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ドラッグストアが食品に力を入れ始めたわけ 家計調査、在庫効率からみる

池田恵里フードジャーナリスト
ドラッグストアは、今やスーパーの様相(筆者撮影)

ドラッグストアが食品に力を入れる背景

「店舗内、さながらスーパーですよ」とスーパー関係者。

ドラッグストアの店舗内は、生鮮食品、惣菜が並べられており、その言葉通りである。ようやく、スーパーもドラッグストアを脅威に感じ始めたようだ。

コロナ前、コロナ後の購買の変化

同一商圏内にドラッグストアがあれば、痛手を負わないことはないとさえ言われるようになったのだ。

では、ドラッグストアがなぜこれほどまでに食品に力を入れるようになったのだろうか。

高齢化が進展し、都市部の小商圏化が進む中、従来の粗利益率が高い商品(医薬品や化粧品など)だけでは、十分な売上を確保することが難しくなったと大筋との見解である。

しかし、それだけではない。

コロナ禍で消費者の購買行動が変化したのだ。

これまでドラッグストアは、回転率は低いものの、高い粗利益を確保できる医薬品や生活必需品、そして化粧品が主力商品であったが、それが減少したのだ。

総務省統計局の家計調査でも如実に表れている。

総務省統計局の家計調査によるコロナ前、コロナ後の頻度における増減(筆者作成)
総務省統計局の家計調査によるコロナ前、コロナ後の頻度における増減(筆者作成)

この調査から作成した図を見ると、

二世帯、単身世帯、コロナ前とコロナ後を比較し、減っているもの

・テイッシュペーパー、トイレットペーパー、洗剤、化粧品など

二世帯、単身世帯、コロナ前とコロナ後を比較し、増加しているもの

・豚肉、冷凍食品、サラダ、生鮮肉など

コロナ前とコロナ後を比較し、減少した商品は、ドラッグストアの来店動機になる商品であり、ドラッグストアの主要顧客である女性が購入する化粧品は、コロナにより外出しなくなったことから、購入減少となったのだ。

コロナ前よりコロナ後に増えた商品を見ると食品であること。

増加した商品、つまり食品を導入することで回転率を高め、来店頻度を増やす。

これがドラッグストアが食品に注力するようになった所以である。

食品比率を高めるメリット

しかし、ここで疑問を持たれる方もいるだろう。

本来、ドラッグストアで購入される商品は、回転率は低いが粗利を稼ぐ商品である。その上、何といっても腐らない。

薄利の食品をいれることで採算がとれるのか

対して、生鮮食品は回転率は高いとはいえ、管理は難しく、薄利である食品を入れて、果たして採算はとれるのだろうか。

回転率がアップ、在庫効率(GMROI)は3倍

そこで在庫の売価ベースでの評価を重視する指標、所謂、在庫売価比率で計算すると、従来の非食品で構成されていたドラッグストアより食品を6割投入すると、回転率は1.6倍、在庫効率は3倍強となる。

しかもスーパーの在庫効率より高い結果となるのだ。

この数字でみても、ドラッグストアが食品を入れる意味がうかがえたのだ。

限りなくロスを減らす

最近では、食品が商材の6割を占めるドラッグストア(ゲンキー、コスモス薬品)は、賞味期間が長く保てる窒素充填や冷凍食品を積極的に取り入れ、在庫管理を容易にし、廃棄コストも抑え、競争力を強化しているのだ。

その結果、2019年の調べでドラッグストアは、男性顧客に力を入れ始めたことで、週1のリピートする率は男性の顧客が同世代の女性顧客より上回ったのである。

進化するドラッグストアの「食品売り場」 コロナ禍でも売上堅調な背景は

今後のドラッグストアとスーパーの競争

では、スーパーとドラッグストアの境界線が曖昧になりつつある中、今後の課題はどうなのだろうか。

スーパーはこれまで、店舗内調理や豊富な品揃えを武器にしてきたが、人手不足という問題に直面している。それもあって、急ピッチで工場製造をより高度な機械化の導入に踏み切っている。そして、今まで以上に生産性を高め、工場で製造された商品が以前より画期的に良くなっているのだ。事実、工場で製造された弁当が売り上げ好調の企業もある。一方、ドラッグストアも食品比率を高め、自社工場を建築しているのだ。

当然のことながら、両業態の競争は、ますます激化すると予想される。

ただドラッグストアにも弱点はあり、コスモス薬品関係者の言葉が印象的だ。

「店舗内調理ができないことから、価格でしか勝負できないのです」

それぞれの業態の強み、弱みを直視し、弱みをカバーする、強みを強化した商品に落とし込むことが出来る企業が生き残れるのではないだろうか。

フードジャーナリスト

神戸女学院大学音楽学部ピアノ科卒、同研究科修了。その後、演奏活動,並びに神戸女学院大学講師として10年間指導。料理コンクールに多数、入選・特選し、それを機に31歳の時、社会人1年生として、フリーで料理界に入る。スタート当初は社会経験がなかったこと、素人だったこともあり、なかなか仕事に繋がらなかった。その後、ようやく大手惣菜チェーン、スーパー、ファミリーレストランなどの商品開発を手掛け、現在、食品業界で各社、顧問契約を交わしている。執筆は、中食・外食専門雑誌の連載など多数。業界を超え、あらゆる角度から、足での情報、現場を知ることに心がけている。フードサービス学会、商品開発・管理学会会員

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