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甲本ヒロト×内田勘太郎=ブギ連 二人のブルースマンの人柄と感情が作る「音色」に、ただただ酔いしれた夜

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
Photo/柴田恵理

甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズ)と憂歌団・内田勘太郎のユニット・ブギ連の全国ツアー『第2回ブギる心』

甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズ)と憂歌団・内田勘太郎のユニット・ブギ連の全国ツアー『第2回ブギる心』が10月11日の東京キネマ倶楽部を皮切りにスタートし、愛知、京都、大阪と回り、19日福岡Gate‘s7でファイナルを迎えた。二人のブルースが作る熱狂がまさに列島を駆け抜けた。


ブギ連は2019年に1stアルバム『ブギ連』を突如発表しファンを驚かせ、さらにツアーを開催。甲本の歌とハーモニカ、内田のギターというどこまでもシンプルな編成で極上のブルースを聴かせた。あれから5年――二人が再び動き出した。2ndアルバム『懲役二秒』を10月2日にリリースし、ツアーをスタートさせた。

ツアー初日、10月11日東京キネマ倶楽部公演をレポート

10月11日、東京キネマ倶楽部。開演前の会場BGMはマディー・ウォーターズやメンフィス・ジャグバンド、ペグ・レッグ・ハウエル等のブルースが流れ、徐々にその温度が上がっていく。そこにエンマコオロギの涼やかな鳴き声が静かに流れてきて、オーバーオールを着た二人が大きな拍手に迎えられ登場。オープニングナンバーは「ブギ連ジャイブ」だ。甲本のハーモニカ―と内田のギターが重なり二人だけの時間がスタート。二人がただただブルースを楽しむ時間に客席が加わっていく、そんな感覚を覚えた。そして「ブルースがなぜ」では〈ブルースがなぜ 俺を呼んだ ブルースがなぜ おまえらを呼んだ〉と歌詞を変え、客席と最高の夜を分かち合う準備は整った。「内田勘太郎!」「甲本ヒロト!」とお互いを紹介し、ニューアルバムから「やっとられん」を披露。内田のギターが強烈な音で深い世界を作り上げていく。そこに甲本の熱いシャウト、歌が乗りブルースがまさに爆発する。

「すげー疲れるで!倒れるまでやるぜ!」(甲本)

甲本ヒロト
甲本ヒロト

「すげー疲れるで!倒れるまでやるぜ!」と甲本が嬉しそうに宣言する。ただブルースが好きなだけ――甲本の歌、体の動き、その一挙手一投足からそんな想いが溢れ出ている。「畑の鯛」では甲本が内田のギターソロを食い入るように見ている。そう、ライヴ中甲本の視線は内田のギターを捉えて離さない。「オイラ悶絶」ではイントロで内田の長いストロークが炸裂して、甲本はやはり食い入るようにギターを見つめ、そして歌い始める。剥き出しの感情が歌に乗り、まさに悶絶もののブルースに客席の感情も高まっていく。スローなブルース「闇に無」では甲本がさらにエモーショナルに歌い上げる。内田のスライドギターが激しく鳴り光の演出と相まってドラマティックな世界を作っていく。

甲本が「ここ、特等席です。めっちゃええ音するんよ」と本当に嬉しそうに語り、内田の演奏に改めて感激していた。さらに「なんもやっとらんように見えるけど、照明もよかろう? なんもやっとらんように魅せるのがかっこええんよ」と語り、さらに「好きなことをやってるだけ」と変わらないマインドとスタンスを客席に伝えた。この日のライヴは確かに二人が心から楽しんではいるが、譜面どおりにはいかない、ひと筋縄ではいかないセッション、二人の駆け引きが緊張感を生んでいた。「気まぐれに首が」でも内田のギターのアドリブを甲本が見とれて、歌い終わると興奮気味に「すごいぞ!」と語ると、内田も「ここも、特等席」と甲本の方を指さしていた。リスペクトし合う二人のやりとりに観客からも「ここも特等席!」と声が二人にかけられると甲本は「今日は全部特等席にしてありますので。楽しんで帰ってください」と返し、大きな拍手が贈られる。

演奏に酔いしれた観客から「ありがとうー!」という声が。「50年以上やってきて、ありがとうって言われたのは初めて」(内田)

内田勘太郎
内田勘太郎

「バットマン・ブルース」は、甲本がマイナー調のどこかものさみしいメロディを歌い、そして内田のギターが呼応して、ハーモニカも加わると極上のブレンドのブルースが薫り立ってくる。演奏に酔いしれた観客から「ありがとうー!」という声が飛ぶ。内田は「50年以上こういう生活をしているけど、ありがとうって言われたのは初めて」と嬉しそうに呟く。ギター一本で勝負してきた稀代のギター弾きと、同じく歌とハーモニカでシーンを作り上げてきた稀代の歌唄い。その感性と感情がぶつかり、融合するこのユニットが生む音楽が響く空間に身を置くことができる幸せ。なにより二人が心から音楽を楽しんでいるのを感じることができる、かけがえのない時間。心に大きな何かを届けてくれた二人にありがとう、という感謝の気持ち、言葉を誰もがかけたくなったはずだ。

「軽はずみの恋」、そして「あさってベイビイ」では、二人がハーモニカのキーを確かめ合うほのぼのとしたシーンも見ることができた。内田のギターにしびれている甲本の姿を見るのも観客はたまらないはずだ。〈出かけよう 出かけようぜ 乗って行こう 行き先は決めず〉と歌う「黄金虫」では客席からも歌声が聴こえてくる。内田が作詞した「49号線のブルース(スリーピーとハミー)」は、スリーピー・ジョン・エスティスとハミー・ニクスンという二人のブルースマンと、1976年に憂歌団としてツアーを廻った時のことを回想した情緒あふれるブルースナンバーだ。<旅してまわった 憂歌団と一緒に>というフレーズでは、客席から拍手が沸く。そして2ndアルバムのタイトル曲「懲役二秒」ではハーモニカが激しく鳴らされ、内田のコーラスも重なり客席も歌っている。「ブギ連だぜー!もうどうなってもええな!練習してきたことが全部台無しじゃ(笑)。でもそれが楽しい。みんなにはそれを楽しんでもらいたい」と甲本が叫ぶと、客席の熱狂がさらに増幅していく。本編ラストは「ブギ連」だ。内田の豊潤なギターの音色が響き渡り、手拍子が起こる。フレーズがリフレインされるブギの世界に引き込まれる。

内田のギターを聴きながら「ええなあ、たまらんで」(甲本)

アンコールは甲本が「勘太郎さんのギターをたっぷりと楽しんでください」と語り、内田が「波を越えて」の抒情的な旋律を奏で始める。甲本は「ええなあ、たまらんで」と胸に手を当てて聴き入り、「そうくるかあ~」「うわぁ、すげえなあ」と驚嘆の声をあげ、隣で観客と共に“普通に”楽しんでいる。そして「孤独のグルメ」みたいだったな」と嬉しそうにつぶやいていた。再びエンマコオロギの鳴き声が聴こえてきて、甲本が「次の街が呼んでいるんです。電車が来た来た。今日はありがとう」と伝え、ニューアルバムのラストに収録されている「ブラブラ」へ。旅の終わりのような感傷的な気持ちなる、そして心地いい余韻を残してくれる。

静かな熱狂に包まれた、極上のブルースの世界にいざなってくれた忘れらない夜

二人だけの「音色」――二人のブルースマンの人柄と感情が作る「音色」にただただ酔いしれた一夜。この日だけの、静かな熱狂に包まれた、忘れられないブルースの世界にいざなってくれた時間だった。

ブギ連 ソニーミュージックオフィシャルサイト


音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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