誠実すぎる一条天皇、不実なまひろ。運命の手紙に付けたりんどうの花言葉が皮肉だった「光る君へ」第25回
まひろ「私は不実な女でございますが それでもよろしうございますか」
宣孝「わしも不実じゃ あいこである」
大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合)第25回「決意」では、まひろ(吉高由里子)が宣孝(佐々木蔵之介)に嫁ぐ決意をした。佐々木蔵之介だから、あしながおじさんみたいなイメージで見ることができるものの、場合によっては年齢差のある、地位も名誉もお金もあるひとなんて、差別的な発言の対象になりそうでもある。佐々木蔵之介でほんとうによかった。
とはいえ、宣孝はまひろにロックオンして以降、なんだか調子に乗って見える。この件、後述するとして、順を追って見ていこう。
美しい和紙を巡る収賄
まず越前にて。越前和紙はまひろもうっとりするほど質の良い美しいもの。あるとき、為時(岸谷五朗)は租税よりも収められた紙が多いことに気づく。これまでの国守は余分の紙を売って私腹を肥やしていたことを為時は許容できない。紙職人に返そうとすると、この地では暗黙のやり取りで関係性を保っていることを吐露される。
清濁合わせ呑むことが為時にはできない。それができるのが宣孝だ。その宣孝の求婚を受けるというまひろを「おまえは潔癖だから」と為時は心配する。まひろのまっすぐさは父譲り。まひろは自分の足りないものを求めて宣孝に嫁ぐ気になったのかもしれない。これはまひろの、父からの自立とも解釈できそうだ。勤勉さをはじめとして、意外とまひろは為時の影響を強く受けてきたのだ。
まひろ、帰る
父を越前に残し、京都に戻る船のうえでまひろは「私は誰を思って都に帰るのだろう」と自問自答する。
変わろうと思って越前に来たにもかかわらず、結局、道長(柄本佑)を忘れられないようだ。
為時譲りの潔癖さゆえ、道長の正妻でなければいやだという思いが長年、彼女を苦しめてきた。
琵琶湖の場面のあと、京都で道長と倫子(黒木華)と3人の子供たちが仲睦まじくしているカットに切り替わる。道長はなんだかんだいっても幸福な家族がある。心で繋がっていても、まひろは道長の正妻の座は得られない。
恋がいっぱい
京都では、いと(信川清順)に夫・福丸(勢登健雄)がいた。この夫にも正妻がいて、いとのもとにたまに通ってくるのである。
この時代、一夫多妻の通い婚が当たり前。でも福丸は、いとの頼みをなんでも聞いてくれるそうで。頭がいいとか、歌がうまいとか、そういうことよりも言うことを聞いてくれることがいいのだと幸福そうだ。道長も正妻にはしてくれないが言うこと(いい国を作る)を聞いてくれているし、いとのようにフレキシブルな考えを持ったほうが幸せになれるということか。
乙丸(矢部太郎)も越前の海女・きぬ(蔵下穂波)を京都につれてきた。
まわりにも春が来て、まひろにも春が来る。まひろに春が来そうだから、まわり(従者)にも春が来たのか。どっちだろう。
凶事もいっぱい
どこもかしこも色恋におぼれている。一条天皇(塩野瑛久)は中宮(高畑充希)のもとに通い詰め、政務が疎かになっていた。
おりしも、安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)は京都には「地震 疫病 火事 日蝕 嵐 大水」あらゆる凶事全部くると予言する。この災の根本は帝のご乱心。
進言しても動こうとしない帝に、あれほど民のことを考えていたのに……と苛立つ道長。手をこまねいた結果、鴨川に大水が出た。まひろの家も鴨川の近くに位置しているので水浸しに。道長は左大臣を辞職すると宣言するが……。
こんな一条天皇はいやだ
一条天皇はかつて、あんなに誰もに公平であろうと気をつかいながら、最適解を探していた知性をもっていたのにどうしてこうなった。
しかも実際は、こんなに恋に溺れる愚か者ではなかったようなのだ。すべてにおいて、1000年以上昔のことなんて何が正しいかなんてわからないのだから自由に創作してもいいだろう。筆者はまひろと道長がこれほど親密でも、まひろと清少納言(ファーストサマーウイカ)が仲良しでも楽しく見ているのだが、一条天皇と定子との関係がなんだかもやもやしてしまう。ふたりにはもっと純粋な美しいものを想像していたのに、肉欲に溺れているだけに見えてしまうのはなぜ……。いや、一条天皇は誠実すぎるあまりこうなったとも言えるだろう。
恋愛ドラマに定評のある大石静。『光る君へ』も恋愛だらけになっている。政治の権謀術策も書くと公言し、実際書いてはいるが、恋愛か政治ばかりになってはいないか。天災の数々は、恋にふけり過ぎて天の怒りを買ったように思える。
道長、嫉妬?
宣孝はうきうきと道長にまひろと結婚すると報告する。このときの佐々木蔵之介のニヤケ顔。まひろが怒ると、黙っていたら意地悪されると言い訳する。道長とまひろのことを知っていて、自分有利に持っていこうと手回しがいい。宣孝も欲深く、欲しいものは必ず手に入れるタイプだろう。こうやって出世してきたのだろう。ここが為時と違うところだ。
まひろの結婚を知った道長から祝の品が届く(使者は出世した百舌彦!〈本多力〉)が、手紙は道長の書ではなく、それがまひろの背中を押した。
おそらく、りんどうであろう、1輪花を添えた手紙を宣孝に送り(使者は乙丸! 矢部太郎がりんどうを描いた光る君絵がすてきだった)、宣孝が家にやってくる。
まひろ、結婚
まひろ「私は不実な女でございますがそれでもよろしうございますか」
宣孝「わしも不実じゃ あいこである」
りんどうの花言葉には「誠実」の意味がある。でもふたりは不実なのだ。
清濁あわせもった宣孝と結婚することで、まひろはこれまで彼女を悩ませてきた道長との、妻でも妾でもないが密かに思いやっているという歪な関わりを肯定できるようになるのではないか。でも天は日蝕。濁の部分が多そうで前途は晴れ晴れとはいきそうにない。
りんどうは第12回、為時が病気の妾(さわの母)を看取っている場面にも出てきた。このとき、まひろは為時の誠実さを見て、妾でもいいと考えはじめていた。残念ながらその思いは倫子(黒木華)の存在により砕けるのだが。
「源氏物語」でも光源氏が手紙に花を添えて贈る描写がある。文付き枝という。洒落ている。
参考記事:タイミングの悪いまひろ(吉高由里子)と道長(柄本佑)、本気の倫子(黒木華)の恋模様「光る君へ」12回
大河ドラマ「光る君へ」(NHK)
【総合】日曜 午後8時00分 / 再放送 翌週土曜 午後1時05分【BS・BSP4K】日曜 午後6時00分 【BSP4K】日曜 午後0時15分
【作】大石静
【音楽】冬野ユミ
【語り】伊東敏恵アナウンサー
【主演】吉高由里子
【スタッフ】
制作統括:内田ゆき、松園武大
プロデューサー:大越大士、高橋優香子
広報プロデューサー:川口俊介
演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろう ほか