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デジタルビジネスを創造するための発想法 手段先行型の日本人に向けて

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(提供:PantherMedia/イメージマート)

 日本にイノベーションが生じなくなったと言われて久しい。とりわけICTの発展以後は、日本発の目覚ましいビジネスが生まれたことは、ほとんどなかったといえよう。

 かねて筆者は、その理由について、イノベーションを技術革新と単純に訳してしまい、その「技術」を科学技術やエンジニアリングとして捉え、経営や創造の「技術」には目を向けてこなかったことに一因があると考えていた。実際に、ビジネスの創造に携わる人たちの多くは、イノベーションが生じるプロセスについて理解していない。

 また、たとえ理解し、実行に移す者がいたとしても、所属する企業のトップが無知であったり、組織の制度や仕組みが適さないことによって、せっかくの芽が摘まれてしまうことさえある。結局のところ、イノベーションは既存の仕事とは異なる、独立したプロセスや考え方、組織体制においてのみ、生じるのである。

 このような状況が続けば、日本はますます他国に遅れてしまうばかりである。当記事では、日本の現状を踏まえながら、どのような発想によればビジネスが生じやすくなるのかについて、述べていきたい。

デジタル「化」を意味づける

 昨今、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が流行っているが、とどのつまりDXとは ①変革を ②デジタルなテクノロジーで実現すること である。よってそれは、デジタルな技術を用いてイノベーション(革新)を起こすことと考えて、およそ差し支えない。あるいは、革新つまり新たな価値創造の結果として、社内外には変革がもたらされる。したがってDXには、なによりもまず、イノベーションの原理を知ることが必要である。

 しかしながら、マスコミや政府などは、DXを「デジタル化」とばかり捉えてしまう傾向がある。したがって、たんに黒板を電子黒板「化」したり、紙文書を電子「化」したりすることを目指してしまう。あるいは、iPadを配りさえすれば、何か新しい価値が創造されるのだと錯覚してしまうのである。すでにお分かりのように、それらはあくまでも、変革を目的としたときの、手段である。目的が存在しないとき、手段は有効活用できない。

 そうはいっても、この何十年もの間、わが国では目的なき手段の発案が行われてきた。これは、日本の教育において目的を見出す訓練がなされなかったことが、一因である。いずれにせよ、現在の日本人は手段から目的を見出すことのほうが、得意である。よって現実解として、「デジタル化」を起点としてDXを発想する方法を講じたい。

 一口にデジタルといっても、その範疇にはAIやIoT、ビッグデータなど、多様なデジタルがある。したがって、よくよくDXに取り組みたいという企業があるが、DXの何に取り組みたいのか、何をどう活用して変革につなげたいのかを想定しなければ、DXは不可能である。さらにいえば、AIやIoTなどは大きなコンセプトにすぎず、漠然としている。それらを構成する諸要素についても、把握しておく必要がある。

 発想法は、次のようになる。「〇〇が××化したら、いかなる変化が生じるか」。年配の方には、「電化」のときと同じように発想することをお勧めしたい。歯ブラシを電化させたら、自転車を電化させたら、ベッドを電化させたら、誰が、どのように喜ぶであろうか。喜ぶ人の顔が浮かんだとき、それは価値のある「電化」といえる。デジタル化の場合も同じである。

 デジタル技術の可能性を広げるには、過去の記事のなかでも取り上げた、MFTフレームワークが有効である。特定のマーケットに限定すると、テクノロジーは少数の目的にしか活用できなくなる。一方、テクノロジーとマーケットの間にあるファンクション(機能・役割)に着目すれば、技術を活用できる場面を広く検討することができる。あるいは、様々な場面を思い浮かべ、特定の技術をいかに活用するかを考えることで、新しいビジネスは創造される。

 手段先行型の日本人の場合、事例やアイディア集などを活用するのも有効であろう。それらを見ながら、自分たちの会社であれば、どのようなDXができるのかを考えるのである。ただし、事例は過去のものであり、また必ずしも自社に有益とは限らない。かくして日本人は、よりよい効果を得られるように、手段を改良するのである。セオドア・レビットは、これを創造的模倣と呼んでいる。

本来のイノベーション・プロセス

 上記のような方法でも、新しい価値を創造することはできる。しかしこれは、あくまでもハウツーであるし、それゆえに視野が狭い。それでは変革というよりは、改革のレベルに限定されてしまうであろう。

 本来のイノベーション・プロセスにおいては、何よりもまず、変化を捉えることが重要である。ドラッカーの言葉でいえば、すでに起こった変化や起こりつつある変化を、意識的かつ組織的に探すことである。すなわち、すでに起きてしまい、もとに戻ることのない変化、しかも重大な影響力をもつことになる変化を捉えることである。そうすることで、到来する未来に向けて、いかに振る舞うべきかを考えることができる。

 SF作家のウィリアム・ギブソンはいった。「未来はすでにここにある。いまだ行き渡っていないだけである」。重要なことは、変化の先の世界に関するインサイト(洞察・識見)をもち、自らビジョンを描くことである。つまり、未来を眺める目を養うために、多くの時間を費やすことである。

 安易にハウツーに走り、奇抜なアイディアで勝負するよりも、未来への明確なプロセスを描いたほうが、成功確率は高くなる。一つひとつのイノベーションは、ビジョンを実現するための、手段にすぎない。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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