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LE VELVETS 初ベスト盤発売。路上ライヴからスタートし「ただがむしゃらに駆け抜けた」15年

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供(全て)/SL-Company

結成15周年で初のベスト盤を発売。クラシックと多彩なジャンルの音楽とを融合させた、クラシッククロスオーバーを追求してきた軌跡

『LE VELVETS 15th Anniversary THE BEST ~ROMANTiCA~』(10月18日発売)
『LE VELVETS 15th Anniversary THE BEST ~ROMANTiCA~』(10月18日発売)

結成15周年を迎えたLE VELVETS初のベストアルバム『LE VELVETS 15th Anniversary THE BEST ~ROMANTiCA~』が10月18日に発売される。2008年、“身長180cm以上、音楽大学出身”という条件のオーディションで選ばれた宮原浩暢(バリトン)、佐賀龍彦(テノール)、日野真一郎(テノール)、佐藤隆紀(テノール)の4人は、クラシック音楽の知識と技術に裏打ちされた、正統派のボーカルテクニックをベースに、ポップス、ジャズ、映画音楽など多彩なジャンルとクラシックをクロスオーバーさせ、独自の世界観を表現してきた。4人にこれまでの軌跡とこれからが詰まったベスト盤についてインタビューした。

クラシックに親しんでもらうために目指した、クラシッククロスオーバー。「最初は抵抗があった」(宮原)

クラシックにより親しんでもらうために、15年間クラシッククロスオーバーという独自の道を突き進んできた。そのスタートはストリートライヴからだった。もちろん音大声楽科で研鑽を積んできたメンバーは最初、抵抗があったという。

宮原 まずマイクで歌うということにも慣れていないのに、コーラスをやったりクラシックの曲も歌ったり、発声法も変える必要があったので抵抗がありました。でも路上ライヴで道行く人が足を止めて僕達の歌を聴いてくれて、やっていることは間違っていないんだと確信できて少し自信が持てました。

佐藤 最初は「ソーラン節」とかも歌っていました。ただがむしゃらに駆け抜けてきた、あっという間の15年だった気がします。いいことも辛いこともたくさんありました。最初はどこか自分のために歌っていた感覚でした。でも様々な苦難を乗り越える中で、ファンの方の存在のありがたみを本当に肌で感じて、どんどん気持ちが変わっていきました。こんなに応援してくれる人達に、感動を与えたいと心から思うようになりました。

憧れの東京文化会館でフルオーケストラコンサート。大歓声を聞き「これまでやってきたことは正解だったと実感」(日野)

路上ライヴからスタートし、がむしゃらに歌い続けてきた4人は、今年、憧れでもあった“クラシックの殿堂”・東京文化会館でフルオーケストラとのコンサートを実現させ、アンコール公演も行われるなど盛況だった。

日野 スタートは路上ライヴでアカペラで歌って、そこからマイクと機材がひとつずつ増えていって、15年かかってようやく東京文化会館に辿り着いたという感じです。あのコンサートは、本当に歌が届いているのか不安でしたが、終わった瞬間スタンディングオベーションをいただいて、もの凄い歓声を聞いて「ああ、やってきたことは正解だったんだ」って心から感動しました。コンサートマスターの方からも「このホールでこんなに盛り上がるコンサートはないですよ」って何度もあのステージで演奏している方から言っていただけて、素直に嬉しかったです。

佐藤 本当に歴史を感じるまさに晴れの舞台という感じで、生声で歌うのも初めてだったので、何かひとつ見えた感じがありました。ひとつ階段を上がれて、成長できたことを少し実感できました。

2021年に脳梗塞を発症し、一時期活動を休止していた佐賀龍彦も懸命なリハビリを重ね、4人揃って憧れのステージに立つことができた。

佐賀 病気で入院した時もファンの方からの温かい手紙やメッセージで本当に励まされて、感謝しかありません。東京文化会館は本当に憧れていたホールだったので、感無量でした。

「(佐賀の状態が)ここまで戻っているのは奇跡」(佐藤)

「自分のやる気はファンの人たちがいるから。恩返ししなければ」(佐賀)

9月21日、昨年に続いて『徹子の部屋』に2回目の出演をしたLE VELVETS。その際、佐藤は佐賀の当時の状態について「最初は歩くのもおぼつかない状態で戻ってきていたので、歌えるようになるのか、と思ったほどの状況だった。ここまで戻っている状態が奇跡です」と明かした。佐賀がどれほど過酷なリハビリを自身に課してきたのかがわかる。佐賀は「自分のやる気はファンの人たちがいるから。この状態ではお客さんに見せられないと思って頑張った。恩返ししなければ」と語っていた。ファンへの思いと歌への執念が強い気持ちになり、佐賀を奮い立たせた。昨年の『徹子の部屋クラシック』は3人で出演した。今年は(11月22日東京国際フォーラムA、11月26日大阪フェスティバルホール)4人でステージに立ち、圧巻の歌を響かせる。

15周年というひとつの節目に目標だった大舞台に立てたことを胸に、そして初のベストアルバム『LE VELVETS 15th Anniversary THE BEST ~ROMANTiCA~』という集大成であり、新たな名刺代わりになる作品を手に、次に進む。

新曲「ROMANTiCA」はグループの名付け親・湯川れい子が作詞。作曲・葉加瀬太郎、編曲・武部聡志という、4人とゆかりのあるミュージシャンが制作

日野真一郎、宮原浩暢、湯川れい子、葉加瀬太郎、武部聡志、佐藤隆紀、佐賀龍彦
日野真一郎、宮原浩暢、湯川れい子、葉加瀬太郎、武部聡志、佐藤隆紀、佐賀龍彦

この作品は『Teatro Clasico』(2018年)、『WORLD MUSICAL』(2019年)、『PRAYLIST』(2020年)という4枚のアルバムから厳選した楽曲と、ライヴで人気の高い楽曲を再レコーディング。そして次のステージへと歩み始めた4人に、恩人、先輩からのエールともいえる新曲「ROMANTiCA」が収録されている。グループの名づけ親・湯川れい子が「歌詞を書きたい」と4人に託したメッセージに、葉加瀬太郎がメロディを紡ぎ、そして武部聡志がアレンジは手がけ、LE VELVETSとゆかりのある作家陣が作り上げた。今の4人だからこそ歌える懐が深い“大きな”歌だ。

佐賀 湯川先生は大きな大きなラブソングとおっしゃっていました。デビュー当時からお世話になっている湯川先生と葉加瀬さんが曲を書いてくださって、『僕らの音楽』(フジテレビ系)でお世話になった武部さんがアレンジをしてくださった曲を、15周年のこのタイミングで歌えることに感激しています。

日野 レコーディングの時、葉加瀬さんに『例えばフランク・シナトラとかトニー・ベネットとかのベテランの歌に感じる余裕感が出るように』とアドバイスしていただきました。

「アカペラの『第九』は、他のグループにはない表現だと思う」(宮原)

一曲目の新たにレコーディングした『第九』(ベートヴェン作曲 交響曲第9番「合唱付き」から(アカペラ))は、表現力、テクニック、声が重なった時の豊潤さを感じる響き、LE VELVETSの全てがこの一曲に詰まっている。聴く人に明日を生きる勇気を与えるために歌い続けてきたLE VELVETSが、この曲を一曲目に選んだ想いが伝わってくる。

宮原 アカペラで、飾らないで自分たちだけの声を一番味わってもらえる曲なので、この曲を気に入って下さっているお客さんも多いです。改めて心を込めてレコーディングしました。声と声が重なったときに出てくる倍音もきちんと感じていただけて、この『第九』は他のグループにはない表現だと思います。日野くんの強くて厚みのあるファルセットを始め4人のカラーも感じていただける曲だと思います。

佐藤 コンサートでは最後に歌うことが多いですが、アルバムでは最初に聴いて欲しいと思いました。この曲を聴きくためだけに僕らのコンサートに行ってもいい、とおっしゃって下さる方もいる曲なんです。

『‘O SOLE MIO』の佐藤のロングトーンはコンサートの“名物”。それをCDで表現すると…

LE VELVETSのコンサートの“名物”となっているのが、先日出演した『徹子の部屋』でも黒柳徹子が“アンコール”した『‘O SOLE MIO』の佐藤のロングトーンだ。

佐藤 今回新たにレコーディングしたのですが、いつも通りロングトーンをやったらみんなが「なんかちょっと違うね」と。CDだと長すぎると言われて…。

日野 聴いているお客さんが「あれ?CD壊れた?」と思うんじゃないかと思ったので(笑)。

佐藤 だからかなり短くしました。自分では不完全燃焼なロングトーン(笑)というかミドルトーンですが、一応CD用のベストテイクと言っておきます(笑)。でも本気を出していないということだけはわかってください(笑)。なのでロングトーンを聴きに是非コンサートに来てください。

「『VIVERE』は全員一致で絶対に入れたいといった曲」(佐賀)

ずっと歌い続けてきた『TIME TO SAY GOODBYE』、『Nessun Dorma!(誰も寝てはならぬ)』(オペラ『トゥーランドット』より)も新たにレコーディングしたことで。新たな気づきや発見があったという。

佐藤 「TIME~」は僕らの名刺代わり的な一曲で、「LE VELEVETSはこんなグループですよ」というのがわかりやすく伝わると思います。このアルバムをきっかけに、僕らのことを知って下さる方もいると思いますので、“今”の僕らで改めて歌いたいと思いました。

宮原「Nessun Dorma~」は湯川先生が日本語詞を付けてくださったり、色々な形で歌い続けてきたことを改めて思い出しました。

佐賀 「Nessun Dorma!~」も「第九」同様、みなさんに愛されて成長してきた曲だと思うので、今回は絶対に入れたいと思いました。「VIVERE」は全員一致で絶対に入れたいといった曲です。

4人それぞれの“一曲”

全員一致で収録曲に選ばれた「VIVERE」。4人それぞれの“絶対に譲れなかった一曲”を教えてもらった

佐賀 僕はやっぱり「VIVERE」です。ストリートでこの曲を歌うと、立ち止まってくれる人が多くて、本当に嬉しかったです。忘れられない一曲です。

宮原 僕は推し曲とは少し捉え方が違うかもしれませんが、自分の中でずっと難曲だと思っている『Nessun Dorma!(誰も寝てはならぬ)』です。自分がどんな声であればいいのかを追求し続けている15年で、見つけては見失い、また見つけ、の連続です。だから今回も『今の自分を見つめるレコーディングだ』と思い、歌いました。ベスト盤なので過去と現在の声が混在していて、今回は改めて自分の声と向き合うタイミングだったし、ここからまた進化しなければと完成した『Nessun Dorma~』を聴いて強く感じました。

佐藤 僕も「VIVERE」と言いたいところですが、佐賀さんが挙げてくれたので、「民衆の歌」が推し曲です。グループで最初に歌った曲でもあるし、ミュージカル『レ・ミゼラブル』に出演して、様々な試練と向き合ったことで自分の世界が見えてきて、広がっていきました。だからこの15年で僕を一番成長させてくれた『レ・ミゼラブル』、そして『民衆の歌』は特に大切の1曲です。僕らの『民衆の歌』は、ミュージカルで歌うものとはコーラスアレンジが違いますが、すごく広がりを感じていただけると思います。その違いを楽しんでいただけると嬉しいです」(佐藤)。

日野 僕もやっぱり「VIVERE」なんですが、せっかくなので自分が作った『四季~花見鳥~』と『FLEUR~花』を挙げさせてください。『四季~』はコロナ禍で何もできないときに、この時の思いを曲として残したいと、ファンの方のことを思いながら作った曲なんです。

10月から全国ツアー開催。「残念ながらベスト盤に入れることができなかった曲も歌いたい」(日野)

「夢は変わらず「紅白歌合戦」に出ること」(佐藤)

このベスト盤を引っ提げての全国ツアー『LE VELVETS 15th Anniversary CONCERT TOUR~ROMANTICA~』が、10月20日東京を皮切りに福島、静岡、京都、福岡、大阪の6か所で開催される。4人で初のフルオーケストラコンサートという大きな舞台の上から目にした景色、そこで感じた15年続けてきたからこその感情を胸に抱き、新たなステージに向かう。そして未来へ向かうために作り上げたベスト盤『~ROMANTICA』に感じる、充実の時を迎えつつある4人の現在地を目撃できるコンサートだ。

宮原 ベストアルバムからはもちろん、あらゆるジャンルの歌で自分達の全てをお見せしたいと思っています。フルオーケストラとのコンサートでも挑戦した生声での歌も、あのコンサートに来ることができなかった方々のために、やりたいと思っています。

日野 ベスト盤に入れたかったけど入れられなかった曲もあるので、披露できればいいなと思っています。

佐藤 このコンサートが終わる頃には師走の足音が近づいてきます。これはずっと言い続けていることですが、夢である『NHK紅白歌合戦』に出てみたいです。デビューした時からの目標で、今まで応援してくれた方への感謝の気持ちと、応援してよかったと思ってもらえるのが『紅白』の舞台だと思います。

LE VELVETSオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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