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新たなる救世主:コメ高騰を乗り越えるスーパーのバーガー戦略

池田恵里フードジャーナリスト
小麦の譲渡価格の下げ、外食の値上げから、コメからバーガーへ。(写真:アフロ)

コメの高騰 価格の変更を余儀なくされる

新米が出回った今も、コメの価格は一向に下がらず、キロあたり約500円となり、約3割から4割の値上げが続いている。各スーパーでは、コメを使用した惣菜商品に関して緊急に方針の変更が迫られているのだ。

「もう398円の弁当の販売は厳しい」
「主力商品である弁当の値上げは、お客様が購入してくれなくなるかもしれない」

有名ベンダーでは、低価格弁当の提案に定評があったが、従来の398円弁当は困難となり、苦渋の決断で価格を498円に引き上げるしかないと言われる。さらに、単一米ではなく、アメリカ産のコメを混ぜて提供しているとのこと。

さらに、あるスーパーでは、これまで銘柄米を使用していた売れ筋弁当が、コメの高騰により状況が変わり、180gだったご飯の量を150gに減らす措置を取っているのだ。

実際の売り場での弁当価格の変動

例えば、関東の優良スーパーの2024年4月と9月の価格を比較すると、同一弁当の価格が398円から498円へ、カツ丼は486円から580円へと、それぞれ100円近くの値上がりをしている。このように弁当は主力商品であるだけに、惣菜の利益率にも大きな影響を与えているのだ。

コメの価格がここまで上昇している今、各スーパーは何とか販売を続けているものの、すべての原材料が上昇し、人件費や物流コストの増加も加わることで、量目の変更だけでは解決できない問題に直面しているのだ。

スーパーの惣菜売り場に見られる主食の変化 それがバーガー

小麦の譲渡価格が、3期連続下げ

一方、コメの高騰に対し、小麦の譲渡価格は3期連続下がっている事から別の変化をもたらしている。

日清製粉とニップンは11日、うどんや菓子などに使う業務用の中力系・薄力系小麦粉を来年1月4日納品分から値上げすると、それぞれ発表した。工場での電力費の上昇などを踏まえた。日清製粉は25キログラム当たり65円、ニップンは同70円引き上げる。一方、政府による輸入小麦の売り渡し価格改定を受け、パンなどに使う強力粉は両社とも45円値下げ。国内産小麦100%は日清製粉が20円、ニップンが25円下げる。(時事通信社)

そしてこれにより、売り場の変化を見受けられるようになった。

それがバーガーの出現である。

今年の初めから、スーパーの惣菜売り場の隣にバーガーが並べられるようになり、好調な売上を見せているのだ。

某メーカーは、「外食のバーガー専門店が値上がりしたことで、消費者がスーパーのバーガーにシフトしている」と分析している。

そして、これは2024年1月24日のマクドナルドの値上げが大きいとされる。

マクドナルドは原材料の高騰や人件費・物流費などの上昇などを理由に、きょうから「ビッグマック」や「てりやきマックバーガー」など約1/3のメニューの店頭価格を10円~30円値上げする。「ハンバーガー」は170円(税込み)で据え置き。「ビッグマック」は450円→480円(税込み)、「てりやきマックバーガー」は370円→400円(税込み)に値上げ。ビッグマックは1号店オープン当初は200円、バブル期には380円になった。デフレの影響で2003年に最安の199円になり、そこから値上がりして一昨年以降は400円台だった。

(2024.01.24 よみうりテレビ ZIP! 参照)

スーパーのバーガーが救世主に

実際、バーガーを販売するスーパーに聞くと、売上は非常に好調であるとのこと。あるスーパーでは、昨年398円だった価格を298円に下げ、さらにアイテム数(SKU)を増やした結果、売り上げが大きく伸びている。

そこでスーパー各社にヒアリングをすると、バーガーの売り上げ好調の背景には、これまでの愚直な商品のブラッシュアップがあり、スーパーによっては、店舗内でブレンドし、発酵させ、提供していたり、またセントラルで前日に発酵し、成形して焼き上げたパンを店着しているところもあり、様々な工夫が見受けられたのだ。これが相まって、バーガーの売り上げを牽引していると言う。

平和堂「半熟卵とデミグラスソース」本体価格298円(筆者撮影)。
平和堂「半熟卵とデミグラスソース」本体価格298円(筆者撮影)。

ヨークベニマル「うま辛チキンバーガー」本体価格320円(筆者撮影)。
ヨークベニマル「うま辛チキンバーガー」本体価格320円(筆者撮影)。

ライフ「ぷりぷり!海老カツバーガー」本体価格238円(筆者撮影)。
ライフ「ぷりぷり!海老カツバーガー」本体価格238円(筆者撮影)。

オーケー「フィッシュフライサンド」本体価格169円(筆者撮影)。
オーケー「フィッシュフライサンド」本体価格169円(筆者撮影)。

そして自社で作ることで原価を下げつつ、品質の良いパンを提供できるようになったのだ。

外食の値上げが進む今、スーパーのバーガーが消費者にとって魅力的な選択肢となる流れを生んだと言える。

店舗内調理のメリット

しかし、店舗内調理には人手不足という問題も依然として残っている。

これについては、店舗内調理のメリットは、従業員にかかる負担の軽減することだ。

工場では、一度に100食程度の大量生産を行うため、従業員にとって、大きな負担となるが、店舗内調理では、1店舗あたり10食程度の少量生産で済むため、負担が軽減される。

余談ではあるが、以前、ラザニアの導入を工場で試みたものの、生地を重ねるだけの工程でも従業員にとって負担となり、結果的に導入が見送られたこともあった。これに対し、店舗内調理では少量製造で効率的なオペレーションだとラザニアも売り場に並べるのだ。

これはバーガーの販売にも当てはめられる。

シズル感のある盛り付けと商品の扱いやすさ

さて売り場を見ると、スーパーのバーガーの良さは、レタスを入れることで華やかさを演出し、ボリューム感さえもアピールできる。そしてすっかり定着されたピザなどに比べても劣化が遅いため、売り場での扱いやすさが魅力となる。

さらに店舗内調理は、コンビニやドラッグストアでは難しいことから、スーパーのバーガーは大きな武器となる。

米関連商品の価格動向と客単価対策

さて次に惣菜における、バーガーの価格帯を見てみよう。

関東・関西のスーパーの9月の調べでは、おにぎりの価格は99円から、弁当は398円から698円と幅広い価格帯で販売されている。しかし、250円から300円の価格帯の商品が不足しているのだ。

つまりバーガーの価格は、この空白(200円後半から300円前半)を埋める存在となりえる。

客単価低迷対策

ただし、バーガー1本だと、弁当の価格398円より低く、客単価が下がり気味になることも懸念材料だ。

それを解消すべく、最近では、東京の優良スーパーでは、スープとバーガーをセットにした498円のメニューが登場し、客単価を上げるための戦略も出始めたのだ。

因みに売れ筋の時間帯を見ると、昼食需要だけでなく夕方の販売も好調とのこと。

新たなる救世主、それはバーガー

コメの高騰により、惣菜粗利は厳しい状況にあるが、その対抗策として、バーガーは今、救世主になりうる存在なのだ。パンの粗利を活かし、消費者にとって手頃で魅力的な選択肢を提供することで、売り場の活性化に成功している。逆境に直面している中でも、スーパーの提案はそれをプラスに転じる力を示しており、その底力さえも感じさせる。

フードジャーナリスト

神戸女学院大学音楽学部ピアノ科卒、同研究科修了。その後、演奏活動,並びに神戸女学院大学講師として10年間指導。料理コンクールに多数、入選・特選し、それを機に31歳の時、社会人1年生として、フリーで料理界に入る。スタート当初は社会経験がなかったこと、素人だったこともあり、なかなか仕事に繋がらなかった。その後、ようやく大手惣菜チェーン、スーパー、ファミリーレストランなどの商品開発を手掛け、現在、食品業界で各社、顧問契約を交わしている。執筆は、中食・外食専門雑誌の連載など多数。業界を超え、あらゆる角度から、足での情報、現場を知ることに心がけている。フードサービス学会、商品開発・管理学会会員

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