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スライディングの新ルールが試合を終わらせ、それを生むきっかけとなった「被害者」は新天地へ

宇根夏樹ベースボール・ライター
ルーベン・テハダ(左)MARCH 10, 2016(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

3月20日、スライディングの新ルールが適用され、試合が終了した。ピッツバーグ・パイレーツがトロント・ブルージェイズに1点リードされて迎えた9回表。1死一、二塁からの遊撃ゴロで二塁に向かったアントーン・リチャードソンのスライディングが、審判にルール違反と判断され、併殺となった。スライディングを受けた二塁手はダーウィン・バーニー、打者はジェイソン・ロジャース、そして、投手は両投げのパット・ベンディットだった。この時、ベンディットは右で投げていた。

その前日には、ルーベン・テハダがセントルイス・カーディナルスと契約した。スライディングの新ルールは、昨年のディビジョン・シリーズでテハダがスライディングを受け、右足を骨折したことがきっかけとなって生まれた。ルールの内容については、前に「走者のスライディングに新ルール。本塁におけるブロッキングと同じようにビデオ判定も適用」で説明した。このルールは「チェイス・アトリー・ルール」「ルーベン・テハダ・ルール」「テハダ-アトリー・ルール」などと呼ばれることもある。

骨折した当時、テハダはニューヨーク・メッツにいて、今春もメッツのスプリング・トレーニングに参加していた。だが、メッツは3月半ばにテハダをウェーバーにかけ、獲得球団がないまま公示期間が終わったところで解雇した。

テハダは昨シーズン、遊撃手として65試合、三塁手として18試合、二塁手として11試合に先発出場した。メッツはこのオフ、FAとなって退団したダニエル・マーフィー(現ワシントン・ナショナルズ)に代わる正二塁手としてニール・ウォーカーを獲得しただけでなく、正遊撃手としてアズドゥルバル・カブレラと契約した。三塁にはキャプテンのデビッド・ライトがおり、彼らのバックアップにはウィルマー・フローレスが控えている。

一方、カーディナルスでは、正遊撃手のジョニー・ペラルタが3月上旬に左手親指の手術を受け、全治10~12週間となっていた。テハダと契約したのは、ジェド・ジョーコグレッグ・ガルシアらと併用して、ペラルタの穴を埋めるためだ。テハダの契約は1年150万ドル。ウェーバー公示中に獲得した場合の年俸は300万ドルだった。また、ニュージャージー・アドバンス・メディアのブレンダン・カーティによれば、テハダはカーディナルスと契約する前に、ニューヨーク・ヤンキースが申し出たマイナーリーグ契約を断ったらしい。

テハダがプレーするチームはメッツからカーディナルスに変わったが、アトリーのいるロサンゼルス・ドジャースと5月に対戦することは変わっていない。メッツは5月9~12日と27~29日、カーディナルスは5月13~15日(と7月22~24日)にドジャースと試合を行う。

2月半ばにニューヨーク・ポストのケビン・カーナンが報じた記事によると、テハダはアトリーから贈られた見舞いの品々を開封しておらず、「何も変わってない。彼とは話していない」と語り、さらに「(スライディングが)試合の一部だってことはわかっているけど、あれは違う。僕は他の内野手にあんなことは絶対しない」「彼から謝罪の言葉が聞きたい」などと続けたという。これらの言葉を信じるなら、怒りは解けていないものの、報復のスライディングを試みる気はないようだ。

もちろん、そうあってほしい。激しいプレーそのものを必ずしも否定するわけではないが、それによって選手が怪我をする姿は見たくない。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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