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2016年「前半」の成績が示す、今年の映画のヒット傾向は?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
年間トップも夢ではなくなってきた!? 『ズートピア』

2016年も折り返しとなり、この半年間の日本での映画興行成績を改めて振り返ってみたい。通常、映画業界では前年の12月公開作からが翌年の興収ランクに反映されるので、上半期となると5月いっぱいなのだが、あえて一般のカレンダーに合わせて6月までの成績をまとめてみる。

邦画・洋画を合わせてのトップは、いうまでもなく『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』。115億円という数字が、本作にかけられた期待と比べてどうなのかは判断が分かれるところだが、2016年の年間1位は、ほぼ確実視されている。しかし、ここへきて大逆転の可能性も浮上してきた。

2016暫定ランキング(7/6現在)

洋画

『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』115億円

『ズートピア』74億円〜

『オデッセイ』35億円

『007 スペクター』28億円

『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』26億円〜

『デッドプール』20億円〜

※「〜」は現在も公開中

ズートピア』である。

現在(7月第1週)までに、興収は74億円を突破。公開から11週も経っているのにランキングは3位を維持し、極端に落ちる動きが見受けられないのである。これは2014年の『アナと雪の女王』と似ている。作品への評価が高く(動物たちの世界を通し、現在の社会が抱える難民問題、格差などのテーマも浮き彫りにする)、クチコミが広がったうえ、一度観ただけでは発見できない“深さ”もあるので、リピーターが続出している状況。主題歌も社会現象になり、259億円に到達したアナ雪ほどではないにしろ、夏休みも高稼働を続ければ、『スター・ウォーズ〜』の成績に肉薄するかもしれない……のだが、夏休みは別作品に観客が流れそうでもある(これについては記事の最後に追記します)。

そして2016年の、意外な健闘作品が『オデッセイ』。

リドリー・スコット監督のSF作品ということで、当初は映画ファン向けと思われていた。ところが「火星にただ一人、取り残された主人公」というシンプルな設定に、公開時期がアカデミー賞と重なったり、『スター・ウォーズ〜』の予告として大量に流れたりと、さまざまな相乗効果が発生。そこに『ズートピア』と同じくクチコミが加わって、35億円に到達した。シリーズものでもなく、ディズニーアニメでもない作品の快挙は、業界にとってもうれしいニュースとなった。

同じく、作品への興味をかき立てて成功したのが、『デッドプール』。

「俺ちゃん」は日本でも大ブームに
「俺ちゃん」は日本でも大ブームに

新登場のアメコミヒーローで、そのキャラが奇抜(お茶目で無責任、口が悪い、自分を“俺ちゃん”と呼ぶ…etc.)なため、当初は日本での公開も危ぶまれた作品だが、その奇抜さを逆手にとった宣伝と、マスコミからの絶大な支持が功を奏して、予想外のヒットにつながった。『オデッセイ』と同様に、「おもしろければ当たる」という、まっとうな、しかし、ここ数年の映画では珍しい公式が成立したことになる。

続いて邦画の成績

『名探偵コナン 純黒の悪夢(ナイトメア)』60億円〜

『映画 妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!』55億円

『信長協奏曲』46億円

『映画 ドラえもん 新・のび太の日本誕生』41億円

『暗殺教室 卒業編』34億円

『orange ーオレンジー』32億円

相変わらず東宝作品(トップ6作すべて)が強く、人気シリーズのアニメが上位を占めるなか、松竹の『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』が最終20億円近くになりそうなど、健闘作品も。

今年前半の特徴としては、2部作の成績の推移が挙げられる。

ちはやふる』が「ー上の句ー」「ー下の句ー」が、ともに約15億円。

64 ロクヨン』が「前編」が18億円〜、公開4週目の「後編」が15億円〜と、ともに2作目の落ちが少ない。これは昨年の『寄生獣』20.2億円→15億円、『進撃の巨人』32.5億円→16.8億円という2部作の推移をと比べても明らかで、1作目が高い評価を与えたことを意味している。洋画の上位作品と同じように、作品の仕上がりが数字に表れた、うれしい現象と言ってよさそうだ。

そして邦画で驚くべき作品が、ひとつ。

ガールズ&パンツァー 劇場版』である。

劇場公開日は2015年11月21日なので、ランキングとしては昨年の作品に入るのだが、今年の2月に4DXの上映が始まったほか、爆音上映など根強い“ガルパン”ファンの要望に応える再上映が続き、現在、年をまたいで22億円を超える興収となっている。

全体の傾向として、邦画は比較的、想定どおり。しかし洋画に関しては、作品の魅力やクチコミによって大化けする可能性が広がったのが、2016年の特徴。このままいけば、昨年の『ジュラシック・ワールド』『ベイマックス』に続いて、1位と2位を洋画が占めることになるが、夏休みには、さらに上位を狙える作品が公開される。『ファインディング・ドリー』だ。現在、北米でも予想以上のヒットを続けており、日本でも熱狂的に迎えられるのは確実(前作の『ファインディング・ニモ』は110億円)。

そうなると、2016年のトップ3本は洋画となるが(トップ3が洋画というのは2011年以来)、夏休み映画を中心に今年後半には、思わぬサプライズヒットも生まれるかもしれない。

『ズートピア』

(C) 2016 Disney. All Rights Reserved.

『デッドプール』

(C) 2016 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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