「AIが職を奪う」、欧州で規制求める声 米国ではITセクターの失業者数増加
米経済ニュース局のCNBCによると、欧州では政府によるAI(人工知能)規制を求める声が高まっている。スペインIE大学の研究機関「センター・フォー・ザ・ガバナンス・オブ・チェンジ(CGC)」が調査したところ、大半の人がAI規制を求めたという。
「一般的な懸念は失業の恐れ」
調査対象者のうち、「AI技術が雇用の安定に及ぼす影響を軽減するために規制が必要だ」と考える人は68%にのぼった。その人数は、CGCが2022年に実施した同様の調査から18%増加した。
リポートによると、欧州ではエストニアだけが規制を求める人が前年より減少した。同国では政府によるAI規制を支持する人が35%にとどまる。だが、一般に欧州の大多数の人は規制を求めている。
IE大学サイエンススクール学部長のイクラク・シドゥ氏は「最も一般的な懸念は、失業の恐れだ」と述べる。「Chat(チャット)GPT」などの登場によって、生成AIに対する規制の要望が高まっているという。
米国でIT失業率4.3%に上昇
一方、米ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、米国では23年9月、IT(情報技術)の失業率が4.3%に上昇し、同国全体の失業率3.8%を大きく上回った。AIブームの中で、従来のITキャリアや初級レベルの職種の採用が鈍化しているという。
米労働省のデータに基づく、米ITコンサルティング会社のジャンコ・アソシエイツのリポートによると、23年9月におけるIT職の失業者数は11万7000人で、同8月の10万6000人から増加した。
ソフトウエアや電気通信、情報サービス、データ処理を含むITセクターの人員削減数は、過去3カ月で計1万4300人になった。
これに対し、23年9月における米国全体の新規雇用者数は33万6000人で、同年1月以来最大の増加となった。ITセクターでは人員削減が続くものの、国全体の失業率は歴史的に低い水準で推移している。
ジャンコ・アソシエイツのビクター・ジャヌライティスCEO(最高経営責任者)によると、過去1年間、企業のCIO(最高情報責任者)などのテックリーダーらは、クラウドコンピューティングやソフトウエアへの支出を削減するとともに、コストのかかる ITプロジェクトを削減するよう求められてきた。
一方、CIOらは生成AIの利用を増やすよう求められており、一部の企業は経営資源をそちらに振り向けている。
その結果、IT分野ではカスタマーサービスや通信などの初級レベルの職種の雇用が抑制され、自動化やクラウドコンピューティングなどの雇用が加速している。
ジャヌライティス氏によると、企業は現在、AIによる「大規模な代替」を行っているわけではなく、初級職の採用を減速させているのだという。
セキュリティーやデータ管理で需要増
全体として見ればIT雇用市場は堅調と言えるのかもしれない。ウォール・ストリート・ジャーナルは、生成AIはすでに「スキル再教育者」と呼ばれる教員職や、「プロンプトエンジニア」と呼ばれる新しい職業を生み出していると報じている。
IT資格の業界団体である米コンプティア(CompTIA)によれば、23年9月のテクノロジー系求人全体に占める新興テクノロジー分野の求人比率は26.5%で、同年8月の22%から増加した。 このうち、AI関連の求人は36%を占めた。
ほとんどのテクノロジーリーダーは、生成AIが IT 労働者に取って代わるとは考えておらず、特にサイバーセキュリティーやデータ管理などの分野で、人材の需要が供給を上回っている。
23年9月は引き続き、ソフトウエア開発者がIT分野で最も需要があった。「ITプロジェクト管理やデータ分析、クラウドコンピューティングといったスキルにも高い需要があった」とコンプティアは指摘する。
筆者からの補足コメント:
こうした中、人材育成やリスキリングに活路を見いだす企業もあるようです。米半導体設計ソフト大手シノプシスのスリラム・シタラマンCIOは今年2月、「人材を巡る競争が現実に起きている。当社では採用コストを削減しながら、人材育成に力を入れている」と説明していました。仮想化技術やクラウド技術などを手掛ける米ヴイエムウェアは、リスキリング体制を整備したと伝えられています。同社のジェイソン・コンヤードCIOによると、ヴイエムウェアは機械学習や自動化といった新たなスキルのトレーニングに重点を置いているとのこと。「私たちを今日に至るまで導いてきたスキルは、私たちがこれから行く先へと導くスキルではない(“The skills that got us to where we are today are not the skills that will get us where we are going”)」と同氏は述べていました。
- (本コラム記事は「JBpress」2023年10月18日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)