リベンジ消費をどう生かす ~ 緊急事態宣言解除後への期待と懸念
・リベンジ消費を期待する声
我慢をしてきた消費者が、制限が解除された途端に一気に消費に走ることをリベンジ消費・報復消費と呼ばれる。今、このリベンジ消費を期待する声が強まっている。
「思っていたよりも来場者が来ています。やはり、オンラインよりもリアルで商談をする方が良いですね。」
2月18日と19日の両日開催された京都ビジネス交流フェアは、緊急事態宣言下、感染対策を施した上で京都パルスプラザで開催された。例年の4分の3程度に縮小し、バーチャル展示会を併催する形で開催された。
「すでに緊急事態宣言後の消費拡大に向けてウォーミングアップしている業者さんが多いですよ。」京都の中小製造業企業の経営者は話す。会場で話を聞いても、製造業などではコロナ禍での経営への影響が少ない業種も多く、「早く緊急事態宣言が解除され、経済そのものが動き出してくれるのを待っている」という声が多く聞かれた。
京都市内の飲食店経営者は「多くの店は限界に近い。早く緊急事態宣言が解除され、客が戻ってきてもらわないと、さらに廃業が増える」と危機感をあらわにする。一方で、別の経営者は、「緊急事態宣言が解除され、ワクチン接種が進めば、多くの人が一気に旅行や外食に出てくるだろう。あともう少しだと思っている」と話す。
・20歳代、30歳代の男女の6割は12月のボーナスを手にしている
飲食店や観光産業の経営悪化が話題に上がるが、製造業やIT産業などではそれほど経営に影響していない企業も多い。
エン婚活エージェント株式会社が2020年12月24日に発表した『「冬のボーナスの使い道」に関する調査』によると、2020年の冬のボーナス支給額(支給予定額)の対前年比で「変わらない」が男性(46.3%)・女性(51.6%)と最も多い、「上がった」も男性(14.7%)・女性(14.8%)となっており、男女ともに6割を超す人が前年と「変わらない」もしくは「上がった」ボーナスを手にしている。
もちろん、コロナ禍の影響で、業績が悪化した企業も多く、男女ともに3割の人が「下がった」と回答しており、ボーナスの支給額に大きな影響を与えている。しかし、影響を受けていない業種や業界、むしろ売上げ、業績が上がったという業種、業界も見られることから、このような結果になっている。
・株価上昇による好影響も
2月15日に、日経平均が30年半ぶりに3万円台を上回った。この株価は、1980年代後半のバブル経済期を彷彿とさせる動きとなっている。
「株式投資に若者が関心を持ち始め、資金を投入していることも株価上昇の一助となっている。一方で、これまで下がっていた株をこの機会に現金化する高齢者層も目立っている」と、証券会社の社員は説明する。
株価上昇によって、利益を得た高齢者などが、旅行や孫へのプレゼントなどへの消費拡大することへと繋がる。
・コロナ禍でもマンション坪単価は上昇傾向
株式会社ワンノブアカインドが2月18日に発表した「中古マンション坪単価の騰落率で見る、2021年1月不動産市況 -マンション情報サイト「マンションレビュー」調査結果報告」によると、コロナ禍にありながらも2021年1月の全国のマンション坪単価は上昇傾向を示している。
47都道府県中、35の都道府県で坪単価が上昇しており、緊急事態宣言が再発令された11都府県でも、9都府県で坪単価が上昇していることが明らかになった。調査対象物件が50件以上ある185市区町村で見ても、7割以上の市区町村で上昇傾向にある。
上昇率が高いのは、ベッドタウン・住宅街のある市区町村が中心となっており、在宅勤務・リモートワーク・テレワークの定着化から若手世代を中心に大都市郊外の住宅が人気を呼んでいることが判る。
東京都区部の人口流出が話題となり、「東京一極集中が緩和され、地方移住が増加する」とする説もあるが、実際には大都市近郊の住宅地への転居が増えているものと思われる。
いずれにしても、大都市近郊の住宅地の需要は堅調であり、「週末の住宅展示場やマンションのモデルルームなども、人出がある」(首都圏の不動産会社社員)し、「白物家電の購入や家のリノベーションなどもコロナ禍でも堅調だ」(関西圏の家電量販店従業員)。緊急事態宣言が解除されれば、こうした需要が他の分野にも向かう可能性がある。
・「もう我慢は限界」
博報堂生活総合研究所が2月19日に発表した首都圏・名古屋圏・阪神圏の20〜69歳の男女1,500名を対象とした「第11回 新型コロナウイルスに関する生活者調査」によると、人々の行動抑制が3か月連続で強まっている。
「新型コロナウイルス感染拡大に伴う『不安度』」には、大きな変化が見られないものの、『行動抑制度』は、3か月連続で強まっており、「外食を控えている」82.4%(+6.7%)、「旅行・レジャーを控えている」90.5%(+3.8%)、「体験型エンターテインメントを控えている」84.9%(+3.6%)、「交友・交際を控えている」85.4%(+3.3%)となっている。感染拡大以前の普段の状態を100点としたとき、現在の状況下における「生活自由度」が何点くらいかをきいたところ、54.9点と、1月からは1.4ポイント減少と3か月連続で減少している。
消費者の我慢も限界に近いと言える。2月に入り、緊急事態宣言が継続しているにもかかわらず、前回発出時よりも大都市部などの人出の減少率が低下していることも、それを示している。
緊急事態宣言下では抑えられていた消費意欲のうねりが、政府の思惑を超えて、爆発する可能性も高い。
・一方で、懸念の声も大きい
コロナ禍の影響を受けていない業種、業界の存在や、株価上昇による高齢者を中心とする利益確保など、リベンジ消費が起きる条件は整いつつある。
中古マンションの坪単価の上昇などは、コロナ禍にもかかわらず、需要拡大の可能性が見えていることを示している。そして、人々の消費や旅行、外食などへの我慢は限界に来ている。
緊急事態宣言が解除されれば、年度末、卒業、転勤などの季節であり、春めいてくる中で桜など観光地への人出が、政府の意図を超えて急増する可能性がある。
各地の観光地は、未曾有の不景気に直面しており、このチャンスを復興に繋げたいと考えるだろう。都市部の飲食業も、経営継続の危機に瀕しており、リベンジ消費をいかに取り組むかに賭けてくるのは当然である。
もちろん、一方で懸念の声も大きい。地方部では、首都圏や大都市圏からの観光客の急増は、再び感染者を増加させるのではないかとの危惧が強い。
一部の府県での緊急事態宣言の前倒しの解除、さらに3月7日に予定されている全国での解除によって、一気に観光客、買い物客、飲食店客などが増加することが、再び感染拡大を引き起こすのではないかとの懸念も強い。
何とか経営危機から脱したいという観光業、飲食業の経営者たちの悲壮な訴えの一方で、3月後半に再び感染者急増になった場合に、4月からの新年度、新学期に影響するという声も大きい。
緊急事態宣言が解除されたからといって、新型コロナウイルスの感染拡大の危険性が無くなった訳ではないという専門家の指摘も重い。
・リベンジ消費を受け止められるための経営維持が重要に
コロナ禍の鎮静化と経済の再興という相反する重要課題を前に、確実な方法は存在しない。
緊急事態宣言が解除されれば、リベンジ消費が起きる可能性は高い。このリベンジ消費をどう生かすが問題だ。前回の緊急事態宣言解除の消費拡大は、感染拡大で腰折れした。二度、同じことを繰り返せば、日本経済全体に悪影響は避けられない。
ワクチン接種などコロナ対策を急ぎつつ、一方でリベンジ消費の恩恵を受け止められるまで、いかに多くの企業、個人事業者の経営と雇用を維持する対策を採れるかが、地域経済にとって重要な政策課題になっている。
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