持ちは分かる。バイデンの得票数がとてつもなく多すぎるからだ。
近年の大統領選挙で得票数が最も多かったのは、「黒人初の大統領」が期待された2008年のオバマ大統領の6950万票である。最も少ない得票数で当選したのは1992年のクリントン大統領で4490万票だった。バイデンはオバマより1178万票も多い8128万票で、クリントンの2倍近い得票数を獲得した。
得票数が多いのは投票率が62.8%もあったからだ。それはケネディがニクソンと戦って当選した1960年の大統領選挙と同率で、それから現在まで15回の大統領選挙の投票率はすべてそれを下回る。通常は50%台で60%を超えることはない。
ところが投票率が60年ぶりの高水準になった。コロナ禍のため郵便投票を呼び掛けたからだと説明されるがそれだけなのか。人気のないバイデンがこれほどの票を集めた理由を疑いたくなるのは分かる。だからと言って襲撃事件は許されないが。
ともかくトランプに対する連続起訴は、米国の捜査当局が政治的に動く典型例だと思う。すると日本でも東京地検特捜部が4日、洋上風力発電を手掛ける「日本風力開発」から賄賂を受け取った容疑で、自民党の秋本真利衆議院議員の強制捜査に入った。
秋本議員は「脱原発」の旗振り役で、「再生可能エネルギー拡大議員連盟」の事務局長である。「河野太郎デジタル担当大臣の右腕」と言われ、大学が同窓の菅義偉前総理とも近い関係にある。強制捜査の一報を聞いてフーテンは、まず「岸田総理の政敵潰し」を思った。
岸田総理が自民党総裁選でライバルと見るのは、前回の総裁選でも戦った河野太郎、高市早苗の両氏だと思う。高市早苗経済安全保障担当大臣は、後ろ盾の安倍元総理が亡くなり、また今年の通常国会で立憲民主党の議員から総務大臣当時に「放送の政治的公平を捻じ曲げた」と追及された。野党議員に情報を提供したのは総務省で、フーテンは岸田総理の「政敵潰し」に総務省が協力したと思った。
もう一人の河野太郎デジタル担当大臣はマイナンバーカードと健康保険証の一体化を巡り、国民から猛批判を浴びているから、こちらも次の総裁選立候補は難しい形勢である。そこに「右腕」と言われる秋本議員の収賄事件が飛び出した。
この事件がどこに向かうのかまだ見通せないが、河野氏を総裁選に担いだ菅前総理と秋本氏の関係にまでメディアの追及が及べば、菅前総理がキングメーカーになる道も難しくなる。そうなれば岸田総理の「政敵」はほぼ全滅状態だ。
次にフーテンは「国策である原発に反対する者は特捜部によって抹殺される」という佐藤栄佐久元福島県知事の事件を思い出した。彼が書いた『知事抹殺』(平凡社)によれば、東京電力の福島原発に厳しい姿勢を見せた佐藤知事は身に覚えのない容疑で逮捕され、裁判では収賄金額ゼロ円なのに収賄罪で有罪判決を受けた。
佐藤氏は取り調べで検事から「あなたは知事としてよろしくない。抹殺する」と言われたという。この国では原発に反対する者は容疑がゼロでも抹殺されるのだ。秋本議員の事件がそれと同じかどうかは分からない。しかし検察には以前から狙われていたような気がする。
そして4日は、岸田総理が健康保険証の廃止について国民に説明することになっていた。その記者会見をじっくり聞いたがさっぱり分からない。来年秋に健康保険証を廃止すると言い、しかししないこともありうると言う。なぜ今の健康保険証には欠陥があると本当のことを言えないのだろうか。
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