9割が「体調が悪くても給食を頑張って全部食べる」のは大人が心身の健康を壊して働く姿を表してはいないか
学校給食における食品ロス。
環境省事業報告会での、お茶の水女子大学大学院、赤松利恵教授の、行動科学に基づいた指針は、興味深かった。
「もったいない気持ちを高めても食べ残しは減らない」学校給食で子どもが苦手な食べ物を無理なく食べる秘訣に書いたように、「もったいない」という気持ちを子どもたちに強調しても、食べ残しが減るわけではない、ということだ。
赤松先生曰く、行動変容のためには、(残してはいけないという)「重要性」だけを高めてはダメで、子どもたちの「自信」を高めないと、行動変容には結びつかないとのことだ。
体調が悪い時に給食を頑張って全部食べる子が9割近く
衝撃的だったのは、小学校5・6年生132名を対象にした調査で、体調が悪い時に学校給食をどうするか?という問いに対し、9割近くの子が「頑張って全部食べる」と答えていた結果だ。
体調が悪い時は「無理して全部食べる」でもなく「残す」でもなく「前もって少なめによそう」
少し前に、食品ロスを考えて学校給食を無理に食べさせる強要はおかしい、ということが話題になった。子どもがトラウマになってしまう可能性もある、というのだ。
一方、「残せばいい」との主張もあった。
筆者は、子どもたちはなぜ学校給食を残すのか?「残すな」「残せ」より、なぜ残すのか裏側を見る必要があるのでは?で書いた通り、「残すな」も「残せ」も違和感があった。
体調が悪い時に、残さないように無理する必要もない。
また、多めに盛ってもらっておいてから残すのも、もったいない。
最初の時点で「配膳時に、自分の体調に合わせた適量(少なめに)よそってもらう」のが、無理なく、一番いいのではないだろうか。
赤松先生の調査の質問項目でも、「配ってもらうときに、少なめによそってもらう」というのがあった。
詳しい結果は、学術誌の『学校保健研究』(2012, 53: 490-492)に、タイトル「実践力を高める食育 : 小学校における給食の食べ残しについて (特集 学校園における食育推進 : 子どもたちの真に豊かな食生活をめざして)」(Nutrition Education for Strengthening Practical Skills : School-Lunch Food Waste in Elementary Schools)として掲載されている(著者:安部景奈、赤松利恵)。
大人が「体調が悪くても頑張って無理して仕事する」ことの縮図になっていないか
少し背筋が寒くなったのは、子どもたちのこの結果は、大人が「体調が悪くても、無理して頑張って仕事に出る」ことの縮図のように思えたことだ。
子どもは大人の鏡。
前述の調査結果は、大人が、心身の健康を壊してでも働いている姿を彷彿とさせた。
本当は、体調がすぐれない時に必要なのは、「無理して働く」ではなく、「体調に合わせて働く」ことで、それが許される職場環境なのではないだろうか。
雇用されている側から言えればもちろんいいが、雇用されている側は、経営者に比べて弱い立場にある。だからこそ、優越的立場にある経営者は、労働者が体調に合わせて働きやすい環境や仕組みを作ってあげる責任があるのではないだろうか。たとえばフレックスタイム制、など。
赤松先生は、小学校高学年までには「自分の身体の状態を考え、食べる量を調整できるスキル」を身につけられるとよく、それは生涯を通じて必要なスキルだとおっしゃっていた。
はたして、子どもの鏡である大人が、食べる量や働く時間を調整することを、日々実践できているかどうか。
食べる量や働く時間をきちんと調整することは、自分自身の持続可能性を保つこと、でもあるのだ。
「持続可能な開発目標(SDGs:エスディージーズ) 」は、世界中、すべての組織に課された2030年までの目標でもある。