どっちが有効!? 「理不尽な遺産分け」それとも「発見された遺言書」
会社を辞めて介護に専念した長男
田中太郎さん(60歳)は、母 昭子さん(享年87歳)を3か月前に亡くしました。既に父親は亡くなっていたので、相続人は長男の太郎さん、二男の次郎さん(55歳)、長女の明美さん(53歳)の3人です。
昭子さんは、亡くなる2年前に階段から落ちて骨盤を骨折して体が不自由になってしましました。それ以来、太郎さんは献身的に介護をしました。しかし、昭子さんの症状は次第に重くなってしまし、ついに仕事との両立が難しくなってきました。太郎さんは「次郎は仕事が忙しくて実家に寄り付かないし、明美は夫の転勤で海外に暮らしているし・・・。自分は独身でなんとかなるから俺がお袋の介護をするしかないよな」と自分に言い聞かせて、断腸の思いで、続けたかった仕事を早期退職して介護に専念することにしました。
遺産分けを迫る二男
昭子さんが亡くなってから3か月が過ぎた頃、「明美が帰国しているんだ。次の日曜日にみんなで実家でお袋の遺産分けについて話し合いたいんだけど、兄さんの都合はどう?」と次郎さんから太郎さんに連絡が入りました。太郎さんは内心「めったに実家に来ないくせに、こういうときだけ積極的だな。しかし、いつまでもそのままにしておくことはできないし」と思い、次の日曜日に3人で遺産分けについて話し合うことになりました。太郎さんは「いいよ」と返事をすると「実印と印鑑証明書も持ってきてくれよ」と言って電話は切れてしまいました。
仕組まれていた遺産分け
約束の日時に実家に集まると、次郎さんは開口一番「3人で均等に分け合うということでいいよね。実家も売ってお金に換えようよ」と言えば、明美さんも「それがいいわ。法律上も3分の1ずつ権利があるしね」と賛成しました。どうやら2人の間で話は付いていたようです。太郎さんは「俺が会社まで辞めてお袋の介護をしたのに、あまりにも勝手じゃないか」と憤りましたが、本来争いごとが嫌いな太郎さんは、次郎さんが用意していた「遺産分割協議書」と書かれた書類に、署名して実印を押したのでした。
納得いかない長男
「3分の1ずつ遺産を相続する」という書類に署名押印したものの、太郎さんは「やはり納得できない」と日に日に不満が募ってくるようになりました。そして、ひょっとしたら母親が遺言書を残しているかもしれないと思うようになりました。なぜなら、昭子さんは晩年に「太郎に多く財産を残すようにしておくからね」と言ったことを思い出したからです。
しかし、実家をいくら探しても遺言書は見つかりません。諦めて実家から帰る途中に行政書士事務所の看板が目に入りました。「行政書士・・・。たしか、法律系の国家資格だよな。ダメもとで相談してみるか」と思い、電話をして相談の予約を入れました。
わずかな希望をかける
一通り話を聞いた行政書士は、「太郎さんは、お母様が遺言書を残されているかもしれないとお思いなのですね。遺言書は公証役場で作成する公正証書遺言と自分で書いて残す自筆証書遺言の2つあります。公正証書遺言の場合、遺言検索システムを利用すれば、お母様が公正証書遺言を残したかどうかを確認できます。そして、残していれば、遺言書の写し(謄本または正本)を取得することができます。自筆証書遺言は、遺言書保管法による遺言書を法務局に預ける制度を利用していれば自筆証書遺言の保管の有無を調べることができます。まずは、公正証書遺言の有無を調べてみましょうか」と太郎さんに提案しました。太郎さんはわずかな希望にかけてみることにしました。そして、行政書士が提示した委任状に署名押印をして依頼しました。
遺言書は見つかったが・・・
それから数日後、行政書士から電話が入りました。「太郎さん、実は、お母様は公正証書遺言を残されていました。全財産を太郎さんに残すという内容ですよ!」というではありませんか。太郎さんは、「しまった!この前、遺産分割協議書に『3等分にする』という内容の書類に署名押印してしまった。でも、お袋は俺に全財産を残すという遺言書を残してくれていた。一体これからどうなってしまうんだろう・・・」と不安に駆られてしまうのでした。
遺産分けの前に遺言書の有無を調査する
実際に、遺産分けの話し合いが付いたあとに、ひょっこり遺言書が出てくるという話はあります。そうなってしまうと、遺産分けの話し合い(遺産分割協議)の有効・無効の争いに発展するなど厄介なことになります。
もし、遺言書があるかもしれない場合は、遺産分けの話し合いをする前に、遺言検索システムの活用をするなど、遺言書の調査をすることをお勧めします。