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主演女優が光る、今期ドラマ3本

碓井広義メディア文化評論家

今期ドラマが中盤に入ってきている。ドラマというと、いつも視聴率が話題になるが、録画やオンデマンド配信などドラマの見方の多様化で、視聴率だけでは語れない時代に変わっているのも事実。数字が低い=つまらないとは言い切れないのだ。たとえば今期、主演女優が光るドラマ3本を見逃す手はない。

黒木華の『重版出来!』(TBS系)

タイトルの『重版出来!』は、「じゅうはんしゅったい」と読む。本など出版物の増刷がかかることだ。重版となれば、いわばお札(さつ)を印刷するようなもので、出版社が儲けるのはそこからだとも言われている。また重版出来は多くの読者を獲得した証しであり、著者や版元にとって達成感も大きい。

主人公は、コミック誌「週刊バイブス」の新米編集者・黒沢心(黒木華)だ。勤務している大手出版社・興都館(こうとかん)は小学館を思わせる。ならば、「バイブス」は「週刊スピリッツ」で、編集長(松重豊)が最大のライバルだと言う「エンペラー」は「週刊ヤングジャンプ」か、などと想像しながら見るのも楽しい。本物の漫画家たちがドラマのために描く、架空の漫画作品も見どころだ。

心はバリバリの体育会系女子で、ケガをするまでは柔道の日本代表候補だった。その頑健さ、元気、明るさ、さらに相手との絶妙な間合いのとり方や勝負勘も武器になっている。

これまで黒木が映画「小さいおうち」や大河ドラマ「真田丸」などで演じてきた、“和風でおっとり”したキャラクターとは大きく異なるヒロインだが、このドラマではコメディエンヌとしての才能も発揮しながら生き生きと演じているのだ。

また脇を固める編集部の面々がクセ者ぞろいだ。前述の松重のほかに、指導係の先輩がオダギリジョー、編集部員として安田顕や荒川良々、そして社長の高田純次もいる。

彼らが繰り出す芝居の波状攻撃を、黒木は一人で受けて立ち、きっちりと技を返していく。とても連ドラ初主演とは思えない。

漫画家の世界やコミック誌の現場を垣間見せてくれる“お仕事ドラマ”として、また20代女性の“成長物語”として、見てソンのない1本になっている。

前田敦子の『毒島ゆり子のせきらら日記』(TBS系)

あっちゃんが頑張っている。『毒島(ぶすじま)ゆり子のせきらら日記』の前田敦子だ。AKB48を卒業後、何本もの映画やドラマに出演してきたが、今回が“女優・前田敦子”史上最高の出来かもしれない。

ゆり子(前田)は新聞社の政治部記者。仕事は未熟だが、恋愛には積極的だ。ただし父親の不倫で家庭崩壊を経験しており、「男は必ず女を裏切るから、自分が傷つかないよう、先に男を裏切る」が信条となっている。2人の彼氏がいて“二股”にもかかわらず、既婚者であるライバル紙の敏腕記者(新井浩文)にも魅かれて、つまり“三股”になったりする。

普通ならヒンシュクを買いそうなヒロインだが、予想以上に大胆な濡れ場も含め前田が大健闘していて、憎めない。ネタを取るため必死で政治家を追いかける姿は健気だし、男たちの前で見せる、恋する女の湿度の高い表情も悪くない。うーん、あっちゃんもオトナの女性になったもんだ。

仕事とプライベートの両面をテンポよく描くオリジナル脚本(矢島弘一)の牽引力とも相まって、「深夜の昼ドラ」のうたい文句に偽りはない。ゆり子が最後にどうなるのか、見届けたくなる。

石田ゆり子の『コントレール~罪と恋~』(NHK)

今期ドラマは中盤戦の真っ最中だが、見逃してはならない1本がある。石田ゆり子主演『コントレール~罪と恋~』だ。

通り魔事件に巻き込まれて亡くなった夫。残された妻(石田)は夫に愛人がいたことを知る。事件現場に居合わせた弁護士(井浦新)は犯人と揉み合い、結果的に石田の夫を殺してしまう。井浦はショックで声が出なくなり、弁護士を辞めてトラック運転手となった。

6年後、街道沿いで食堂を営む石田。出会った井浦に魅かれるが、はじめのうちは、その素性を知らない。また井浦は自分が殺めた男の妻だと分かるが、石田へと傾斜していく。しかも、かつて事件を担当した刑事(原田泰造)も石田に思いを寄せていた。さて、3人の運命は・・・というドラマである。

石田が演じる45歳の未亡人が何ともセクシーだ。幼い息子の母親としての自分と、一人の女性としての自分。その葛藤に揺れながらも、あふれ出す情念を抑えきれない。鏡の前で、久しぶりにルージュを手にする石田の表情など絶品だ。

井浦にとっても、会ってはならない女性との危うい恋だ。失声症だった井浦が、ベッドの上で石田の名を呼べた時の戸惑いと喜び。その心情の複雑さも、脚本の大石静がきっちり描いている。

大人の女性のココロとカラダが、今後どう動くのか。鮮やな軌跡を見せ、やがて消えていくコントレール(ひこうき雲)から目が離せない。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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