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大阪桐蔭負けてよかった? 春夏連覇へ負けからのスタート!

森本栄浩毎日放送アナウンサー
大阪桐蔭の連勝がついに止まった。夏に向け、新たなスタートを切る(筆者撮影)

 やはり大阪桐蔭の敵は近畿にいた。春の近畿大会で近江(滋賀)、智弁和歌山との連戦は正念場とみていたが、ライバルの執念に屈し、秋からの公式戦連勝は「29」でストップした。

万全・山田と大阪桐蔭が真っ向勝負

 土曜日の近江との準決勝は、センバツ決勝の再戦。甲子園では17-1の大差で大阪桐蔭が勝っていたが、近江には昨夏の甲子園2回戦で敗れている。大阪桐蔭が公式戦で最後に敗れた相手であり、センバツでは近江のエース・山田陽翔(3年=主将)が、4試合完投の上、前日に受けた死球の影響から、完調にはほど遠い状態だった。万全の山田と大阪桐蔭の真っ向勝負が試合の焦点で、1勝1敗の決着戦は期待通りの熱戦となった。

山田がアクシデントで緊急降板

 山田は立ち上がりからエンジン全開で、自己最速を更新する149キロをマークするなど、大阪桐蔭打線を抑え込む。味方の援護もあり、2-1と近江リードで試合は後半に入った。終盤の1点勝負かと思われたが、6回のマウンドで山田にアクシデントが発生。ピンチの場面で右太ももの裏を痛めて緊急降板した。代わった星野世那(3年)は同点で食い止めたが、8回に4番・丸山一喜(3年)に2ランを浴び、初めて大阪桐蔭にリードを許した。

「差は縮まった」近江監督

 試合は9回に近江投手陣を打ち崩した大阪桐蔭が一挙7得点し、11-2の大差で連勝を「29」に伸ばした。近江は敗れたが、山田が万全なら、ある程度は通用することがハッキリしたし、2番手の星野にもメドが立った。多賀章仁監督(62)も「(センバツより)差は縮まった」と手応えを感じていた。山田のケガはやや心配ではあるが、精神的ダメージは全くない。近江は昨年もこの時期に急成長し、夏の甲子園4強入りを果たした。今年も本番に向けて、チームとしてのレベルアップがかなえば、かなりの活躍が期待できる。

前田登板からもわかる「本気度」

 大阪桐蔭は、同点の7回に、エース・前田悠伍(2年)をマウンドに送ったことからも、西谷浩一監督(52)の「本気度」が伝わってきた。しかしこれが、翌日の智弁和歌山との決勝で、微妙に影を落とすことになる。前田は2回、わずか33球だったが、連投のマウンドの立ち上がりに落とし穴が待っていたのだ。西谷監督は前田を評して「先発も救援もいける」と、その万能ぶりを認めている。前チームのエースだった左腕・松浦慶斗(日本ハム)は前田よりも球威はあったが、立ち上がりに難があり、救援には向いていなかった。

連投の前田が初回に3失点

 西谷監督は、前チームでは考えられないような起用法で「30連勝」を前田に託したが、やはり連投がこたえたか、得意なはずの立ち上がりに乱れた。初回に先頭打者本塁打を浴びて、いきなりリズムが狂う。さらに2死を奪ったあと満塁とされ、遊ゴロ失策で3点のビハインドを背負うことになった。前日と同じ、追いかける展開だ。近江戦では打線が終盤に底力を発揮して振り切ったが、智弁和歌山の「奇襲」とも言える小刻みな投手起用に的を絞り切れず、打線が分断された。初回の3点が重くのしかかる。

目先変える継投でリード守る智弁和歌山

 中谷仁監督(43)も人一倍、「打倒!大阪桐蔭」に燃えていた。昨夏の甲子園では頂点に立ったが、直前の近畿大会では準決勝で2-3のサヨナラ負けを喫していた。正攻法ならダブルエースの塩路柊季武元一輝(ともに3年)の起用が順当な線だが、県大会決勝で見せたような継投策で、目先を変える作戦に出た。先発の左腕・吉川泰地(2年)は3回で2失点したが、右の西野宙(3年)、左の橋本直汰(3年)がそれぞれ1回を無失点で切り抜け、リードを守った。このあたりは、紀三井寺開催という「地の利」もある。

大阪桐蔭を倒すヒントも?

 そして6回、満を持して最速148キロ右腕の武元が登場。4回を散発3安打に抑え、昨春と同じ3-2のスコアで大阪桐蔭にリベンジした。やはり屈指の強豪との連戦は正念場だった。2試合のトータルで、最後に力尽きたという見方が正しいように思う。大阪桐蔭は、昨夏、近江に敗れた試合と同じように、球威のある救援投手に力負けした。これは、大阪桐蔭と戦う上でのヒントになる。ただし前田は、2回以降、智弁和歌山打線を抑え、3失点(自責1)の完投はさすがだった。下級生とはいえ、前田が夏も投手陣の軸になるのは間違いない。

負けていないことが不思議だったチーム

 試合後、西谷監督は「負けて学ぶこともある」と話したが、負けからのスタートは、センバツ優勝の際にも強調していた。今ごろは夏のチームスタート時を思い返していることだろう。取材した同僚記者によると、主将の星子天真(3年)が泣きそうな顔をして悔しがっていたそうだが、長い間、相当なプレッシャーがあったはずだ。この日は無安打で、責任を背負い込んでいたかもしれない。しかし、甲子園で負けたわけではない。これが救いだし、一番、肝心な部分だ。センバツ前から常に「連勝」という十字架を背負わされてきたが、それもなくなる。そもそも秋の段階で、西谷監督が「(前チームより)力はない」と話していたし、星子もことあるごとに「力がないことはわかっている」と言っていたチーム。むしろ負けていないことの方が不思議なくらいだった。

「負けて学ぶこと」とは?

 今回の収穫は、「どうなれば、どうしたら負けるか」を体感できたことだろう。軽々に、負けてよかったとは言えないかもしれないが、負ける経験をできたことは、これからの苦しい場面で必ず生かされるはずだ。戦術面や技術面での力不足だけではない。追い詰められた場面での精神状態は、勝ち続けていれば経験できないからだ。これが西谷監督の言う「負けて学ぶこと」なのだろう。

甲子園でも近畿勢が大敵か?

 甲子園に直結しない近畿大会がこれだけ盛り上がるのも、大阪桐蔭という大目標が存在するからこそ。近江も智弁和歌山も、本気で倒しにいったし、大阪桐蔭も必死で勝ちにいった。近畿のレベルが高い要因はここにある。本番の甲子園でも、大阪桐蔭を倒すとすれば、やはり近畿勢になるだろう。改めて、その意を強くした次第だ。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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