子どもたちに野球を―「京都スポーツの殿堂」に輝いた中日ドラゴンズ・波留敏夫コーチの取り組み
■「野球の競技人口」の低下に対する危機感
まもなく日本プロ野球が開幕する。野球ファンにとっては待ち遠しいこと、この上ないだろう。各球場で観戦チケットの販売も始まり、スケジュール帳とにらめっこして観戦予定を立てていると、胸が高鳴ってくるに違いない。
「野球人口の低下」が叫ばれて久しい。が、「野球の観戦人口」は伸びている。低下しているのは「野球の競技人口」だ。
「このままじゃ野球が衰退してしまう。日本の野球がもっと繁栄していかないと」。口を開けば常に野球の競技人口低下を憂う言葉を発する。子どもたちに野球のおもしろさを伝えたい、野球離れを食い止めたいー。日々、そういう思いを抱いている。中日ドラゴンズの波留敏夫打撃コーチである。
■「平成30年度 京都スポーツの殿堂」
そんな波留コーチが生まれ故郷の京都にて、「平成30年度 京都スポーツの殿堂」に選ばれた。京都市は、スポーツに対する市民の関心を高め、競技力の向上および市民スポーツの振興などに顕著な業績のあった人物を、毎年表彰している。
波留コーチは京都ゆかりのトップアスリートとして、元ラグビー選手の大畑大介氏、フィギュアスケート指導者の濱田美栄氏とともに受賞した。
「プロ野球では4人目(過去に吉田義男氏、衣笠祥雄氏、桧山進次郎氏)で、そうそうたるメンバーの中、光栄に思う」。そう言って波留コーチは微笑んだ。
京都市山科区出身の波留コーチは大宅小学校、勧修中学校、大谷高校を卒業後、熊谷組を経て1993年のドラフト会議で横浜ベイスターズ(現 横浜DeNAベイスターズ)を逆指名し、2位で入団。アグレッシブなプレースタイルで活躍、1998年のリーグ優勝、日本一に大きく貢献した。
中日ドラゴンズ、千葉ロッテマリーンズに移籍し、2004年に現役を引退。2006年からベイスターズで、2014年からはドラゴンズで指導者として後進の育成に尽力している。
■「アスリートワールド学童野球教室」は13回目
波留コーチの活動はプロ野球界にとどまらない。「野球をやる子がどんどん少なくなってきている」と憂慮し、子どもたちへの野球普及に努めている。
毎年12月、同じく京都出身の桧山進次郎氏(元 阪神タイガース)とともに「アスリートワールド学童野球教室」をわかさスタジアム京都で開催している。
彼らの人脈で20人を超える現役、OBの選手たちが駆けつけ、600人ほどの小学生たちと触れ合う。中日ドラゴンズの与田剛監督、阿波野秀幸コーチ、大野雄大投手、福岡ソフトバンクホークスの的山哲也コーチ、東北楽天ゴールデンイーグルスの藤田一也選手、福山博之投手、岡島豪郎選手、広島東洋カープの倉義和コーチ、赤松真人選手、また京都出身でメジャー経験者である岡島秀樹投手ら多士済々なメンバーに、子どもたちも興奮が隠しきれない。
回を重ねて昨年は、第13回を開催した。「この度の受賞は、選手としてというより、辞めたあとの活動を認めてもらえたということで、すごく嬉しい」と目を細める波留コーチ。「野球をやる子どもが減ってきて、サッカーは増えている。野球をやる子が一人でも二人でも増えてくれればと願っているし、それは僕だけじゃなくて、野球人みんなの願い」と語気を強める。
そもそもは知り合いのチームから「野球教室をやってほしい」と頼まれ、単独チームに対して指導をしたのが始まりだった。そこから毎年、小さい規模での野球教室を続けてきたが、「やるなら大きくしよか」と2005年、桧山氏と組んで大々的に開催することになった。
京都ゆかりの選手たちに声をかけ、「アスリートワールド学童野球教室」の名称を掲げ、大勢の子どもたちを集めてオフの恒例行事にした。
「教えるというより触れ合うことを大事にしている。ほんまに教えるっていうのは、短い時間ではなかなかできない。それより実際のプロ野球選手の体やスイングを見て大きいな、すごいなとか、プロ野球選手に声かけてもらって嬉しかったとか、そういう時間を共有したいと思っている」。
波留コーチや関係者にとって、発足時からある願いがあった。それはこの「アスリートワールド学童野球教室」からプロ野球選手が誕生することだ。そしてとうとう、その悲願を達成した。東北楽天ゴールデンイーグルスの石原彪選手は第2回に参加していたのだ。
「プロ野球選手が出たというのは、やってて一番嬉しかったこと。目に見える成果やから。今後もどんどん出てくれたらいいなと思う」と、うなずく。
■「軟式学童野球大会 波留カップ」は第6回
さらに波留コーチにはもう一つの活動がある。「波留カップ」という自身の名前を冠した軟式学童野球大会を開催している。こちらは6回を数える。
勝ち進めば準決勝、決勝をわかさスタジアム京都で行う。「この球場を使わせてもらえるのは、少年野球ではなかなかない。非常に光栄なこと。ほかの大会でもやってないことやから」と胸を張る。
年々認知度が高まり、参加チーム数がどんどん増えて約50チームにも上る。強豪チームも多く、レベルの高い大会だ。
こうして積極的に子どもたちと関わることで「あの子、どうしてるの?とか気になるし、今はどこどこで活躍してるよとか、そういう少しずつ成長している話を聞くと、ほんまに嬉しいね」と、かわいい“我が子”は増える一方だ。それがまた、波留コーチの励みにもなっている。
■子どもたちに野球を―
「でもね、僕ひとりだけの力じゃないから。協力してくれる人、携わってくれてる人、サポートしてくれる人がたくさんいて、その中の代表が僕なだけ。こうして京都市から貢献を認めてもらえたのも、みんながいたから。代表として、光栄に思っている」。そうしみじみと語る波留コーチ。
「僕は選手としてはたいした成績も残してないし、現役をやった期間も長くない。でもこうして野球界に貢献できているのは、みなさんの支えのおかげ。本当に感謝している」。
野球を楽しむ子どもがひとりでも多く誕生するように―。今後も野球界の発展、振興に尽力していく。
(撮影はすべて筆者)
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