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中国で酒を断り暴行された16歳少女が受けていたイジメ

宮崎紀秀ジャーナリスト
中国でもいじめは深刻な社会問題に(写真:アフロ)

 中国の警察が16歳の少女2人の身柄を拘束したと発表した。理由は、学校の寮で行われた同級生の少女に対する暴行だった。暴行を受けた少女は、うつ病を患っているという。中国で頻発するいじめの実態がまた明らかになった。

見逃してしまったいじめのサイン

 内モンゴル自治区オルドス市の警察の5日の発表によれば、2023年3月7日から4月6日までの間、同市内の高等専門学校で、少女一人を3人の少女が多数回に亘り殴ったという。被害、加害の少女は皆16歳。警察は未成年の暴行事件として調べをすすめた結果、主犯格の少女ともう一人を身柄拘束及び罰金、別の一人を罰金の処分とした。これは中国で刑法に規定される犯罪よりも軽微な行為に適用される治安管理処罰法に基づく処分。

 中国メディアの報道によれば、16歳の被害少女は、普段は学校の8人部屋の寮で生活。週末には自宅に帰宅していた。少女は、2022年12月に自宅に帰った際に、両親に「ルームメートとうまくいっておらず孤立している。学校に行きたくない」などと訴えていた。父親は、「彼らを無視して学業に専念すればいい」と諭した。

 その父親は、娘が今年3月に帰宅した時に、事の深刻さに気づいたという。娘は目を合わせようとせず、顔や首や腕に傷跡をつくっていた。

 さらに4月6日に母親が少女の同級生から電話を受けた。娘が殴られているという内容だった。急いで学校にかけつけると、顔を赤く腫らした娘がテーブルで突っ伏し、泣きながら震えていたという。

 少女は、頭や胸、腹、太ももなどに怪我を負っていた。更に精神科ではうつ病の発作と診断された。

暴行の様子をビデオに撮影

 少女の話などによれば、前学期から主犯格の少女を含むルームメートと仲がうまくいかなかった。3月7日に、少女と主犯格の少女が授業に遅刻し、先生から怒られた。その夜、寮が消灯した後、主犯格の少女が別の少女と被害少女に対し暴行を加えた。途中から別の少女も暴行に加わった。さらに他の2人がその様子をビデオに録画したという。

 4月6日には、少女は主犯格の少女から酒を飲みに行こうと誘われた。彼女がこれを断ると、腹を立てた主犯格の少女から罵倒され激しく殴られたという。少女が隣の寮に逃げ込んで助けを求めたため、同級生の一人が少女の母親に電話をして事態が明るみに出た。

 事件を受け学校側は主犯格の少女を含むいじめに関わった4人を退学処分にした。

理由もなく殴られていた少女

 いじめに関わらなかったルームメートたちによれば、少女はいつも「理由なく」殴られていたという。主犯格の少女が被害少女に因縁をつけ、仲良しグループが一緒に暴行に加わるという図式だった。いじめに関わらなかったルームメートたちも程度の違いこそあれ主犯格の少女から何らかのいじめを受けていた。うち一人は主犯格の少女に、殴られひざまずかされた経験があったと明かした。いじめの構図は日本と変わらない。

 学校でのいじめが頻発する事態に対し、中国メディアは専門家の意見も伝えている。ある専門家は、いじめの芽をできるだけ早く摘み取らなければならないという点を指摘した上でこう述べる。

「多くの人がいじめに加わったように見えたとしても、実際にいじめを主導するのは少数。他の者は“友情”や恐怖という理由でいじめに加わる。教師はこれを区別して対処しなければならない」

 また別の専門家は、学校が共同でいじめの予防に関する規約を制定する必要性を呼びかけると同時に、既存の法律が学校でのいじめをカバーしきれていない問題点を指摘している。

 子供たちを守るために大人たちの知恵が試されているのは中国も日本も変わらない。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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