タイミングの悪いまひろ(吉高由里子)と道長(柄本佑)、本気の倫子(黒木華)の恋模様「光る君へ」12回
大河ドラマ「光る君へ」(NHK 脚本:大石静) 第12回「思いの果て」(演出:佐々木善春)は複雑に絡み合う人間関係の渦の中で、まひろ(吉高由里子)と道長(柄本佑)が揉みくちゃになり、引き離されていく。まさにメロドラマ!
大石静さんは自身のブログでは、第12回を”まひろと道長の「青春編の終わり」”と位置付けている。
(*ネタバレありますのでドラマをご覧になってからお読みください)
第12回の見どころ
その1:まひろと道長のすれ違い
その2:倫子の情熱
その3:実資や公任の近況
(今週はその3についても触れます)
その1:まひろと道長のすれ違い
せっかくの求婚を、まひろが妾になることを拒んだがために喧嘩別れのようになったまひろと道長。ふたりは、それぞれ妾の子と接することで、価値観をアップデートする。
まひろは父・為時(岸谷五朗)が病に臥した妾・なつめ(藤倉みのり)に誠心誠意尽くす姿を見る。
為時は危篤になったなつめの願いを聞き、離れて暮らしている娘・さわ(野村麻純)を呼ぶ。それをきっかけにまひろとさわは姉妹のような付き合いが始まる。
実資(秋山竜次)が縁談候補になったり、おそらく妾のなつめやその子・さわと接したこともあり、やがてまひろは妾でもいい気がしてきて……。
一方、道長は道綱(上地雄輔)から、寧子(財前直見)を見ていると「妾は常に辛いのだ」と感じると聞き、ようやくまひろの気持ちを理解したようだ。
史実という運命は意地悪
ロミオとジュリエットは本能の赴くままに突っ走ってしまったが、まひろと道長はどちらも理性的で現実的。
一瞬カッと頭に血がのぼることもあるが、相手のことや未来のことを考えることができる。これはとても示唆的で、アンガーマネージメントではないが、考えることの大切さ、相手を慮ることの大切さを教えてくれる。
だが、史実という運命は意地悪だ。ドラマのまひろと道長はこんなに求め合っているのに引き離されるのは、全部史実のせいだ。
まひろが妾でもいいと今度こそ求婚を受け入れる気になったにもかかわらず、道長の婿入り相手が倫子(黒木華)で、それがまひろの本能をまた抑え込んでしまうのだ。
その前に、まひろと倫子が友情を深めていたのが仇になった。
いつもの逢瀬の場所で、道長は「妾でいいと言ってくれ」と心の声を発するが(多分、そうしたら、絶対辛い思いをさせないと思っていただろう)、その声はまひろに届かない。本心と裏腹の、「私は私らしく、自分が生まれてきた意味を探してまいります」などと言ってしまう。
ここで、第3回を思い出してほしい。まひろの嘘で盗賊と間違われ捕まりそうになったとき、「来るな おれは大丈夫だ」という道長の心の声がまひろに届いているかのようだった。
あの頃はお互い、わかりあっていた気がする。でも今や、相手の気持ちがわからない。
とはいえだ。ここで、まひろが道長の妾になったら、おそらく「源氏物語」は生まれなかっただろう。結ばれなかったからこそ、まひろは「源氏物語」を書くに至ったに違いない。
何かを得るためには何かを失わないといけないという教訓の典型である。
このすれ違い。タイミングの悪い「知らなくていいコト」(20年 日本テレビ)の尾高(柄本)とケイト(吉高)まんまである。でも、まひろのために天下を取ろうと本気出す道長のほうが尾高よりもっと愛が深そうだ。
その2:猫か道長か、極端な倫子の情熱
倫子との友情に苦しむまひろに対して、倫子は全くまひろの気持ちを知らないところがまた悲しい。
猫にしか興味がないと思われていたが、打毬の日からすっかり道長に夢中の倫子。道長に認識されているかもわからないが、道長と結婚したい気持ちは強く、「叶わねば私は生涯、猫しか愛でませぬ」と泣くほど極端な勢いで、父・雅信(益岡徹)に縋る。
タイミングがいいのか悪いのか、やけになったのか、まひろにまた振られた道長は文を出す段階を経ずして、土御門の邸宅に押しかける。そこで、倫子は積極性を発揮してーー。
六条の廃邸で別れたまひろと道長は、それぞれ、まひろの家、倫子の家・土御門邸に向かった。両家は徒歩5、6分くらいの近距離である。こんなに近くで、道長と倫子が……と知ったらやりきれないだろう。
その3:実資や公任の近況
まひろが妾でもいいと思った理由のひとつは、実資との縁談の話が進行しそうだったことがあるだろう。
生活のために好きでもない人と結婚することと、好きな人の妾になることとを天秤にかけたら、妾の方が断然マシ。
その実資は、赤痢になって弱っていたが、おそらく、宣孝(佐々木蔵之介)が巻物に潜ませた女性の絵を見てニンマリ。この絵、よく見ると、上品な裸婦像(薄衣を纏っている)であった。
いろんな不満を日記に書いたらと勧めていた北の方を亡くして、実資も寂しいのだろう。おそらくまひろのことだと思うが、日記に書いているのがいじらしかった。でも「鼻くそのような女」などと書いているのだが。
公任(町田啓太)は、「やる気のない道長までやる気を出している」と自身の立場の危機を感じ、父・頼忠(橋爪淳)に相談する。このセリフが可笑しかった。
道長以上に「シュッとした」格好よさで、能力も高いのに、出世コース的に心配になってきた公任。父に引退を示唆され、後ろ盾を失う不安も。これからは道兼(玉置玲央)派につけと助言される。
誰についたら安泰か、あれこれ策を巡らすことは、今の時代でもあることで、ものすごく親近感の湧く場面である。
公任は、合コンで女性について自論を語るような場面も担うし、最も現代と平安をつなぐ存在のような気がする。
庚申待の夜、まひろはさわに自分の罪を語る。
60日ごとに訪れる庚申の日。寝てしまうと、心のうちに隠した3つの罪が天帝(天の神)に知られてしまうと信じられていた。
皆、それぞれ起きて、自分を顧みている。誰もが何かしら罪を抱えている。
恋と罪をどちらも深く、業火に燃えるものの如く描くのは、「セカンドバージン」(10年)や「コントレール〜罪と恋〜」(16年)を書いた大石静さんらしい。
コントレールの井浦新(「光る君へ」では道隆役)の罪を背負った男の役も保護欲をそそるような魅力があった。
予告によると第13回では、道隆の長女・定子(高畑充希)も登場し、さらに関係性は複雑になっていく。ますます相関図が手放せない。
大河ドラマ「光る君へ」(NHK)
【総合】日曜 午後8時00分 / 再放送 翌週土曜 午後1時05分【BS・BSP4K】日曜 午後6時00分【BSP4K】日曜 午後0時15分
【作】大石静
【音楽】冬野ユミ
【語り】伊東敏恵アナウンサー
【主演】吉高由里子
【スタッフ】
制作統括:内田ゆき、松園武大
プロデューサー:大越大士、高橋優香子
広報プロデューサー:川口俊介
演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろう ほか