打楽器集団・ラセーニャス【後編】即興が生む熱狂、誰もが解放されるライヴにハマる人続出。「音圧は正義」
【前編】から続く
「指揮者が変わるとハンドサインも変わってサウンドも変わる。それがラセーニャスの音楽の醍醐味」(さの)
――『EIGHT-JAM』でもやっていましたが、ハンドサインって何種類くらいあるんですか?YouTubeでハンドサイン講座も観ましたが、難しいですよね?
織本 アルゼンチンのサンティアゴ・バスケスという音楽家が考案したもので、100種類以上あるようです。でも30~40種類覚えればパフォーマンスはできると思います。
木川 小学生向けのワークショップもやっていますが、30分やると一緒にセッションできるようになるし、音もきれいに止まります。
――木川さんがスキャットで指揮している映像を観ました。
木川 私も含めて歌ったり自分の声を使いながら指揮をするメンバーも何人かいて、それは手でサインを出しながら、自分は自分という楽器として参加する感じです。
――メンバーの皆さんがコンダクターとして指揮をして、ハンドサインはやっぱりそれぞれの個性が出るというか、それぞれの物語があるのでしょうか。
さの 指揮者が変わるとサウンドも変わります。それもライヴならではだし、ラセーニャスの音楽の醍醐味だと思います。
柴崎 リーダーのようにとにかく熱狂させたい人、踊らせたい人、ドラマティックにいきたい人、クールにいきたい人、色々です。自分がやっている楽器やルーツになっている音楽も影響していると思うし、自分はこうしたいんだというのが指揮に現れるので。演奏者も笑顔でやる曲や張りつめた緊張感の中、全員が指揮者を凝視しながら演奏する曲もあります。
織本 指揮者がアイディアを持ち寄って、例えばインドのリズムをモチーフにした指揮をやりたいとか、あとはそれこそ(木川)保奈美さんがスキャットを歌って指揮をやりたいとか、この合図をしたらこのフレーズをやってねとか、少しだけの決めごともそれは個性だと思っているのでリハでそれを確認します。それでも本番は基本即興なので、結構変わります。
さの 僕がラセーニャスに入って最初に織本さんに言われたのは、奏者全員がかっこいいって思ったら、もう好きなことしていいよということでした。パートごとにこれが一番かっこいいだろうという演奏を持ち寄る。そこに即興の面白さが出ていると思います。
「マニアックな音楽ファンにも、普段ライヴに行かない人や親子でも楽しむことができるのが強み」(織本)
――音圧も含めて打楽器のリズムだけで大きな感動を生む、唯一無二の音楽だと思います。
織本 マニアックな音楽ファンにも、普段ライヴに行かないという人や親子でも楽しむことができるのが強みだと思っています。打楽器のリズムのみというシンプルさが、色々な人に刺さるのではないでしょうか。
福岡 少し変な言い方かもしれませんが、日本人って音楽との距離があるイメージがあって。もちろん音楽が大好きな人は別ですけど、例えばキューバやブラジルに行くと、日常に音楽が溢れていて、すごく距離が近いイメージがあります。でも僕達のライヴでは、日本人もリズムだけでこれだけ盛り上がることができるんだ、共鳴するんだっていつも感じているので、普段の音楽との距離をもっと近づけることができるのではと、おこがましいですけど思ったりしています。
「ライヴでこそ映えるバンドなので、最初は音源を出すという発想がなかった」(織本)
――先ほどアルバムのお話が出ましたが、ライヴでの即興性がラセーニャスの魅力だと思いますが、音源というものについてはどう考えていますか?
織本 ライヴでこそ映えるバンドなので、最初は僕の中には音源を出すという発想がありませんでした。でも、さのが音源を出そうって最初に言ってくれて、それで最初の3曲入りEP『La』(2021年)を出しました。もちろんライヴでの感動は刺激的だと思いますが、音源は作品としてまた違うラセーニャスを見せられるって感じました。配信もメンバーが勧めてくれて、世界中の人に僕らの音楽に触れて欲しいので必要だと思いました。ラセーニャスがライヴ以外での見せる世界観や表現を音源で伝えることができると改めて実感しました。音源を出そうと言ってくれたメンバーには感謝しています。
さの ライヴに来てくれたら思い切り伝えられるけど、そもそも普通の人からすると打楽器奏者しかいない団体って何?ってなったときに、音源があった方が伝えやすいと思って。もちろん即興性を楽しんでいただきつつ、お客さんに声を出してもらう曲、歌ってもらう曲は音源で予習してもらった方がより楽しんでもらえるのでは、と思いました。
福岡 もちろんラセーニャスのことを全く知らない人が来ても、誰もが最初から最後まで楽しむことができるのが僕たちのライヴです。
「即興演奏って僕らは当たり前のように使っている言葉ですが、音楽をそこまで聴かない人にとっては『何それ?』ってなると思う」(織本)
織本 即興演奏って僕らは当たり前のように使っている言葉ですが、音楽をそこまで聴かない人にとっては「何それ?」ってなると思うし、その時点で、なんか難しそうなライヴかもって思われてしまうと、ライヴに足を運んでもらえなくなる。なので1月に発売したアルバムには“熱狂の国”というわかりやすいタイトルを付けて、何か心を熱くさせてくれる音楽なんだろうなってイメージしてもらえると思います。興味への取っ掛かりを作ることができるのが音源のよさだと思います。そこから映像を観てもらったりして、なるほど、打楽器を使った演奏集団なんだってわかってもらって、即興かどうかは置いておいて、まず聴いて楽しいかかっこいいかどうか感じてもらうことがと重要だなって。
「色々な楽器が鳴っていますが、まず“音”として浴びていただいて、さらに深い世界に入っていって欲しい」(柴崎)
柴崎 色々な楽器が鳴っていますが、まず“音”として浴びて感じていただいて、聴いたことがない知らない世界とか、かっこいいという感想が広まっていって、色々な人に届いたらいいなと思います。気になって深掘りしてみると、アフリカのこの楽器と和太鼓がミックスされているんだとか、さらに深い世界に入ってもらって、何かを感じてもらえると嬉しいです。
「一切を取っ払ってただ音を聴いて楽しむ、初見でも頭からフルで没入できるライヴは僕らが誇れるもの」(福岡)
――改めて、メンバーが考えるラセーニャスのストロングポイントを教えてください。
さの でかい音です。大人数でしか出せない迫力、そのパワー。それは他のバンドとかグループにはなかなか出せないところだと思います。副リーダーをやらせていただいていて、もっと売れるにはどうすればいいかを考えていた時、人数を減らしてすっきりとしたアンサンブルを作ろうって思ったことも一瞬ありました。でもやっぱり大人数大音量が強いと思いました。音圧は正義です(笑)。
福岡 先ほども出ましたが、やっぱり予備知識なしでライヴに来ても本能のまま楽しめるところが僕らの一番強いところかなって。みんなと同じ振りをしないと楽しめないとかそういうこともないし、一切を取っ払ってただ音を聴いて楽しむ、初見でも頭からフルで没入できるライヴは僕らが誇れるところです。
「ライヴは、あの瞬間同じ空間にいる全員が何かを解き放ち、集中したり楽しんで熱狂できるのが我々の音楽」(ヒロシ)
「メンバーの人柄や仲の良さが全てステージでのパフォーマンスに出ていると思う」(椿)
――みんな同じ動きをしなくてもいいんだよって今色々なアーティストが訴えかけていますよね。
福岡 サビで手を上げるのはもうやめようってやつですよね。僕らはまさにそういうグループだし、何も決まりごとないとにかく自由なライヴです。
柴崎 ハンドサインを出す指揮者が変わることで、それぞれの個性が出てサウンドがガラッと変わって、ますますノンジャンルになってラセーニャスというジャンルになっていると思う。1回のライヴで、世界旅行に行ったぐらいの色々な音やリズムを感じることができるのは、我々にしか出せない部分だと思います。
ヒロシ ライヴは日頃生活している中で、外に出せない何かを開放できる時間と場所です。日常にはない何かをいきなり大音量でぶち上げられて、頭を空っぽにして楽しんで、自分がどうなるかも楽しみだと思います。それは我々もそうです。お客さん一人ひとりが何かを抱えてライヴに来てくれて、我々もルーツミュージックも楽器も違うメンバーが集まって、あの瞬間同じ空間にいる全員が何かを解き放ち、集中したり楽しんで熱狂できるのが、我々の音楽だと思います。
椿 メンバー同士がとにかく仲が良くて、それも強みだと思っていて。まず喧嘩になることがない。もちろん音楽的な部分では侃々諤々やることもありますが、全員が同じ方向を向いているのが強い。それからみんなとにかくいい人で、僕が加入したのもそこが決め手でした。そういうグループの全てがステージでのパフォーマンスに出ていると思います。もうひとつは音楽の幅が広いこと。ルーツが色々あって、音楽の知識も音大を出ているメンバーが多いのでベースがしっかりあって、僕からすると本当にすごい人ばっかりです。色々な音楽が飛び交うリハも本番も、毎回勉強になります。僕はそれまで和太鼓の世界だけしか知らなかったので、ラセーニャスに入ってすごく音楽の勉強ができています。音楽をやっている人がラセーニャスのライヴを観るととても勉強になると思います。
「どんなアーティストや音楽ともコラボができるというのも強み」(木川)
――技術や高い次元の知識があってこその即興ですよね。では木川さんお願いします。
木川 もうみんなが言ってくれましたが、どんなアーティストや音楽ともコラボができるというのも強みだと思います。打首さんのようなバンド、日食なつこさんのようなソロアーティスト、色々なスタイルでコラボができます。コラボをしたアーティストのファンの方が、私たちのライヴに来て下さることも多いです。『EIGHT-JAM』でのセッションもそうですが、即興だからこその無限の可能性があると思います。
織本 (木川)保奈美さんも言っていましたが、可能性がすごくあるグループだと思います。ヒロシが言ってくれましたが、熱狂という、日常ではなかなか感じることができないことを僕たちの音楽は作ることができます。ラセーニャスがもっと身近な存在になって、疲れたりストレスを感じた人が「ちょっと熱狂してくる」って僕たちのライヴに来てくれるようになると嬉しいです。
――“週末はラセーニャスで熱狂しよう”っていいですね。
織本 そういう存在になりたいです。打楽器だけで、しかも指揮者がハンドサインでコントロールして即興でっていう、今まで日本にはなかった音楽だと思うので、これから大きな可能性を秘めていると思います。今までがむしゃらにやってきて、そんなことを考える余裕もありませんでした。でもライヴを観た人からポジティブな感想をたくさんいただいたり、アーティストのみなさんからも褒めていただけることが増えてきて、自分達の音楽が広がっていっているのを実感しています。もっともっと刺激的な音楽をやっていきたいです。