夏の定番「冷やし中華」 原料高騰のなかスーパー、コンビニ、外食各社はいくらで販売?
冷やし中華、新たなる一歩
「冷やし中華」が5月の末から、スーパーでは一斉に売り場に並ぶようになった。
この図でもわかるように5月から気温が上がるとともに検索数が増え、8月でピークとなる。
とはいえ、今年の初めから、スーパー関係者によると「冷やし中華の開発なんですけど、卵不足で錦糸卵が使えない。他のスーパーではどうなっているのでしょうかね」。
確かに卵は、ノロウイルスの問題から、今年の6月の初めまで、供給が難しくなり、卵メーカーが出荷停止をした。これにより卵はもとより、錦糸卵も供給不足となったのだ。今も高止まりであり、一時期、卵の価格が2倍になったのだ。ようやく2023年8月2日にキユーピーは業務用液卵の供給ストップを解除すると発表した。これまで多くの食品企業、外食企業、スーパーでは、定番の商品が販売できなくなったり、具材の変更が強いられたりしてきた。
卵不足長期化/外食 小売り試行錯誤
2023.05.04 神奈川新聞本紙
鳥インフルエンザの感染拡大で鶏卵の供給不足が長期化し、影響は県内の外食や小売店にも広がっている。各店は卵メニューのレシピや内容を変更し、半年以上先と見込まれる供給回復まで試行錯誤してしのいでいる。(川島 秀宜)
加えて、他の原料も軒並み価格がアップしたこともあり、いろいろな具材が入っている「冷やし中華」は、原価調整が非常に難しい。まず主役である麺は、使用される小麦粉が22年4月期の国の譲渡価格が17.3%、その後、さらに23年4月期では5.8%アップしている。そのため、麺そのものの価格が上がっているのだ。使用される具材のハムの値上げは、23年1月までに22年から3度実施された。これ以外にも物流、人件費が上昇している。
そこで冷やし中華の価格を見ると、関西、関東、いずれにも出店している大手スーパーL社では、同一商品は、22年の321円(本体価格)から23年は358円と37円アップしている。この他に、関東で出店攻勢しているS社は、22年の321円からg数を減少させつつ、23年では価格を458円に。関西のスーパーH社は、22年の344円から23年には398円となっている。東西、いずれも価格をアップしているのだ。
しかし23年の売り上げをスーパーのバイヤーに聞くと、価格は上がっているものの、昨年同様、「全体的に麺は至って好調で冷やし中華も良く売れている」と言われる。
さて今回、取り上げた「冷やし中華」。
今回は以下の事柄について、紹介したい。
・定番の商品なのに、陳列していない業態もある。その理由。
・具材が多いため、原価調整が難しく、原料が高騰している今、各社の価格、そしてg数の動向。
「麺は売れない」という固定概念からの脱却 スーパーの新たなる麺開発
これまでスーパーの麺はさることながら、「冷やし中華」は、売り場に置いたとして、売り上げは芳しくなかった。安価な「冷やし中華」を外注にしたことで「安かろう、まずかろう」ということから売れなかったのだ。
バイヤーに聞くと「麺は売れないので」と即答。麺商品そのものを廃棄の怖さから、あまり積極的に販売をかけていなかった。そのため、冷やし中華を含む麺商品は、売り場の端のほうに申し訳程度に並べることで、さらに視認性は低くなり、売れないという悪循環に陥っていたのだ。しかし、とあるベンダーが工場に製麺機を入れたことで、麺そのものも大きく改善され、販売数が好調になることが判明したのだ。
さてスーパーというのは、面白いことに、スーパー同士で情報を惜しげもなく教えあうことが多い。これは他の業界では、あまり聞いたことはないが、スーパー企業同士が「試売したら、○○が売れたよ」と教えあうのだ。
ちょっと話は脱線するが、「かき揚げ」を揚げる際、なかなか綺麗な形に仕上がらず、パートさんに教育するのがそれはそれは難しかった。そこで、とある関西のスーパーがかき揚げ用の型(その容器にかき揚げの具材を流し込む)を開発し、綺麗に成型したかき揚げが出来上がったのだ。たまたま、そのスーパーに見学に来た他のスーパーのバイヤーが商品を見て、「どうしたらあのような綺麗なかき揚げができるのか、教えてほしい」と頼まれたようで、親切に他のスーパーにその型(結構、かさばる)を送ってあげたそうだ。このようにスーパー同士、至極、仲が良い。
ということで、麺の話に戻ると、「自社製麺機を導入すると、粗利もとれ、売れる」とメーカーから聞くと、たちどころに各スーパーにその情報が流れ、スーパーでも自社のセントラルキッチンがあるところは、製麺機を入れ始めたのだ。すると当然のことながら、商品もグレードがアップし、価格もこれまで200円台だったものがその商品力に見合った300円台にアップしたのだ。結果、売れるようになった。そのようなこともあってスーパーの和の麺は、随分、改良された。一方、「冷やし中華」は、多くの具材を使用し、原料が高騰しているなか、具材一つ一つの原価調整が難しい。さらに他の麺より、野菜(きゅうり)も生で入っていることから、衛生もきちんと踏まえないといけない。これらのポイントをすべてクリアし、味とのバランスも踏まえ、ようやく美味しい「冷やし中華」になる。
それぞれの価格について、従来通りの価格設定のスーパー
さて「冷やし中華」の価格を見ると、興味深いことは、下記にある図を見て、わかるように、全体的にスーパーの「冷やし中華」は、コンビニより価格が低いことである。これまでスーパーの弁当や惣菜は、日常食であるため、コンビニより100円安いというのが、ごく当たり前であった。しかし今、原料が高騰し、あらゆる商品が値上げを断行しており、スーパーの弁当価格は、コンビニより高い価格の商品もあるのだ。そして顧客にその価格を納得してもらうために、スーパーの方針は「価格から価値」に変化している。勿論、原料の高騰が後押ししているのだが、冷凍食品の台頭から顧客は、家庭で作られない、レストランの味を求めるようになったことも大きいと言われている。
さて次に今回、調査したスーパー、コンビニ、そして外食の「冷やし中華」の価格を見る。
スーパー(11社)
・ミニサイズも入れて、298円から498円。
コンビニ(4社)
・ミニサイズも入れて390円から580円となっている。
つまりスーパーの上限価格は100円安く、従来通りの価格設定となっている。
外食(3社)
・幸楽苑820円、バーミヤン755円、れんげ食堂670円
スーパーで販売されている「冷やし中華」の裏面記載を見ると、まだまだ自社の工場で製麺機を入れていないことから、外注の商品を使用しているスーパーもあり、それもあって、今までのようにコンビニより、100円安い価格となっているようだ。
そこでスーパーにおける「冷やし中華」のなかで、まず注目した商品を取り上げてみた。
ヨークベニマルの「冷やし中華」
ヨークベニマルは、福島県を中心に展開しているスーパー。惣菜で使用原料は、原産地までさかのぼり、糖度なども均一にし、味がぶれないように徹底した管理がなされている。ここまで徹底しているスーパーは、皆無であり、素材を徹底しているため、味付けはシンプルでもおいしい仕上がりで販売数が見込めるという考えである。ここにきて、さらに磨き込みが始まり、今、レストランの味の再現を追求している。そして麺は、製麺機を入れ、丁寧に作り上げている。
ヨークベニマル 5種具材の冷やし中華380円(本体価格)
自社製造であることでようやく実現する価格。麺はほぐれやすく、たれとの絡み具合も程よい。たれは、甘味があるではある一方、口に残らないすっきりとした仕上がりとなっている。暑さからか、酸味の強いもの、甘味の強いものとどちらかに傾く仕上がりが多い。ヨークベニマルでは、バランスが非常に良い。そこで1g当たりの単価が同じスーパーHと比較した。そこで分かったことは、スープの量は、ベニマルがスーパーHより1.5倍となっており、麺はH社より8割ほど少なくしていることで、ほぐれやすい。5つの具材のトータル量は、H社の倍となっていることから、口に入れた時、いろいろな具材の味が混ざりあい、美味しさとなっている。さて錦糸卵は、しっとりとした甘めに仕上げている。工場製造であるがゆえに、錦糸卵は、ベニマルはスーパーHより3倍の量を可能としている。具材は5種で、他のスーパーでは6種、もしくはそれ以上である。原価を踏まえると、あまり具材の種類が多すぎるのは、調整ができず、美味しさにつながりにくい。
ライフの「冷やし中華」
ライフは、コロナ禍でも関西、関東いずれも出店しており、最近では300店舗目となる「セントラルららぽーと門真」を4月17日に出店している。
「冷やし中華」は、外注のもの、店舗内での調理した商品を展開していた。この「冷やし中華」358円は、店舗内の具材を上手に入れて製造されていることから、9種類もの具材を入れることを可能にした。上から見ても、綺麗にぎっしりと具材が敷き詰められているため、ボリューム感がある。それで全体量は少量ではあるものの、満足できるのだ。麺は表面がつややかで食べやすい。
コンビニ
セブン-イレブンは、スモールポーションにすることで、これまでより低い価格設定の商品も展開している。
セブン‐イレブン 7種具材のミニ冷やし中華390円マヨ付(本体価格)
冷やし中華は、このミニサイズ390円と通常サイズ580円の2種類となっている。
包材は、「9種具材の冷し中華マヨ付」580円は、面を大きくしている。これにより、ボリューム感を出している。セブン‐イレブンは、緻密に商品を作り上げることで定評があり、ここでも本領発揮。麺は弾力性があり、モチッとした食感。賛否両論があるかもしれないが、このような食感は、他社ではないこと、元祖の味を忠実に再現しているのかもしれない。麺だけでも他社との差別化につながる。
惣菜専門店、並ばない「冷やし中華」
これまで夏にむけて、弁当専門店のいずれもが、冬から「冷やし中華」の開発を手掛けていた。全国に店舗がある弁当専門店では、地方によって、味を微妙に変えている。しかし今、大手弁当専門店3社では、「冷やし中華」そのものがメニューにないのだ。取引メーカーに聞くと「店舗内での盛り付けを考えると、多くの具材は作業効率が悪く、粗利がとれる弁当に注力したほうが良いと踏み見切ったのだろう」。
外食 テイクアウト、消極的な冷やし中華
外食チェーンの「冷やし中華」は、テイクアウトでの販売は少ない。コロナで外食は、大ダメージを受け、多くの外食産業は、藁をもすがる思いでテイクアウトに参入した。しかし今、顧客が外食に戻りつつあるなか、店舗内での提供とテイクアウト、この両方を一度に店舗内調理ですると、オペレーションが回らなくなってきており、テイクアウトがむしろ足かせになっているところもある。そこでテイクアウト商品は、オペレーションが回りやすいものに絞られている。冷やし中華は、定番であるものの、季節の商品であるため、店舗内での教育を随時しなければならない。その上、盛り付けが多く、人時生産性は低くなり、外したようだ。そんななか、テイクアウトでも「冷やし中華」を対応している3社を調査。幸楽苑820円、バーミヤン755円、れんげ食堂670円(オリジン東秀)。
今回は、オリジン東秀の「れんげ食堂」で販売されている「冷し中華」670円に注目した。
れんげ食堂 冷し中華(醤油)670円
れんげ食堂 6品目の冷し中華(胡麻)670円
オリジン弁当では「冷やし中華」は発売されていない。しかし、別業態の「れんげ食堂」で「冷し中華」670円を販売。他社との違いは、中食で培ったノウハウが随所に感じられたことだ。
まず容器は、スープと麺を分けて提供。具と麺の入っている容器は、底が広いため、箸が入りやすく、食べやすい。その上、移動中、こぼれないようにしっかりとビニール袋で包まれている。味は、最近、スーパーの冷やし中華、コンビニの多くは、スープは醤油味1本である。しかし「れんげ食堂」では、胡麻と醤油の2種類となっている。具材は、6種類。具材は、いずれも劣化しにくいものを選択している。そして、他社では見かけないシイタケの甘煮が具材に入っており、他の具材と合わさることで絶妙の旨みを生み出している。
麺は、細麺を使用しているためか、サラサラと食べやすく仕上がっている。
冷やし中華の今後
「冷やし中華」は、夏の定番である一方、今、弁当専門店、外食企業ではメニューから外しているところが多く見かけられた。つまりいきつくところ、購入先がスーパーとコンビニに絞り込まれ、この両者の戦いとなるであろう。今、コンビニでは、スーパーの価格を意識してか、「冷やし中華」はポーションを変更しつつ、価格を下げる傾向になっている。一方、スーパーに目を転じてみると、価格をアップしているとはいえ、まだまだコンビニ価格より100円低い。つまりまだまだ伸びしろがあり、今後、スーパーの冷やし中華の価値を上げるためにも価格を上げ、さらなるブラッシュアップをするだろう。すると、自ずとコンビニとの競争は激化する。競争の激しい環境のなか、より優れた「冷やし中華」が生み出され、顧客にとって今まで以上の良質な「冷やし中華」に出合える機会が増えるのではないだろうか。