「教員のスマホは職員室で管理、授業中は禁止」にみる、教育委員会の「残念な」思考力
浜松市では、教員の盗撮などの不祥事を受けて、授業中や部活動でのスマホを原則禁止するという。教員のスマホは職員室で保管するというのだから、どこかの校則かと思える動きである。
たしかに、8月から5件も不祥事が起きているのは、心配だし、再発防止に向けた取り組みが重要なことは、言うまでもない。また、被害にあった生徒や在校生等には、教員への不信感や失望があろう、心理的なケアも最重要だ。
しかし、全校、全教職員に対して、一律禁止にしようとするのは、多くの人が首をかしげたくなる措置だろう。Twitterなどでも、かなりの人が疑問を投げかけている。
(参考)ツイートまとめサイト https://togetter.com/li/1431382
たとえ話をすると分かりやすい。飲酒運転は大問題だし、犯罪だ。しかし、だからといって、飲酒や車の利用を禁止するだろうか?
浜松教育委員会の考えは、率直に申し上げて、残念だ。
意地の悪い見方をすれば、子どもたちに思考力や問題解決力を高める教育をしたいと言っているのに、自分たちには、そうした思考力がない、と宣言しているようにも見える。こういう施策に従う校長も、どうなのか。校長会議では異論は出なかったのだろうか?(公務員には上司に従う義務があるから、しんどい立場であるとはいえ。)
■目的と手段に分けて、しっかり考えてくれ
今回のことを、目的と手段に分けて考えてみる。
まず、目的だが、教員による盗撮や不適切なメッセージを生徒等に送信する行為等を防止すること、と思われる。この目的が重要である、必要性があることに、異論をはさむ人はいないだろう。
では、この目的に照らした手段の妥当性(相当性)はどうなのか。
先ほどの飲酒運転の例で説明したように、手段としては、やり過ぎではないか、というのが多くの人の感覚ではないだろうか?
別の例でいえば、痴漢は犯罪だ。だからといって、電車に乗るな、とはしない(女性専用車両はあるが)。つまり、今回の浜松市教委の対応は、目的は理解できるが、手段、施策が重過ぎる。現に、どの法律でも条令でも、教員は授業中にスマホを使ってはいけない、とはなっていないではないか?
授業や部活でのスマホの必要性がほとんどないなら、話は少しかわってくる。だが、そうではないことは、多くの教員も保護者も知っている。
タブレット端末といっても、1校に2台しかないなら、非常に使い勝手が悪い。しかも、浜松市でどうかは知らないが、インターネット環境が脆弱な学校も多い。せっかく撮っても、授業中にすばやく再生できないとなると、これも使いづらい。
また、部活動や体育の時間は、怪我や事故も多い。迅速に連絡する必要があるのに、スマホを職員室に取りに帰るのでは、命に関わるときもある。また、そういうケースも見越して、校長に許可を得て持ち出すとなると、また書類や手続きを増やすことになり、教員の負担感は増し、働き方改革に逆行するし、そもそもの目的だった盗撮防止等が緩くなる。
さらに、個人スマホよりは不正はしにくいかもしれないが、公用・共用のタブレット等だったとしても、盗撮や不適切行為は起きえる。なお、浜松で最近分かったのは、名古屋の駅ビルのエスカレーターで盗撮した教員がいたことだが、こういう事案は、今回の施策では対応できない。
そもそも、教員の私用携帯、スマホに頼っていることも、おかしいのだが、公費でタブレット等が全職員分支給されるというのは、一部の自治体を除いて珍しい。なかなか予算がとれていないのが多くの地域・学校の実情だ。
■不祥事防止には、別の施策で取り組め
なぜ、教育委員会は、こんな残念な発想になってしまうのか。
これは、不祥事が立て続けに起きて、教育委員会としては、少しでも、対策をしています感、やっています感を出したいからではないだろうか。だれに対して?それは、保護者、社会(世間)に対してだろうし、議会等も意識してであろう。
しかし、効果があるかどうか疑わしい施策やマイナス影響も大きい施策で”ポーズ”をとるだけならダメだし、ましてやそれに振り回される学校、教員は迷惑だ。
残念ながら、教員の不祥事を撲滅することに、特効薬はない。
だが、今回のように一律スマホ禁止などとせずとも、教育委員会が進めていけることはある。少なくとも以下の3点は進めていきたい。
第一に、不適切な行為や犯罪等(盗撮の場合は、静岡県迷惑行為等防止条例か軽犯罪法違反か)になる場合は、厳正に処分をすることだ。必要におうじて警察の捜査、介入を受け入れることもしっかり進めてほしい。
第二に、被害者や発見者の通報・相談窓口等を充実、周知することだ。盗撮の場合は、被害に気づかないこともあるので、やっかいだが。また、教員から生徒へのメッセージや迷惑行為については、生徒の側が萎縮して通報、相談できないことも考えられる。安心して秘密を守って、真摯に対応できる窓口等があるなら、それを教委は生徒や保護者に発信してほしい。
第三に、これは市教委だけではできないことだが、重い犯罪や信頼失墜行為をして、懲戒免職などとなった場合の情報を教育委員会間で共有することだ。現状では、別の地域で教員採用試験を受け直して復帰することができる。「文部科学省は2019年度から、わいせつ行為などで懲戒免職処分や禁錮以上の刑を受けて免許状が失効した教員の氏名を、各教育委員会に提供する取り組みを始める。」(毎日新聞2018年12月25日)ということだが、これがうまく機能するだろうか、注視していく必要がある。
あまり安易に一般化するつもりはないが、ほかにも、浜松にかぎらず、教育委員会等の施策や呼びかけには、疑問がわくものはある。自戒を込めて申し上げるが、問題解決力や思考力を真っ先に鍛えるべきは、教育に携わる大人のほうだ。