「もったいない気持ちを高めても食べ残しは減らない」学校給食で子どもが苦手な食べ物を無理なく食べる秘訣

お茶の水女子大学大学院教授 基幹研究院 自然科学系 赤松利恵先生(筆者撮影)

環境省の事業である、平成30年度学校給食の実施に伴い発生する廃棄物の3R促進モデル事業が実施され、その報告会「食べ残し削減と子どもの食育」が開催された。

学校給食の分野でも、食品ロスは課題となっている。これをいかに少なくするか。毎年、環境省が立候補の自治体を募り、助成事業が行われている。

平成29年度の報告会も学びが多いものだったので、今年度もぜひと思い、参加した。

「もったいない」を強調しても子どもの行動変容には結びつかない

お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系の赤松利恵教授の講義は、なるほど、と目が開かれるような内容だった。

食べ残しは「もったいない」ということを強調しても、子どもが食べ残さなくなるような「行動変容」には結びつかない、という。

子どもたちが、苦手な食べ物を食べられるようになるには、2つポイントがある。

1つは自信を高めること。どんな小さなことでもいいから成功体験を持つこと。

もう1つは、重要性を高めること。残さずに食べると、自分にとって「いいこと」がある、と知ること。たとえば、体が大きくなる、風邪をひかなくなる、作ってくれた人が喜ぶ、など。

行動科学に基づいた食育紙芝居「にがてなたべものにチャレンジ!!」(健学社)

この「自信を高める」ことと、「重要性を高める」ことの2つに注目し、赤松先生の監修のもと、赤松先生の研究室(栄養教育学研究室)で制作されたのが、食育紙芝居「にがてなたべものにチャレンジ!!」(健学社)だ。行動科学に基づき、設計されている。

食育紙芝居「にがてなたべものにチャレンジ!!」(健学社)(筆者撮影)
食育紙芝居「にがてなたべものにチャレンジ!!」(健学社)(筆者撮影)

これは、1日に、たった4枚の紙芝居で、月曜から金曜までの5日間でできる流れになっている。学校では、給食の時間にできる。

主人公は、お茶太郎くん。

毎日、お茶太郎くんの苦手な食べ物が学校給食で出てくる。お茶太郎くんは、ある日には他のものと一緒に食べることで、苦手なものを食べきることができる。また違う日には、美味しいと思い込んで、食べる。

そうやって、毎日繰り返していくと、小さな成功体験が積み上げられているので、5日目には、もう何の工夫をしなくても、苦手な食べ物が食べられた!という流れだ。

お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系の赤松利恵教授(筆者撮影)
お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系の赤松利恵教授(筆者撮影)

バンデューラ先生による、子どもの自信を高める教育の3つのポイントとは?

赤松先生は、社会的認知理論を提唱したバンデューラ(Bandura)先生の理論について紹介された。

バンデューラ先生によれば、子どもの自信を高める教育にはいくつかポイントがある。3つ挙げると、

1つが成功体験を持つこと。苦手なものが1回食べられたというのも小さな成功体験。

2つめが、すでにやっている人の観察や、真似をすること。モデリングという手法。

3つめが、周りの人から「できるよ、絶対できる、大丈夫」と自己暗示をかけること。専門用語では「言語的説得」と呼ばれる。

お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系の赤松利恵教授(筆者撮影)
お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系の赤松利恵教授(筆者撮影)

体調が悪い時でも頑張って給食を食べる子が90%近くも!!

これは大人の行動にも言えるのでは、と思ったのが、「体調が悪い時、頑張って給食を食べる」という子が90%近くもいる、ということだ。

(小学校5・6年生132名対象、学校保健研究, 2012; 53:490-492)

赤松先生は、生涯を通じて必要なのは「自分の身体の状態を考え、食べる量を調整するというスキル」だと強調された。これは、小学校高学年までに身に付けたい、と。このままいくと、「もったいないから食べる」メタボになってしまう。

給食時間の担任の取り組みが多いほど残菜率は低く、学校栄養士と連携している担任のクラスほど残菜率は少ない

赤松先生は、他にも、給食時間の担任の取り組み項目数が多いほど、学校給食の残菜率が低いというデータを示した。

取り組みとしては、たとえば「配膳時に、個人が完食できる量を配膳した」「食缶に残っているものを配って回った」など11項目である。

担任の先生が、学校栄養士と連携があるクラスほど、残菜率が低いというデータも示された。

担任の先生が、給食指導で参考にしている内容としては「自分自身が家庭で受けた教育」というのが圧倒的に多く、1位だった。

喫食時間が短いほど残菜率が高く、給食の美味しさだけでなく量も重要

学校給食では、しばしば、喫食時間の短さが議論となる。

赤松先生の調査結果でも、残菜率が高いクラスほど喫食時間が短い傾向にあった。特に中学校33校130クラスを調べたところ、明らかな差が出ている結果となった。

多くの学校では、給食が終わってから休み時間を取っている。だから、給食もそこそこに遊びに行ってしまう生徒もいる。

米国の研究結果によれば、休み時間を給食の前に持ってきたところ、残菜量が減った、という結果も出た("Food waste is reduced when elementary-school children have recess before lunch", Getlinger et al(1996), J Am Diet Assoc, 96, 906-907)。

お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系の赤松利恵教授(筆者撮影)
お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系の赤松利恵教授(筆者撮影)

赤松先生は、給食を残さず食べるためには、味の美味しさも重要だが、量が多過ぎない、適切な量であることも大切であるとお話された。

静岡県藤枝市「ふじえだっ子 食べ物を大事に ”いただきました!”モデル事業」

モデル事業を実施した1つめの、静岡県藤枝市からは、たくさんの教材を駆使しての食育授業が紹介された。

たとえば、給食を作る様子や、生産者・栄養教諭の思いを描いた動画教材。それを観てから、「わかったこと」と「これからどうしたらいいか」について発表する。

あるいは、食品ロスを学べる「クリアファイル」を、市内小学校5年生と中学校1年生に配布。

他にも、給食時に使える「食べきりマット」や、日記形式の「いただきました!チャレンジ」など。

藤枝市は、ABCクッキングスタジオと連携し、「家庭でもできる学校給食新メニュー」を開発し、レシピを公表したり、サツマイモ収穫体験や味噌作りなどを行ったりしている。

その結果、残食率は減少し、5年生は食品ロスについて9割以上が「わかった」と回答、モデル事業後も7割の生徒が食べ物を残さず食べる努力をしている。

静岡県藤枝市立大洲小学校栄養教諭の佐藤玲子氏、後ろは藤枝市環境水道部環境政策課もったいない運動推進担当 主幹兼係長の花澤澄子氏(筆者撮影)
静岡県藤枝市立大洲小学校栄養教諭の佐藤玲子氏、後ろは藤枝市環境水道部環境政策課もったいない運動推進担当 主幹兼係長の花澤澄子氏(筆者撮影)

北海道十勝 音更(おとふけ)町 「おとふけ学校給食フードリサイクルプロジェクト」

人口44,564人(平成31年1月末現在)の北海道、音更(おとふけ)町では、以前から連携しているJAとのプログラムで、給食の調理残渣や食べ残しを、JAおとふけのバイオガスプラントに提供し、液肥や発電に活用するというリサイクルを実施した。

また、その液肥を使って、小学校2・3年生が、トウモロコシやニンジンなどの農産物を栽培する授業も行なった。

マグネット教材を使っての授業や、動画も利用した。

その結果、2年生では残食量が実施前と同程度だった一方、3年生では残食量が5.7kg/日から4.7kg/日へと減少した。

音更町教育委員会教育部学校教育課学校教育係主任の横井大祐氏、右は音更町立音更小学校栄養教授の森谷喜恵子氏(筆者撮影)
音更町教育委員会教育部学校教育課学校教育係主任の横井大祐氏、右は音更町立音更小学校栄養教授の森谷喜恵子氏(筆者撮影)

パネルディスカッション「食育・環境教育を始める工夫とは?データ活用のメリット・課題とは?」

赤松先生の基調講演、2つの自治体の発表の後、後半では、パネルディスカッションが開催された。

パネルディスカッション(筆者撮影)
パネルディスカッション(筆者撮影)

赤松先生からは、両自治体とも、保護者を巻き込んでいるところが特徴的である、とのコメントがあった。学校でやっていることを保護者にも発信し、家庭へも影響を及ぼすという仕組みは、「エコロジカルモデル」で言うところの「周りの環境に働きかけた」例だと言えるとのこと。

発表する藤枝市の花澤氏(筆者撮影)
発表する藤枝市の花澤氏(筆者撮影)

子どもを取り巻く環境として、担任の先生の関わりが重要なので、今回の検証の対象者として担任の先生を入れると良いとのアドバイスがあった。

10歳が、認知的発達において境目になるので、音更町の対象学年として、2年生は少し早いのでは、という指摘もあった。音更町ではJAとのプログラムが以前からあり、2年生がトウモロコシ、3年生がニンジンというプログラムだったため、そのような実施内容となった。

また藤枝市では、ごみについて習う小学校4年生ではなく、5年生が対象に入っていた。これは、5年生から家庭科を習うのが背景にあるとのこと。

環境省再生・資源環境局総務課リサイクル推進室主査の和田直樹氏(左)と司会進行を務めた三菱UFJリサーチ&コンサルティングの松岡夏子氏(右)(筆者撮影)
環境省再生・資源環境局総務課リサイクル推進室主査の和田直樹氏(左)と司会進行を務めた三菱UFJリサーチ&コンサルティングの松岡夏子氏(右)(筆者撮影)

子どもたちに食べきりを強要してトラウマにさせないために

司会者の松岡氏から、食品ロス削減の取り組みが、ともすれば、子どもへの食べきり強要になっているとの指摘があった。そうならないように、2つの自治体ではどのような工夫をしたのか。

藤枝市では、「食べきり」という言葉自体が、強要の感じに聞こえるので、「いただきました」というプロジェクト名にした、との答えがあった。藤枝市では、食べ終わったとき、「ごちそうさまでした」の代わりに「いただきました」とあいさつする場合が多いとのこと。

発表する音更町の森谷氏(筆者撮影)
発表する音更町の森谷氏(筆者撮影)

音更町では、食べきりを強要するような先生はいなかったとのこと。それよりは、子どもたちが栽培したトウモロコシやニンジンを使った給食の日に、栄養教諭から「今日は出るね。みんなが食べてくれるね!」というお話をしたとのことだった。

取材を終えて

この事業を毎年続けていくのは有意義だと、改めて感じた。環境省によれば、これまで同事業では4年間実施してきた蓄積があるとのこと。長野県松本市の、環境教育の有無による給食残渣の違いなども興味深かった。今後はこれらの蓄積をさらに活かしていきたい。

静岡県藤枝市には、以前、食品ロスの講演に呼んで頂き、300名以上が集まって下さった。今でも藤枝市が熱心に食品ロスに取り組み、当時の担当者の後任の花澤氏にお会いできたのは、とても嬉しかった。

赤松先生は、「絵が上手なら、紙芝居を買わなくてもいいですよ」とおっしゃっていたが、とてもいい内容だし、行動科学に基づいた内容なので、ぜひ入手したいと思って健学社に注文した。小学校低学年などを対象にし、わかりやすい内容になっている。

子どもたちが、体調が悪くても学校給食を全部食べることに頑張る、という調査結果は、かなり衝撃だった。最近は、大人の世界でも、理不尽な指示に対し、自分の心身の健康を壊してでも無理して頑張る大人も多いのではないか。いくら生活の糧のためとはいえ、このような傾向は、子どもの頃から無意識のうちに培われているのではないだろうか。考えさせられた。

関連記事:

環境省平成29年度学校給食の実施に伴い発生する廃棄物3R促進モデル事業報告「食品ロスと子どもの教育」

開催概要:

平成30年度学校給食の実施に伴い発生する廃棄物の3R促進モデル事業報告会「食べ残し削減と子どもの食育」

1.開催日時・場所

日時:平成31年2月28日(木) 13:30~16:00(受付開始 13:00)

場所:フクラシア浜松町 

所在地:東京都港区浜松町 1-22-5 KDX浜松町センタービル6階 

 

2.報告会テーマ

  食べ残し削減と子どもの食育 

~モデル事業の実践例とエビデンスの活用に向けて~

3.プログラム

13:30-13:35 開催挨拶(環境省)

13:35-14:35 基調講演

「学校給食の食べ残し対策の新たな視点- 教育的アプローチと環境的アプローチ- 」 

お茶の水女子大学 基幹研究院 自然科学系 赤松 利恵教授

14:35-14:50 モデル事業報告1

「ふじえだっこ 食べ物を大事に"いただきました!"モデル事業」

藤枝市 環境水道部 環境政策課

14:50-15:05 モデル事業報告2

「おとふけ学校給食フードリサイクルプロジェクト」を実施して

音更町 教育委員会 教育部 学校教育課

15:05-15:15 休憩

15:15-16:00 質疑応答・パネルディスカッション

        「効果的な取組の工夫とは?データ活用のメリット・課題とは?」(予定)

16:00  閉会

16:00-17:00 平成31年度モデル事業相談会

※自治体関係希望者のみ(参加申込書にて要事前申込み)

4.主催等

  主催:環境省

  事務局:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社