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ロシアが2024年2月23日のA-50メインステイ早期警戒機の喪失をウクライナ軍による撃墜と認める

JSF軍事/生き物ライター
ウクライナ空軍より2024年2月のA-50撃墜報告。左は残骸、右は比較用の部位

 6月17日、ロシアのモスクワのハモヴニチェスキー地区裁判所はウクライナ軍の地対空ミサイル部隊指揮官に逮捕状を出しました。容疑は2024年2月23日にロシア領を哨戒していたロシア空軍の航空機を違法に撃墜したというものです。この日に撃墜されたロシア空軍機とはA-50早期警戒機になります。

ロシア軍のA-50メインステイ早期警戒機を再び撃墜、ウクライナ軍のS-200防空システムで撃墜-ウ紙(2024年2月24日)

 ロシア側の文面では「ロシア空軍の航空機」とありA-50早期警戒機とは直接書かれていませんでしたが、これを指すことは明白です。

 またロシア側の説明では「問題の航空機が戦闘作戦用ではなく、武器を持たず、ロシア領空のみを飛行していたことを知りながら、部下の軍人に違法な破壊命令を下した。」とあるのですが、理解に苦しむ主張です。

 もしウクライナ軍が撃墜したのが民間機であるならこの言い分も分かりますが、ロシア側は撃墜されたのがロシア空軍機であることを認めています。戦争の真っ最中に軍用機が撃墜されて、一体どうして違法になるのでしょう? 非武装だろうと軍用機は基本的に攻撃対象です(※国際人道法での「医療用航空機」の条件を満たす場合などは除く)。ましてや早期警戒機は広く見通せる高空からレーダーで敵機を探知する任務上、航空作戦の要と言える存在で、最重要目標になります。

 仮にA-50早期警戒機がレーダーの電波も出さず戦闘状態に無かったとしても合法的な攻撃対象ですが、戦闘状態に無かったというロシア側の説明も明らかな虚偽です。もしA-50早期警戒機がレーダーの電波を出していなかったらウクライナ軍の能力では大まかな位置を掴めず、あのような200km以上も離れた長距離対空射撃は成功しなかった筈です。

 そもそも戦闘状態にあろうがなかろうが戦時下の軍用機は攻撃目標です。地上に駐機してある動かない状態の機体でもお互いに攻撃しているのに、あまりにも今さらな話です。戦闘作戦用ではない輸送機だろうと軍用機なら攻撃目標なのに、ましてや航空作戦の要と言える早期警戒機を「戦闘作戦用ではないから攻撃目標ではない」と言い張ることはおかしな主張です。

 このような逮捕状の発行は世界中から怪訝な目で見られてしまうばかりか、事実上A-50早期警戒機が撃墜されたことを認めてしまっています。理解に苦しむ動きですが、ロシア国内の政治的な事情か何かでそうせざるを得なかったのでしょうか。主張がおかしなことを自覚しながら公式に発表しなければならなかった理由とは、一体何だったのでしょうか。

 なおロシアの軍事特派員は2024年2月23日に起きたA-50早期警戒機の喪失について「味方による誤射」だったと説明していましたが、これはロシアの捜査当局の見解と真っ向から食い違うことになります。どちらかが間違っています。

【ロシアの裁判所の動きについて和訳】

モスクワのハモヴニチェスキー地区裁判所は、ロシア連邦捜査委員会主要軍事捜査局の捜査官が提出した、ウクライナ軍第138高射ミサイル旅団(軍事部隊A4608)の指揮官ニコライ・ジャマン大佐に対する逮捕状の請求を認めた。

2024年2月23日、ロシア領空をロシア連邦航空宇宙軍の航空機が哨戒していた。

捜査によると、ジャマン大佐は、問題の航空機が戦闘作戦用ではなく、武器を持たず、ロシア領空のみを飛行していたことを知りながら、部下の軍人に違法な破壊命令を下した。その結果、航空機は破壊され10人の乗組員が死亡した。

出典:Следком(ロシア連邦捜査委員会)

※露語の人名のニコライは、宇語ではミコラになる。
露語:Николай Дзяман → 宇語:Микола Дзяман

※第138高射ミサイル旅団はウクライナ空軍の部隊。

※ロシア連邦航空宇宙軍はロシア空軍の正式名称。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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