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森保ジャパン、W杯アジア最終予選は「死の組」か?EURO2024に見る危機感

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 6月27日、2026年W杯アジア最終予選の組み合わせが決まった。日本はオーストラリア、サウジアラビア、バーレーン、中国、インドネシアと同組になっている。

「死の組」

 そう落胆する声もある。たしかに、オセアニアや東南アジアの国が入り、日本からも欧州からも遠く、移動の面は厳しい。

 しかしグループの2位までが自動的に出場権を獲得できるだけに、日本にとって「難関」と言えないだろう。たとえ、3,4位になっても6チームでプレーオフに優勝で出場できるし、2番手でも大陸間プレーオフに回れる。これでも出場権を勝ち取れないなら…。

「W杯ベスト8」

 その目標を掲げる資格もない。

 世界標準で戦えるか――。そこに日本の課題はある。

欧州日本人選手の隆盛

 今年6月、2026年W杯アジア2次予選に挑んだ森保ジャパンは、最終予選進出を決めていた中、ミャンマー、シリアをそれぞれ5-0というスコアで一蹴している。敵地、本拠地だったが、場所は関係ない。大人と子供ほどの差があった。メンバーを大幅に入れ替え、フォーメーションも新たに試しながら、完膚なきまでに叩いている。

〈どう転んでも負けない〉

 そう言えるだけの実力差があった。

「新しい戦い方が通じるのか、それは強い相手とやらないとわからない」

 選手たちはそう口をそろえて言い、少しも満足しておらず、頼もしかった。

 それは、日本サッカーが”本格的に強くなった証”と言える。欧州のトップレベルでプレーする選手が多くなって、”世界はこんなものではない”という感覚を肌で知っている。今や、100人前後の日本人選手が海外でプレーする未曽有の時代だ。

 代表選手と所属クラブの関係は、隔世の感がある。

 久保建英は名門レアル・ソシエダでスペイン、ラ・リーガ史上、最も活躍した日本人であり、昨シーズンはCLベスト16に進出した。冨安健洋は強豪アーセナルで、2年連続プレミアリーグで最終節まで優勝を争っている。遠藤航はかつて欧州で覇権を取ったリバプールで定位置を奪い取り、守田英正はスポルティング・リスボンでポルトガルリーグ、カップの2冠達成に大きく貢献。南野拓実はモナコでフランス、リーグアンで2位躍進の立役者になり、伊藤洋輝はシュツットガルトでのプレーが高く評価され、バイエルン・ミュンヘン移籍が決定した。

 他にも、三笘薫のブライトン、鎌田大地のクリスタル・パレス、板倉滉のボルシアMG、堂安律のフライブルク、浅野拓磨のボーフム、伊東純也、中村敬斗のスタッド・ランス、前田大然、旗手怜央、古橋亨梧のセルティックなど欧州の主要クラブで活躍を遂げている。欧州日本人選手だけで代表を組める時代が到来した。

 振り返ると、大フィーバーだった2002年日韓W杯では、このレベルで活躍していた欧州日本人選手は、中田英寿(パルマ)、小野伸二(フェイエノールト)と二人だけだった。時代が進んで2014年南アフリカW杯でも、Jリーグと欧州組の選手の数はまだ半分半分だった。ここ20年、10年で、日本サッカーは大きく様変わりした。

 もっとも、成長しているのは日本サッカーだけではない。

欧州各国の強化

 現在、ドイツではEURO2024が開催されている。

 かつて欧州内で悪く言えば、かませ犬、草刈り場、よく言っても、アウトサイダーに過ぎなかった国々が、対戦を重ねることで確実に強化してきた。例えば弱小だったアルバニアは今回のEUROでスペイン、クロアチア、イタリアと堂々と渡り合っていた。ネーションズリーグの採用で、公式戦の形でリーグ昇格を争い、競争力が増しているのだ。

 1960年代から70年代にかけ、世界トップレベルを誇ったハンガリーは国家レベルの援助が受けられずに衰退していた。2018-19シーズンは3部に当たるⅭリーグだった。しかし対戦の中で着実に力をつけ、2022-23は1部に当たるAリーグに昇格し、イタリア、ドイツ、イングランドとしのぎを削り、Aリーグに残留(イングランドがBリーグへ降格)。今回のEUROでスコットランドを激戦の末に破るなど、最後まで勝ち上がりを争っていた。

 そして小国ジョージアは、EUROでベスト16進出を決めている。グループリーグ最終節にポルトガルを下し、ベスト8を懸けたスペイン戦も先制するなど大健闘。その戦いは彼らに自信を与え、強くするだろう。その波動は国全体、普及や育成にまで伝播していくはずだ。

 ジョージアの戦力が、日本に比肩するとは思えない。しかし、”何が起きてもおかしくはないレベル”と言える。ジョルジ・ママルダシュビリ、フビチャ・クヴァラツヘリアを擁し、成長は著しく、もしアジア予選を戦っていたら有力なW杯出場候補だ。

日本の地理的なハンデ

 翻って、日本はアジアという舞台で戦い、強化を続ける宿命を背負っている。W杯アジア最終予選は2次予選よりはマシだが、欧州予選の厳しさと比較した場合、物足りない相手ばかりだ。

 欧州だけでなく、南米も競争は熾烈を極める。北米や中南米も取り込んだコパ・アメリカでは、人生を懸けた戦いを演じ、勝負強さを鍛え続けている。技術や戦術ではEUROを下回るが、意外性やしたたかさや強度は上回る。彼らは自動的にフットボーラーとして強くなれるのだ。

 日本はどのように地理的ハンデを越えるべきか。

 一つは欧州、南米の大会に飛び入り参加できるように画策する。これは簡単ではないが、一考の余地はある。特にコパ・アメリカは過去に招待で参加している。

 あるいは、独自の大会を開催する。今の日程では不可能だが、例えば日本、韓国、イラン、オーストラリア、イラクを同時に2次予選を免除され、カタール、サウジアラビア、中国のように資金力のある国でトップリーグを開催。そこで優勝賞金を争いつつ、競争力を高める。例えば最低成績のチーム二つは格下げで、次のW杯はアジア2次予選から出場しなければいけない、など入れ替わりも確保する。

〈一部の国だけが特権を得る〉

 その批判は噴出するだろうが、アジアの弱小国同士で試合を積み重ねても、下に引っ張られるだけ。ミャンマー、シリア、北朝鮮と連戦連勝でも、W杯には何もつながらない。

 海外の代表を日本に招待する親善試合も、近隣の国と連携した大会形式にできないか。一回きりのフレンドリーマッチには限界がある。FIFAの括り、縛りはいろいろあるが、仕組みを変化させていかないと成長も停滞する。

 現状、日本人選手たち一人一人が欧州の最前線で勝負の感覚をつかんでいることは、何よりの朗報である。彼らは本当の「世界」を知っている。それが代表での強化が難しい中で、日本サッカーの軸にはなるだろう。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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