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PGA候補発表で見えたオスカー戦線最新事情:勢いを増す「ラ・ラ・ランド」、希望遠のく「沈黙」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ゴールデン・グローブを最多部門で受賞した「ラ・ラ・ランド」。(写真:REX FEATURES/アフロ)

今年のオスカー戦線が、いよいよ本格的に見えてきた。米西海岸時間10日、プロデューサー組合(PGA)賞のノミネーションが発表されたのだ。

PGAに所属するプロデューサーは、およそ7,000人。会員の一部はアカデミーと重なり、さらに、PGA賞はオスカーと同じ投票システムを使っている。「マネー・ショート 華麗なる大逆転」と「スポットライト 世紀のスクープ」の接戦だった昨年、PGAは「マネー・ショート」を選び、オスカーは映画俳優組合(SAG)に同意して「スポットライト」を選んだが、その前は8年連続でPGA受賞作がオスカー作品賞も取った。PGAにノミネートされなかった映画がオスカーにノミネートされることはあっても、それらがオスカーで作品賞を手にしたことは、過去一度もない。そういった事情から、オスカー作品賞の行方を予測する上で、PGAは、最も重要な賞なのである。

今年、PGAにノミネートされた10作品は、「メッセージ」「デッドプール」「Fences」「Hacksaw Ridge」「Hell or High Water」「Hidden Figures」「ラ・ラ・ランド」「Lion」「Manchester by the Sea」「ムーンライト」。これ以前から、今年のオスカーでは「ラ・ラ・ランド」「ムーンライト」「Manchester by the Sea」が大健闘すると予測されていたが(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20161216-00065536/)、本日の発表で、この3作品は、フロントランナーの地位をさらに確実にしたと言える。R指定のスーパーヒーロー映画「デッドプール」が入ったのはサプライズではあるが、PGAは過去にも、「007 スカイフォール」やJ・J・エイブラムスの「スター・トレック」など、オスカーが無視しがちな娯楽作をノミネートしている(だが、それらが実際に賞を取ったことはない)。

一方で、候補入りの可能性があるとされていた「沈黙ーサイレンスー」「ラビング 愛という名のふたり」「ジャッキー」などがオスカー作品賞を受賞する可能性は、相当に遠のいた。これらの作品が演技部門の候補として食い込む可能性は十分あるし、作品も、候補入りだけならするチャンスは、十分ある。昨年の「ルーム」をはじめ、「ウィンターズ・ボーン」「ツリー・オブ・ライフ」「しあわせの隠れ場所」など、PGAに無視されつつオスカーノミネーションを果たした作品は、過去7年に6作品あるのだ。しかし、先にも述べたとおり、それらが実際にオスカー作品賞に輝いたことは、一度もないのである。

さらに、西海岸時間9日夜には、英国アカデミー賞のノミネーション発表があった。英国アカデミーと米国アカデミー、両方に所属する会員はおり、こちらも注目されるところである。が、英国アカデミーは、PGAほどオスカー作品賞と一致はしない。昨年の英国アカデミー賞作品賞は「レヴェナント〜蘇りし者」だった。

それでも、「ラ・ラ・ランド」が、なんと11部門で英国アカデミー賞にノミネートされたことは、特筆すべきだろう。投票者がまったくかぶらないとはいえ、「ラ・ラ・ランド」は、この日曜のゴールデン・グローブで、史上最多の7部門受賞を果たしてもいる。ここしばらく、オスカーのノミネーション締め切りは、ゴールデン・グローブ発表より前だった。つまり、アカデミー会員はゴールデン・グローブの結果の影響など受けないという姿勢を貫いてきていたのだが、今年のノミネーション投票締め切りは、今週金曜日だ。「ラ・ラ・ランド」のこの勢いに心を動かされる投票者がいないとは限らない。

photo by Dale Robinette
photo by Dale Robinette

「ラ・ラ・ランド」にとってのハードルは、SAGのアンサンブル部門へのノミネーションを逃していること。SAGのアンサンブルにノミネートされずしてオスカー作品賞を取った例は、「ブレイブハート」(1995)にさかのぼるまで、一度もないのだ。とは言え、「ラ・ラ・ランド」は、実質、エマ・ストーンとライアン・ゴズリングのふたり劇と言って良く、“アンサンブル”(総キャスト)という観念に必ずしもそぐわないことが、このノミネーションを逃したのではないかと見る向きは多い。ちなみに、SAGアンサンブルとPGA両方にノミネーションを果たしたのは、「ムーンライト」「Manchester by the Sea」「Hidden Figures」「Fences」だ。この部分では、「ムーンライト」と「Manchester〜」が、「ラ・ラ・ランド」に追い打ちをかける。

もちろん、これらはあくまで統計。統計が必ずしも当てにならないことは、今回の大統領選が証明したばかりだ。投票する人の心理は最後まで変わり続けるかもしれないし、アカデミー独特の投票制度が及ぼすかもしれないという要素もある。

オスカーノミネーションは、米西海岸時間24日午前5時半に発表される。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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