アーティストと5千人の音楽人が審査員――日本版グラミー賞「MUSIC AWARDS JAPAN」創設
“世界とつながり、音楽の未来を灯す”『MUSIC AWARDS JAPAN』
一般社団法人カルチャーアンドエンタテインメント産業振興会(CEIPA)は、国内の音楽業界主要5団体(日本レコード協会、日本音楽事業者協会、日本音楽制作者連盟、日本音楽出版社協会、コンサートプロモーターズ協会)が垣根を越え、「MUSIC AWARDS JAPAN」を設立。2025年5月22日に京都で第1回目の授賞式を開催すると発表した。
いよいよ日本版グラミー賞が誕生する――そのキックオフイベントとでもいうべきメディア説明会が10月21日に行われ、多くの記者が集まった。CEIPA理事長・村松俊亮氏(日本レコード協会会長)、『MUSIC AWARDS JAPAN』実行委員会委員長・野村達矢氏(日本音楽制作者連盟理事長)、『MUSIC AWARDS JAPAN』実行委員会副委員長・稲葉豊氏(日本音楽出版社協会会長)が登壇した。
「ストリーミングサービスの拡大により、音楽業界も海外とボーダレスに繋がり、活動の範囲がグローバルに広がり始めている」
まず音楽業界主要5団体が昨年末に設立したCEIPAの設立趣旨とその活動について、村松理事長が説明。「昨今のストリーミングサービスの拡大により、音楽業界も海外とボーダレスに繋がり、活動の範囲がグローバルに広がり始めている。若く才能のある日本のアーティストが海外でファンを熱狂させる姿を見ることも多くなってきて非常に嬉しく、また頼もしく思っています。そんな機会を捉え、日本を始めアジアの音楽を世界に発信し、環太平洋地域を中心にグローバルにつながること、また日本の音楽をグローバルに誇れるカルチャーにするとともに、海外アーティストの日本マーケットへの進出も促進していかなかればいけない。そういったことを実現するためのひとつのきっかけとして、日本の音楽業界主要5団体が垣根を越えて力を結集、団結する必要がありました。そして世界の音楽業界と連携して“世界とつながり、音楽の未来を灯す”をコンセプトした『MUSIC AWARDS JAPAN』の新設に至りました」。
「才能ある日本のアーティストを、どうしても海外で認知させたい。そのために発信型のアワードの必要性を感じた」
主要5団体はコロナ禍でライヴ開催におけるガイドラインの策定や、エンターテインメントを取り巻く環境の変化について意見交換する機会が増え、力を結集し未来へ向け日本のエンターテイメントシーンを盛り上げ、底上げしなければいけないという思いに至り、CEIPAを設立した。そしてコロナ禍を経て「ストリーミングサービスの拡大により、音楽業界も海外とボーダレスに繋がり、活動の範囲がグローバルに広がり始めている」(村松氏)という現況を鑑み「才能ある日本のアーティストを、どうしても海外で認知させたいと思い、発信型のアワードが必要なのではないかという話になった。とにかくやってみようとスタートした」(村松氏)。
「ここ数年でアーティストやクリエイターからも、日本でもグラミー賞のようなアワードを切望する声が出始めてきた」
「MUSIC AWARDS JAPAN」がモデルとしているのは、音楽業界で最も栄誉ある賞といわれ、受賞結果がセールスに多大な影響を与える米・グラミー賞だ。リスナー、ファンではなく音楽の演奏者や業界関係者によって選ばれ、音楽シーンに強烈なインパクトと爪痕を残した作品やアーティストが選ばれる。主要5団体は、それぞれが十数年前からグラミー賞に視察に訪れていた。そこで刺激を受け「いつか日本でもああいったアワードができるといいなという話は以前からあった」(野村氏)という言葉通り、それぞれの団体レベルで思いを巡らせていた。そして先述したようにコロナ禍で団体間のコミュニケーションが活発になり、さらに「ここ数年でアーティストやクリエイターからも日本でもグラミー賞のようなアワードを切望する声が出始めてきた状況もあった」(野村氏)ことも大きい。
そして2021年4月、数々のヒット曲を作った名作・編曲家の都倉俊一氏が文化庁長官に就任したことも賞創設への後押しになった。「主要5団体が日常的に文化庁、経済産業省とやり取りをさせていただきながら、様々な面でサポートしていただいているという関係値もありました。そんな中で都倉さんの文化庁長官という立場から見た日本の文化芸術の在り方と、我々の考え方が合致したタイミングにこのアワードに至った」(稲葉氏)。
都倉氏は常々アジア版グラミー賞の創設を唱えていたが、それがいよいよ実現。東京発信ではなく世界からアーティストや関係者が古都・京都に集まり、発信していくことにも大きな意味がある。
「透明性」「グローバル」「賞賛」「創造」という“4つの約束”を掲げる
“音楽人5000人が選ぶ、国際音楽賞”『MUSIC AWARDS JAPAN』は、ミッション&ステートメントとして“世界とつながり、音楽の未来を灯す”という理念の元、「透明性」「グローバル」「賞賛」「創造」という“4つの約束”を掲げている。
「透明性」はその言葉通り透明性のある選考プロセスを約束し、「グローバル」は、国内に留まらずアジアの多様な音楽に注目し、光を当てることを約束している。「賞賛」は国内外の実績を讃え合うこと、そして「創造」は表彰だけでなくここから未来を創造するというメッセージがあり、世界の音楽業界と団結し、持続可能な音楽産業を築いていくことを最大の目的としている。
第1回『MUSIC AWARDS JAPAN』のノミネート対象は「2024年2月第1週(2024年1月29日)〜2025年1月最終週(2025年1月26日)に各種チャートにランクインした作品・アーティスト」。注目すべきは「リリース時期は不問・旧譜も対象」とした点
第1回目の『MUSIC AWARDS JAPAN』のノミネート対象は「2024年2月第1週(2024年1月29日)〜2025年1月最終週(2025年1月26日)に各種チャートにランクインした作品・アーティスト」であり、注目すべきは「リリース時期は不問・旧譜も対象」とした点だ。ストリーミングやSNSをきっかけに、リバイバルヒットが生まれる現在のシーン、“時代のリアルな気分”を反映させた賞といえる。「1年間の中でヒットしたもの、チャートインしたものに関しては発売時期がいつであろうと、取り上げるべきという考え方はあります」(野村氏)。
表彰部門は、「Song of the year(最優秀楽曲賞)」「Album of the year(最優秀アルバム賞)」「Artsit of the year(最優秀アーティスト賞)」「New Artist of the year(最優秀ニュー・アーティスト賞)」「Top Global Hit from Japan(世界でヒットしている国内楽曲を対象とした賞)」「Best Song Asia(最優秀アジア楽曲賞=アジアでヒットしている楽曲を対象とした賞)」の主要6部門をはじめ、60以上の部門で構成。J-POP、ヒップホップ、アイドルカルチャー、演歌、歌謡曲、クラシック、ジャズ、リバイバルなどのジャンル別カテゴリー、そしてダンスパフォーマンス、ミュージックビデオ、ボーカロイドカルチャー、DJなどのスペシャルカテゴリー、さらにアジア各国、北米・南米、ヨーロッパなど地域別のグローバルカテゴリーの創設が予定されている。
エントリー作品は、客観性が担保できるビルボードジャパンのランキングを始め、オリコン、GfK/NIQ他主要データと連携した客観指数で自動選出する。「それらのデータは、市場マーケットの中でユーザーにどれだけ支持されてきたのかという民意が反映されているものと理解して、その透明性のあるデータをまず定量的なものとして使うところからスタートするというのも、これまでの“賞”との大きな違いのひとつだと思う」(野村氏)と、従来の国内アワードとの違いを強調した。
アーティストを始め5000人の音楽人の投票によって受賞者が決定。「アーティストが参加してアーティストが投票権を持って選考していくということは、かつてなかったはず」
その後、国内投票メンバーにより、エントリー作品の中から各部門5作品5アーティストのノミネートを選出。最優秀作品・アーティストは、国内・海外投票メンバーにより、最優秀作品・アーティストを決定する。賞を決める投票メンバーは、野村氏が「アーティストが参加してアーティストが投票権を持って選考していくということは、かつてなかったはず」と語っている通り、アーティストやクリエイター、マネージャー、レコーディングディレクター、エンジニア、プロモーター、MVディレクター、音楽配信事業者、ディーラー、ディストリビューター、音楽評論家、ライター、メディア、音楽出版社、海外音楽賞審査員、海外クリエイター、海外プロモーター、海外音楽配信事業者など、各分野から約5,000人の音楽業界のプロフェッショナルで構成される。一般の音楽リスナーによる投票を募る部門も創設される予定だ。
審査過程の透明性を担保
5000人という数字の根拠を聞かれた野村氏は「例えば今年1年間、2か月ごとに集計し、仮の基準としてそのチャートの300位以内に入ってくるアーティストにボーディングメンバーになっていただこうと想定した場合、大体3000アーティストくらいになる見込みです」と説明。さらに「加えて5団体の会員社の人数によって投票数を割り当てるほか、配信業者、メディア、マスコミの方々、海外のアワード主催者、海外メディアの方々等の人数をシミュレーションしたところ約5000人になりました。もしかしたら今後6000人、7000人になる可能性もあります」と、あくまで現状での数字、規模であると語った。「5000という数字からたくさんのアーティストや音楽人が参加するということを連想していただきたいと思いました。それだけの人数の方々が投票するということで、何らか偏りがあるとか、政治的な、もしくは経済的な何か力がはたらくのでは……と考える方が中にはいるかもしれない。でも本当に純粋に、いわゆる“ガチ投票”が前提です」(野村氏)。
そして透明性を担保する上で、投票者の所属や名前等を明らかにするのかという質問に対しては「例えばメディア、ディーラー、ライターの方々は、その所属エリアや年齢層、何人なのか、男女比はどれくらいなのかレベルまでは公表したいと考えていますが、個人名は個人情報にあたりますので発表する予定はありません。でもそこに関して透明性を持たせていくことの重要性は重々承知していますので、できる限り詳しく発表する予定です」(野村氏)と説明した。
スケジュールについては以下の通りだ(※一部変更の可能性あり)。
2025年2月〜エントリー作品/アーティスト発表
2025年2月〜3月頭 一次投票期間
2025年4月予定 ノミネート作品/アーティスト発表
2025年4月〜5月頭 最終投票期間
2025年5月17日〜23日 アワードウィーク
2025年5月22日 授賞式開催
「アワードに関連する楽曲をストリーミングサービスでプレイリスト化して、世界の人たちに改めて聴いてもらう機会を作る。注目すべき楽曲、注目すべきアーティストをノミネートという形でもアピールしていく」
第1回目の授賞式『MUSIC AWARDS JAPAN 2025 KYOTO』は、2025年5月22日に京都・ロームシアター京都で開催する。この模様は地上波放送局で生放送予定で、YouTubeで全世界配信を予定している。結果や授賞式でのアーティストパフォーマンスが、国内のランキングだけではなく、グローバルチャートにも反映されるはずだ。「アワードに関連する楽曲をストリーミングサービスでプレイリスト化して、世界の人たちに改めて聴いてもらう機会を作る。注目すべき楽曲、注目すべきアーティストをノミネートという形でもアピールしていく。この一連の流れが日本の音楽を聴いてもらうきっかけ作りなる」(野村氏)。
「5月17日~23日をアワードウィークとして、国内外の音楽業界関係者によるカンファレンス、セミナーやアーティストのショウケースを予定しています。アワードをやること自体が目的にならないように、なるべく立体的な形のものにしていきたい」(稲葉氏)。この音楽の祭典はロームシアター京都を中心とし、サテライト会場での開催も検討されている。
「アーティストのグローバルマインドを養うことも必要」
「日本の音楽マーケットは国内だけで経済的に成立してきた背景がある。それを変え、アーティストのグローバルマインドを養うことも必要だと思います」という野村氏の言葉がこのアワードの重要性を物語っている。日本の音楽業界全体がグローバルを意識する契機になることに大きな期待がかかる。
「アジアにおける日本の音楽業界のプレゼンスも高めていきたい」
「アジアにおける日本の音楽業界のプレゼンスも高めていきたい。アジア地域のアーティストや楽曲を日本の人たちにも聴いてもらう場面を創出していく。音楽業界全体が活性化していくということが、このアワードをやるひとつの狙い」(野村氏)と語ると同時に、稲葉氏は「5年、10年、15年と、アメリカのグラミー賞のように長きにわたって継続していきたい」と展望を語っていた。
来年5月の初開催まで選考のプロセスを含め、その動向を注視していきたい。