「よく、そこまで考えた」ゲイカップルの “代理母出産” に、同性婚訴訟の原告でさえ驚いた理由
スウェーデンに住む「みっつん」さんは、パートナーのリカルドさんと夫夫(ふうふ)で、3歳になる息子を育てている。ふたりが選んだのは代理母出産(サロガシー)だ。米国のエージェンシーを通して代理母になってくれる女性と知り合い、子どもをもった。
みっつんは自らが経験したサロガシーについてつづった『ふたりパパ ~ゲイカップル、代理母出産(サロガシー)の旅に出る~』を出版。この本の装画を描いた小野春さん(「にじいろかぞく」代表・同性婚訴訟原告の一人)とトークイベントを行った(8/31、東京堂書店神田神保町店にて)。今回はその内容を一部、構成してお届けしたい。
*養子かサロガシーか、悩んだ
「代理母出産」と聞くと、女性の身体を危険にさらすものとして、受け入れがたく感じる人もいるかもしれない。実は、対談相手の小野さんも最初はそのように感じていたという――。
みっつん 小野さんとは4年くらい前に初めて会ったんだよね。ちょうど(代理母さんの)妊娠がわかった頃でした。そのとき「代理母出産に関して全然わからないから、話を聞きたい」ということを、とてもストレートに言ってくれて。僕はその気持ちがすごくうれしかったので、正直にお話ししようと思いました。
小野 本にも書いてありますが、今読み返すと私、ひどいこと言ったな(苦笑)。当時は代理母出産について、知識も情報もほとんどもちあわせていなかったんです。社会派の雑誌で「ウクライナの代理母の悲惨な状況」みたいな記事を読んでいた程度で、正直なところ、代理母出産に肯定的な気持ちになったことがなかったの。
でも、みっつんの話を聞いたら「よく、そこまで考えるものだな!」と驚いて。こんなにも事細かに子どものことを考えて、親になったらどうすべきかとか、子どもや代理母さんの人権を守るためにどうすればいいかとか、もう徹底して制度を調べて、考え尽くしているわけです。
私は以前男性と結婚していて、子どもを授かりました。そのときは「結婚したら子どもをもつでしょ」という程度で、何も考えていなかったのね。だから本当に恥ずかしいというか、「赤面」というのが一番ぴったりくる感じ。
みっつん 僕らは同性カップルで、子どもをもつことが「当たり前」じゃないから、すごく深く考えたわけだけど、それはかえってよかったなと思いますね。ある意味、ラッキーでありがたいことだな、とずっと思っています。
小野 あと、本を読んですごくびっくりしたのが、代理母をする人との関係性でした。想像していたのと全然違ったので。それはもっと「友情」であり、「人と人の一つの関係性なんだな」ということがわかって、また目から鱗が落ちました。今でも代理母さんと家族のようにつながっていて、クリスマスのギフトを贈り合っている、なんていう話も驚いたし。
みっつん それはたぶん僕らが米国でのサロガシーを選択し、なかでも最も信頼できるエージェンシーを選んだから、よかったのかも。エージェンシーからは、「代理母さんとは、ずっとまめに連絡を取ってください」と言われていたんですね。だから、僕たちも代理母さんもすごく仕事が忙しかったけれど、なんとか2週に一度くらいは連絡を取り合っていて。
当時はまだ、やりとりの重要さがあまりわかっていなかったんだけど、終わってみたときに、信頼関係を結べたことがいかに大事だったか、よくわかりました。妊娠出産の大変さとかプロセスとか、僕たちもずっと見てきたので、もう本当に感謝の念しかなくて。もし自分がゲイでなく、女性と結婚していたら、そこまでわからなかったかもしれない。
小野 私も、異性カップルと比べて考え込んでしまいました。結婚しているヘテロの男性のほうがもしかしたら、女性が妊娠出産することがこんなにも大変だということを、知らないことが多いんじゃないかな。
みっつん サロガシーについては、よく知られていないことが多いと思います。もちろん、ウクライナのほかにもタイやインドなどの国で行われたサロガシーに、問題がたくさんあったことは事実だし、米国でも過去には少なからず問題が起きてきたことも知ってはいて。
でもやっぱり時代が変わって、技術や仕組みもいろいろ向上していくなかで、「これなら大丈夫だな」と思えるようになってきている。僕らは養子縁組とサロガシーのどちらを選択するか、かなり時間をかけて考えたのだけれど、最終的にサロガシーを選んだのには、そういう背景もありました。
日本ではサロガシーなど生殖医療の話がタブー視されがちだけれど、僕の本が議論の材料のひとつになればと思っています。
*カミングアウトすらない
ふたりの話は、日本とスウェーデンにおける制度や、LGBTの置かれた状況の違いなどにも及んだ。
小野 スウェーデンって、結婚するとふうふの苗字はどうなるの?
みっつん 選択的別姓で、一緒にしたい人は一緒にします。たとえば夫・リカの妹さんが結婚したときは、ダンナさんが妹のほうの苗字に変えました。珍しい苗字だからって。僕とリカの場合、僕は日本の制度では結婚できないから名前を変えられないんだけれど、リカは僕の苗字と自分の苗字を、ふたつくっつけている。たとえば、僕らがもし結婚したら「小野-中村 みっつん」みたいな感じ。
小野 そうできれば、喧嘩にならなくていいね。私実は、最近ニュースになっている同性婚訴訟の原告の一人になっているんです。それで「婚姻届を出しても受理されなかった」という証明書をとるために、婚姻届を書くことになって。
そこで大喧嘩ですよ。「どっちの名前にするの!?」って。前に男性と結婚したときは、女のほうが苗字を変えるものでしょ、みたいな感じで喧嘩はしなかったんだけれど。でも今回は命懸けみたいなジャンケンをして、私が勝った。
みっつん 受理されないのに……(苦笑)。でも勝ってよかったね。
小野 そう思ったでしょ? ところが私が一瞬、お茶をいれに席を立ったら、相手がそのすきに自分の名前を書いちゃった。「酷い!なんでそんなことすんの?」って大騒ぎ(会場笑)。だから本当に、早く日本でも選択的別姓ができるようになってほしいですね。
みっつん それが合理的ですよね。親権の話もそうだと思います。スウェーデンは結婚しない人も多いし、離婚率も高くて50%を超えているんだけれど、親権は結婚していなくても共同です。親同士の関係がどうなろうが、その子が成人するまでは、ちゃんとそのふたりが責任をもって育て上げなさいよ、となっている。結局、全ての制度が「いかに子どもの権利を守っていくか」というところをベースに考えられているなと思いますね。
小野 子どものことを考えると、やっぱり日本のように一方にしか親権がないのはちょっときついな、って思うところはありますね。親権をもたない側の親は子育てから排除されやすくなってしまう。私は(子父に)会いたくないからいいんですけど(笑)、子どもにとってはやっぱりそれは良くないかな、っていうね。難しい。
みっつん 僕からも聞いてみたいんですけれど、日本で女性ふたりで子育てするのって、どうですか?
小野 最近はLGBTという概念もだいぶ浸透してきたし、学校の先生もLGBTの研修を受けていることが多くなってきて。だから今、子どもが小学校にあがるくらいの世代は、入学前に先生にカミングアウトした、という人も増えているみたいですね。
みっつん すごい。そういうのは、ここ数年でどんどん変わってきているね。
小野 でも私が子育てを始めたのは、まだ日本にLGBTという言葉も入ってきていない頃だったから、周囲へのカミングアウトはちょっと難しかった。6、7年前に初めて、子どもの学校のスクールカウンセラーさんに「女性同士で子育てをしている」と話したときも、すごくびっくりされて、「えぇっ」「えぇっ」って10回くらい言われて。そんなにびっくりしなくてもいいじゃないですか、みたいな(笑)。
スウェーデンは、きっと違うのよね。幼稚園、どうですか?
みっつん うちは1歳半頃から幼稚園に行かせているんですが、カミングアウトすらなかった。最初にリカが幼稚園に電話で予約を入れて、僕らふたりで見学に行ったんですね。帰りに、食べ物のアレルギーの有無とか、いつ頃から預けたいと思っているということを話して、じゃあ今度は慣らし保育をいつ頃からやりましょう、よろしくお願いします、で終わり。その後も一切、ないですね。別にその話題を避けるわけではなく。
小野 だいぶ違うのね。でも本当はそんなふうに、わざわざ話題にするまでもないこと。私はよく「同性カップルの子育てってどうですか?」って聞かれるんだけれど、実際はそんなに特別なことってないんです。子育ての悩みって同性カップルでも異性カップルでも結局は同じだし。子どもがご飯食べてくれないとか、思春期に入って生意気だとかね。
みっつん トイレトレーニングどうしよう、とかね。今、まさにそれなんだけど(笑)。
みっつん
名古屋市生まれ。2011 年、スウェーデンの法律の下、結婚。同年、夫・リカとともに東京からロンドンへ移住。2016 年、サロガシー(代理母出産)により男児を授かったのを機に、夫の出身地であるスウェーデン・ルレオに移住、現在にいたる。ブログ「ふたりぱぱ」http://futaripapa.com/で、サロガシーの経験や子育て日記を綴り、SNS などで普段の様子をシェアしている。
小野 春
子育てをするLGBTとその周辺をゆるかにつなぐ団体「にじいろかぞく」代表。「結婚の自由をすべてのひとに」訴訟の原告の一人。同性パートナーと共に3児を育てるステップファミリーとして暮らし、14年間のアレコレを育児ウェブマガジン「ベビモフ」にて連載中「80パーセントふつうのいえ」。