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中尾彬さんも残した「公正証書遺言」はどのような「手順」で作成するのか

竹内豊行政書士
中尾彬さんが残されたという公正証書遺言は一体どのようにして作られるのでしょうか。(写真:イメージマート)

今月22日、俳優の中尾彬さんが、心不全のため16日に死去していたことが報道されました。享年81歳でした。

中尾さんは、夫婦が直面した大病がきっかけで10年ほど前から妻の女優・池波志乃さんと「終活」を精力的に行っていました。そして、報道によると、まず公正証書遺言を作成されたそうです。(参考記事「どうせなら俺らしく」中尾彬さんの終活 トレードマーク「ねじねじ」200本処分 「無」直筆の墓デザイン

公正証書遺言という言葉をお聞きした方は大勢いると思いますが、ほとんどの方はどうやって作成するのかイメージできないのではないでしょうか。そこで、中尾彬さんが残した公正証書遺言の作成手順について見てみたいと思います。

STEP1.遺言の内容をメモする

まずは、「だれ」に「なに」を残すのかを考えましょう。ある程度決まったらその内容を箇条書きします。文書を作成する必要はありません。メモ程度で十分です

STEP 2.証人を決める

公正証書遺言を作成するには作成の一部始終を見届ける人が2名必要です(民法969条1号)。この人のことを証人と呼びます。証人は特に資格は必要ありませんが、未成年者や遺言によって財産を受け取るような利害関係人はなることはできません(民法974条)。

なお、証人を頼める人が見当たらない場合は、公証役場に頼めば手配してくれます。

STEP 3.資料を集める

遺言を作成するために必要な資料を集めます。主な資料は次のとおりです。

人に関する資料

  • 印鑑登録証明書
  • 戸籍謄本:自分や財産を残す人のもの
  • 身分証明書:自分や証人の運転免許証やマイナンバーカードの写し など

財産に関する資料

  • 預貯金の通帳の写し
  • 不動産の登記簿謄本
  • 不動産の固定資産税納税通知書
  • 貸金庫に関する資料 など

STEP 4.公証役場に予約を入れる

公証役場に面談の予約を入れましょう。公証役場は、遺言や任意後見契約などの公正証書の作成、私文書や会社等の定款の認証、確定日付の付与など、公証業務を行う法務省・法務局所管の公的機関です。

予約は全国どこの公証役場でもかまいません。ただし、公証人に自宅や入院している病院などに出張を依頼する場合は、自宅や病院などの出張先の都道府県に事務所がある公証役場に限ります。

STEP 5.公証人と面談を行う

作成したメモと集めた資料を基に公証人と打ち合わせを行います。公証人は、国家公務員法上の公務員ではありませんが、国の公務である公証作用を担う実質的な公務員で、裁判官や検察官あるいは弁護士として法律実務に携わった者で、公募に応じたものの中から、法務大臣が任命しています(公証人法13条)。

通常、打ち合わせ時間は1時間程度です。なお、相談料は無料です。

STEP 6.文案ができあがる

打ち合わせに基づいて公証人が文案を作成します。文案はメールやファックスで届きます。文案の内容に加除訂正などあれば公証人に告げて修正してもらいます。最後に納得できる内容になったら文書は完成です。なお、文書ができあがったら公証役場から手数料が提示されます。内容や財産額によって手数料は異なりますが、一般的に10万円前後が多いようです。

STEP 7.遺言書を作成する

遺言者(遺言書を作る人)・公証人・証人2名の都合が都合を合わせて公証役場または遺言者の自宅や入院先に一同に会します。まず、公証人が遺言書を読み上げます。次に、公証人が読み終えたら、遺言者は読み上げられた内容でよいかを「はい、この内容のとおりです」など発言して意思表示をします。最後に、遺言者・公証人・証人2名の計4名が遺言書に署名・押印をして完成です。なお、遺言者は実印(印鑑登録された印)で押印しますが、証人は認印でもかまいません。

以上で公正証書遺言は完成です。4名が署名・押印した「正本」は公証役場に半永永久的に保存されます。遺言者には正本と謄本が渡されます。正本と謄本の法的効果は同じです。

遺言書のここに注意!

ここで注意したいのは、遺言者が死亡した後に遺言書が発見されなければ遺言の内容は実現しないということです。つまり、遺言書に書かれた内容は遺言者が死亡したて自動的に実現しないのです。したがって、正本か謄本のいずれかを遺言書で指定した遺言執行者に託しておくことを忘れないようにしましょう。

以上が公正証書遺言の作成の概要です。「面倒だな・・・」と感じた方もいるかもしれませんが、面倒な点は行政書士などの法律専門家に依頼することで軽減することができます。

ご参考になりましたでしょうか。「遺言書を作成してみたい」という方はぜひ実行してみてください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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