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ネイマール移籍騒動の決着は。メッシの2番手に甘んじてきたブラジル代表エースの葛藤。

森田泰史スポーツライター
プレースキックでもメッシとネイマールは分け合う形で担当(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

喧騒は鎮まるところを知らず、法的措置が取られる可能性も浮上した。それでもネイマールのパリ・サンジェルマン移籍は刻一刻と近づいている。

バルセロナは当初、ネイマールの移籍話を気にも留めていなかった。ジョルディ・メストレ副会長は「200%」残留すると明言し、ロベルト・フェルナンデスSD(スポーツディレクター)は「契約解除金を支払うクラブが存在するはずない」と移籍の可能性を完全に否定していた。

しかし、あの「200%残留」宣言から、およそ2週間で状況は一変している。ネイマールの移籍は時間の問題。選手も、ファンも、メディアもブラジル代表FWのパリ行きを受け入れ始めている。

■ネイマールの沈黙の意味

この間、ネイマールはずっと沈黙を貫いてきた。移籍も残留も宣言せず、主将のアンドレス・イニエスタは公式会見で「彼の説明が唯一の解決策になる」とネイマール自身の言葉を求めた。

だがネイマールの沈黙には、理由があったようだ。ネイマールは昨年10月にバルサと2021年まで契約を延長。その際、ある時期までに2600万ユーロ(約33億円)のボーナスを受け取ることが条項に含まれていたとされる。その支払期限が、7月31日だったというのだ。

ネイマールは口を閉ざし、代理人を務める彼の父親もそれは同様だった。ファンの疑念は膨れ、メディアではネイマールの移籍オペレーションに投じられるであろう数字が踊った。

契約解除金2億2200万ユーロ(約286億円)の支払いの行方は、今もって明確になっていない。バルサはファイナンシャルフェアプレー(FFP)に違反するのであれば、パリSGを訴える考えだ。パリSGはFFPの「抜け道」を模索し続けている。

パリSGがFFPに抵触する形でネイマールを獲得して、その後バルサに訴えられれば、チャンピオンズリーグの出場権を剥奪される可能性もある。欧州制覇を最大の目標に掲げているパリSGにとって、これは大きな痛手となるはずだが、それでも彼らのネイマール獲得の意思は揺らいでいない。

■大物選手へのオファーは絶えない

現役時代のマラドーナ、リバウド、ロマーリオらの代理人を務めた、ジョゼップ・マリア・ミンゲージャは最近『ムンド・デポルティボ』のコラムで回想している。彼は1998年にリオネル・メッシの入団を理事会に推薦した人物としても知られている。

リバウドがバルサに在籍していた頃、イスラエル人のベテラン代理人ピニ・サハビがマンチェスター・ユナイテッドへの移籍話を持ち掛けた。だがミンゲージャ氏はそのオファーに断りを入れ、リバウドをバルサに残留させた。

時は流れ、ジョアン・ラポルタ氏は会長選に立候補した2003年にデイビッド・ベッカムの獲得を公約に掲げた。ピニ代理人が、この移籍にも一枚噛んでいる。ユナイテッドがベッカムの移籍を容認していると、バルサに伝えたのがピニ代理人だったのだ。

だが結局、ベッカムはレアル・マドリー移籍を選択。ラポルタ氏は代わりにロナウジーニョを引き入れ、会長選で当選した。そのピニ代理人が、今回のネイマールの移籍にも絡んでいるとミンゲージャ氏が明かしている。

■「メッシの後継者」とブラジル代表エースの葛藤

奇しくも、2000年にルイス・フィーゴがレアル・マドリーへと移籍して、リバウドは背番号を「11」から「10」に代えてバルサのエースとなった。だがネイマールがバルサの10番を背負うことは、極めて困難である。

ベッカム獲得レースには敗れたバルサだが、過去を遡ればマドリーと争奪戦を繰り広げた選手は数多く存在する。ネイマールも、その一人だ。だがブラジルの至宝をめぐっては、高い代償を払う羽目になった。サンドロ・ロセイ前会長、ジョゼップ・マリア・バルトメウ会長、バルサとサントスに出廷が求められる裁判沙汰に発展した事態は、未だ解決を見ていない。

バルサがネイマールをメッシの後継者と目していたのは間違いないだろう。2014年夏に加入したルイス・スアレスを含めた「MSN」は世界中の強豪を震え上がらせ、2014-15シーズンにはチャンピオンズリーグ優勝、リーガエスパニョーラ制覇、コパ・デル・レイ優勝の3冠を達成している。

一方で、ネイマールは目に見えない不満を溜め込んでいった。2016年には、メッシ、クリスティアーノ・ロナウドと共にFIFAバロンドール(現バロンドール)の最終候補3名に選出された。バルサに移籍していなければ、この名誉に与ることは難しかったに違いない。

だがバルサにいる限り、絶対的な主役はメッシであり続ける。昨季、チャンピオンズリーグ決勝トーナメント一回戦でパリSG相手の奇跡の逆転劇の立役者となっても、その評価を簡単に覆すことなどできなかった。

契約解除金2億2200万ユーロ、年俸3000万ユーロの5年契約、1億ユーロのボーナス。パリSGは総額4億7000万ユーロ(約606億円)という破格の待遇でネイマールを迎えようとしている。期待されるのは、クラブを初のチャンピオンズリーグ制覇に導くことだ。

パリSGでのチャンピオンズリーグ制覇、あるいはブラジル代表でのワールドカップ優勝。ネイマールはメッシを超えるために、エースとしてのビッグタイトル獲得を望んでいるのかもしれない。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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