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「ユーリ!!!」「テンカウント」 続くアニメ映画の製作中止 背景を考察

河村鳴紘サブカル専門ライター
アニメ映画の製作中止を告知する「ユーリ!!!」の公式サイト

 人気アニメ「ユーリ!!!on ICE」の映画「ユーリ!!! on ICE 劇場版 : ICE ADOLESCENCE」の製作中止が発表され、アニメファンの間で話題となっています。1月にはアニメ映画「テンカウント」が製作中止を発表したばかり。なぜアニメ映画の製作中止が続いたのか。背景について考えてみます。

 「ユーリ!!!」が話題になっているのは、期待の作品だったからです。アイススケートを題材にした同作は、ストーリーはもちろんスケートの描写がすばらしく、2016年にテレビで放送されて人気を博しましたし、同作を手掛けた「MAPPA」は、他にも「チェンソーマン」や「呪術廻戦」などの実績があり、アニメ好きなら誰もが知るスタジオの一つです。「ユーリ!!!」は当初の公開(2019年)が延期になって5年が経過したこともあり、この残念な結末を予想していた人も少なくないでしょうが、それでも「なぜ?」となるでしょう。

 製作中止の理由は「諸般の事情」で、詳細は伏せられています。そこで、広い意味でアニメの製作が中止になる理由を考えてみましょう。関係者らに尋ねてみると、三つのポイントになります。

◇“損切り”も選択肢

 一つ目は、ビジネス面でのネックです。

 近年はアニメの製作費が高騰しており、今やテレビアニメ1話あたりの製作費は、以前の倍である3000万円を超えるのも普通で、それ以上のケースもあります。そしてアニメファンをうならせた作品ほど、クオリティーの高さが求められ、さらに人員の確保も大変……となるとそれはコストに跳ね返ります。とはいえ、予算の追加が通るか……というと、普通のビジネスでも同じで、厳しい話になるわけです。

 さらに時間の経過による環境の変化もあります。企画当初は良くとも、時間の経過とともに状況の悪化はありえるでしょう。採算の問題がありますし、映画であればスクリーン数の確保も結果(興収)に直結します。また、アニメスタジオは昨今のアニメ人気を受けて、制作に追われている実情もあります。そしてスポーツものであれば、現実のルールの変更の影響も無視できません。例えば、米大リーグで大谷翔平選手の活躍を受けて指名打者のルールが大きく変更されましたが、以前のルールのままでアニメを作れば、見た人は興ざめするわけです。

 ファンの視点からすると「発表した作品は完成させるべき」となるのは当然ですが、企業の視点からすると、自社の存続が第一で、赤字になろうともこれ以上の損を食い止めるための“損切り”も選択肢になります。シビアな判断は、企業の経営には不可欠なもの。同時にすべてのコンテンツをヒットさせることは不可能で、この手の決断はビジネスの“宿命”です。

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◇製作サイドが心を折られることも

 二つ目は、制作サイド内の不協和音です。特に原作ものは、原作サイドと、アニメ制作側の考えに溝が生まれて決裂してしまうことはあります。

 原作者が亡くなって社会問題になったドラマ「セクシー田中さん」では、制作サイドが原作者の意向に従ってないなどと批判を浴びました。その逆のパターンもあり、原作サイドの要求、急な変更、厳しい評価に対して、制作サイドのクリエーターたちが心を折られてしまうのです。ビジネスであれば折り合いをつけていくところですが、モノづくりには譲れないものがありますし、そうした衝突は避けられない一面があります。

 原作のないオリジナルであれば、原作サイドとの調整はありませんが、アニメは複数で作る以上、人間関係での摩擦はある話です。作品にクオリティーを求めるほど厳しくなりますし、納期や予算とのせめぎあいになります。クリエーターたちのSNSから、本音らしき他のクリエーターへの批判がもれて、ファンが察知してネットの俎上(そじょう)にのることがあります。アニメはファンに夢を与えるのですから気を付けるべきことですが、そうはいってもクリエーターも人間ですし、人間関係で悩むのは、誰もが同じ……というわけです。

 また人間である以上、より高い報酬、やりがいを求めての移籍や独立もありえる話で、その影響も無視できません。できる人材に仕事の依頼が殺到するのは世の常です。このあたりも普通の企業と同じですね。

◇トラブルのニュースは「氷山の一角」

 三つ目は、トラブル関連です。2021年にはアニメ「東京BABYLON 2021」の製作中止が発表され、その理由に盗用が挙げられました。その後は制作内で訴訟になるニュースもありました。他にも、関係者の差別的な書き込みが明るみに出た後での製作中止発表、アニメの製作会社が出演者にDVD販売のノルマを課したことも報じられました。

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 そしてこれらのニュースは、ある意味「氷山の一角」です。発表前の企画時点でそうしたたぐいの問題が判明した場合は(当然)見送りになり、表にでません。取材をしていけば、いろいろ聞こえてくる話でして、私の知る限りでは、権利関係の不備、恩讐もありました。もちろん他の理由もあるでしょうし、複合することもあります。

◇発表されたコンテンツは「エリート」

 アニメに限らず、コンテンツ企画は、日の目を見ない作品がたくさんあります。それゆえに、発表できたコンテンツは、企画を勝ち抜いたある種の「エリート」であり、基本的に先々の見通しが立っているもの。それがダメになるというのは、よくよくのことなのです。最も苦しんでいるのは、ファンというより、コストを投じて勝負をした制作サイドです。

 さらに難しいのは、中止の理由について詳細に明かすことが、誰の幸せにもならないことが往々にしてあること。ネットでは分かっている情報だけで推測をして“犯人探し”になりやすく、無関係の人に飛び火することもあります。仮に「違う」「無関係」といっても、最も刺激的な話が広がりやすく、正論ほど耳を傾けられることは難しいのは皆さんがご承知の通りです。

 そのためリスク回避の観点から考えれば、「諸般の事情」や「製作上の都合」にならざるを得ないのです。しかし「ユーリ!!!」にしても「テンカウント」にしても詳細な理由はなくとも、発表の変遷を見ると、制作側の苦悩を感じるのではないでしょうか。

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 なお中止の発表をしたことについて「両作品が中止をきちんと発表したこと自体はよかったと思う。発表した後で、うやむやになっているような作品もある」と指摘する関係者もいました。失敗したときこそ、真価が問われるわけですし、「けじめ」として一定の評価をする声もありました。

 アニメの人気が世界的に高まっているとされる一方で、資金調達能力や環境などを考えると、まだまだ苦労は多いのです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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